26.雪とともに訪れた再会①
「ロゼリア、手間をかけさせるな」
みんなのところに戻るや否や、ディディエに呆れ声を向けられた。
カチンと来てしまい、ディディエを思いっきり睨む。こいつ、本当にムカつくわね……。
「あんたたちがどんどん進むからでしょ!」
「はぐれたのはお前だろう? 他人の家とは言え、庭で迷子なんて子どもじゃあるまいし……」
「あたしは招かれた側よ!? ゲストを気にするのはあんたたちの義務でしょうが!」
「オレがお前を招いたわけじゃない」
「あんたねぇっ……!!」
思わず声が大きくなった。ディディエはツンとした態度でそっぽを向く。
ぐっと握りこぶしを作ったところで、あたしとディディエの間にザインがすっと割って入った。
「やめろよ」
くだらないと言わんばかりの顔であたしとディディエの顔を交互に見る。
ザインの後ろではカミルが「まぁまぁ兄様」と苦笑している。あたしの隣ではジェイルが「落ち着いてください」と小声で囁いた。
言い合いをしたいわけじゃないのに、ディディエが突っかかってくるからよ。
他の人間越しにディディエと目が合う。
瞬間、バチッと火花が散り――あたしもディディエも同時に「フン」と鼻を鳴らして顔を背けた。
周囲からこっそりため息が聞こえてくる始末。
でも、今のはどう考えてもディディエの言い方が悪かったでしょう?!
「……あれで昔どうやって付き合ってたんですか……?」
「おれが知るわけねーだろ……」
アリスとメロのひそひそ声、ユウリの「こら!」という声が聞こえる。思わず睨むと、ディディエも同じように睨んでいる。三人は何事もなかったかのような顔をしていた。
ザインがゆるゆると首を振ってからあたしを見る。
「まー、本格的に迷わなくてよかったわ。とりあえず、もう戻ろうぜ。外に出て冷えただろうし」
「……ええ、そうさせてもらうわ」
確かに寒かったわ。すっかり体が冷えてしまった。
あたしたちはザインに言われて、元の応接室へと戻っていく。
部屋に戻ると温かいお茶が用意されていた。
なんだかんだ全員寒かったらしく、お茶の入ったカップで手を温めるという行動を取っていた。あたしも例外ではない。……というか、こんなに寒い中、付き合わせてちょっと悪かったわ。
大して収穫もなかったしね。
ザインへの返事も答えを出さなきゃいけないのに。
そう思ってザインに視線をそっと送ると、彼は意味ありげに笑った。
すぐに視線を逸らし、どうしようかと考え込む。
お茶を飲みながらアリスが「はい」と手を上げた。
「ザイン様、聞いてもいいでしょうか?」
「お? 何? 俺様の好きなタイプの話?」
「いえ、違います。興味ないです」
アリスにばっさりと切られてザインが肩を竦めた。ディディエとカミルがおかしそうに笑っている。
「庭にあるギャラリーの修繕はいつからやられてるんですか?」
「あー、秋からだな。古いし数もあるから結構時間かかってる。美術品の修復もあるし」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「なんか気になった?」
お礼を言うアリスに対し、ザインが首を傾げる。何か探るみたいに。
「いえ、単に管理が大変そうだと思っただけです。あれだけ維持されてるのもすごいなぁって……」
アリスの質問に特に意味はなかったらしい。職業病みたいなものかしら、気になっちゃうのは。
小さくため息をつきながらお茶を飲む。
「俺様が維持管理をしてるわけじゃねーけどな。親父がやってっけど、確かに大変そうだよ。金かかるし」
「おい、あまり金の話はするな」
「本当のことだし? 具体的な金額まで言ってるわけじゃねーんだからいいだろ、別に」
ディディエが神経質そうに突っ込む。が、ザインはどこ吹く風。カミルは苦笑していた。
……やっぱり水面下でギャラリーの維持管理について揉めてるんだろうな。
確かゲームでは、カミルはギャラリーを全て残したいと考えていたはず。
コウセイさんは半分残したい派。ヴィオレッタは縮小し、いずれは全て撤去したいという意向だった。
この件は現会長であるジョウジ様が彼らに意見を聞いていたのよね。
で、単純な多数決にもならずに更に混沌を極める、と。
そんなことを思い出しながら、彼らの会話に耳を貸していた。
「す、すみません。わたしったら、部外者なのに変なことを聞いてしまって……」
「いーって、大した話じゃねぇし。こいつがうるさいだけ」
親指を向けられたディディエがムッとしていた。
これ以上話が発展しないことに若干がっかりしながら、一息つく。
――ヴィオレッタが「いずれ全て撤去する」と言い出したことも、コウセイさんとカミルが彼女を次期会長の座から引きずり下ろしたいと考えるきっかけだった。
というか、そもそもゲームの中のヴィオレッタはお世辞にも良い姉とは言えなかったのよね。物心ついた時から弟たちを『政敵』と見做して立ち回っていたんだもの。思うところがあってもしょうがない。
けど、彼女がりょーこなら見捨てられないのよ。
「あ、雪」
「えっ?」
不意にカミルが声を上げる。
窓へと視線を向けると、雪がゆっくりと降っていた。いつから降っていたのかしら。
っていうか雪?! しかも外、結構暗くなってない?!
あたしはカップをソーサーに置いて立ち上がる。
「長居しすぎたわ。そろそろ帰らないと……」
本当はまだ居たい。けど、これ以上いたら確実に帰りが深夜になる。
あたしの言葉を聞いたジェイルたちも慌てて立ち上がった。
ザインが渋々といった様子で立ち上がる。
「メシくらい食ってきゃいいのに。用意させるぜ?」
「そこまで迷惑かけられないわ。それに、ここから九龍会までどれだけかかるか、あんただって知ってるでしょ?」
「……まぁ、そりゃそうか」
そう、九龍会と六狼会の距離はかなりある。気軽に行き来できる距離じゃないのよ。
だから、本当なら何とか居座る口実を作りたいけど……。
ザインがあたしを見る。
わかってるよな、と言いたげな視線だった。
何も言えないまま言葉少なに準備をして、応接室を出る。
玄関まで後少し、というところでザインがあたしを振り返った。
「ロゼリア――」
返事が欲しい、ということなのは察しがついた。
けど、あたしはどうしたらいいのか判断できずにいる。ジェイルにはああ言ったけど、やっぱり気が咎めるのよ。
ちらりとジェイルを見ると、彼は何も言わずに頷いた。まるで何を言われるかわかってると言いたげに。
迷いながら口を開こうとした、その時。
「ロゼリアさんッ!?」
素っ頓狂な声が玄関から聞こえてきた。
振り返ると、そこにはがっしりした長身の男性と、人の良さそうな男性二人が並んでいた。
六堂コウセイ。六堂アオ。
六堂家の長男と次男だった。
コウセイさんにとってあたしの存在はかなり想定外だったらしく、目を丸くしていた。
妙な沈黙が落ちる。
そして、コウセイさんは何かに気付いたようにハッとし、ずかずかと大股でザインに歩み寄っていく。
ザインは「げっ」と明らかに嫌そうな声を上げ、少し後ずさった。
しかし、逃げるのを許さないとばかりにコウセイさんがザインの胸ぐらを掴み上げた。
「ザイン、お前ッ……! ロゼリアさんを連れ込むなんてどういう了見してるんだ!? 九条家のお嬢様だぞ!?」
「うっせーな! あんたには関係ないだろ! ってか、親父にはちゃんと連絡してるっつーの!」
「父さんが不在なのに父さんにだけ報告して終わらせるんじゃない!」
あのザインがかなり劣勢。コウセイさんの勢いと剣幕に負けている。
っていうか、コウセイさんって先月挨拶した時は大人の男性~という雰囲気だったのに、こんな風に声を荒らげたりするんだ。
ゲームでもこんなシーンなかったからちょっと驚いてしまう。
……っていうか、二人とも周りが見えてない。
そのせいで、あたしたちは完全に置いてけぼりだわ……。




