25.冬庭で交わる思惑
カミルと共にゆっくりと歩いた。
会話が聞こえないように他のメンツと距離を取って歩く。
ジェイルやザインたち六人は何か話している。ユウリがちらりとこちらを振り返って心配そうな視線を向けて来た。気にしないで、と伝えるように軽く手を振った。
「ロゼリアさんは……能力のこと、どう思っていらっしゃるんですか?」
「……はっきり言ってもいいかしら?」
迷いながら言う。カミルは少し躊躇った後、神妙な顔をして頷いた。
「お願いします」
「じゃあ遠慮なく……」
少し緊張した。あまりカミルの機嫌を損ねるようなことはしたくないし、穏便に済ませたい気持ちがある。けど、万が一カミルが黒幕だった時のために、少しでも決意を揺らがせておきたい。
白い息とともに、言葉を吐き出した。
「時代遅れだと思っているわ」
「時代、遅れ……?」
カミルがきょとんとした。意味が分からないと言わんばかりだった。
あたしは続ける。
「遠い昔にはこの力に意味があったんでしょう。だから大切にされてきた。
けど、今その力を使って何ができるの? あたしの力なんてもう宴会芸でしかないわ」
事実を言ったつもりだけど、なんだか自虐的な言い方になってしまった……。
隣を歩くカミルは足を少し止め、信じられないものを見る目であたしを見た。同時に「宴会芸」という言い方にムッとしたのが伝わってくる。
あたしが気にせず歩くからか、カミルは早足になって追いついてきた。
「折角授かった力なのに?」
「そうは言っても、何かに役に立つ力じゃないでしょ。
血統や今の体制を大切にするのもわかるし、それはそれで意味があると思うけど……そればかりに固執するのも馬鹿げてると思う」
あたしとカミルの間に冷たい風が吹く。
カミルは何も言わず、ただ静かに歩いていた。
そっと、カミルの様子を窺う。
これまで浮かべていた人懐こそうな表情ではなく、何かを真剣に考え込んでいる横顔だった。
こっそりため息をつく。
あたしだってカミルの全てを否定したいわけじゃないのよ。ただ、「"だから"、自分が六狼会を継ぐべきだ」って思っているなら危険だと思っているだけ。――それが、ヴィオレッタを誘拐した理由なら、なおさらだわ。
直接本当のことを言うわけにもいかないから、遠回しであってもカミルをチクチクと刺激して、ボロを出すのを待ってる。
やがて、カミルがどこか遠くを見つめて口を開いた。
「……なーんだ」
つまらなそうな言い方だった。
失望を隠しもせずに大きなため息をつく。
ようやくあたしを見たと思ったら、その視線の冷たさに驚いた。
一切の興味を失ったと言わんばかりの、まるで氷のように冷えた瞳。
「話が合うかもって思ったのになぁ。……残念です、ロゼリアさん。
自分の力のことを宴会芸だなんて、そんな言い方をするとは思いませんでした」
「ははっ」と軽く笑うカミル。口調は変わらないけど、これまでと態度がガラッと変わっていた。
犬っぽさがなくなっている。――要は、あたしに対して猫を被るのをやめたんだと思う。
「……きっと意味があるはずだ、って訴えても誰も聞いてくれないんですよね。当然、それは僕が六堂家の中では『下』だからです。能力の有無なんてどうでもよくて、所謂帝王学の出来の良し悪しや適応値で測られてしまう。……正直、全員にそう差があるとは思えないのに」
淡々とした口調だった。
りょーこは「腹黒」って表現していたけど、この子はザインと似たところがある。つまり、表面上の『演技をしている自分』と、『素の自分』というものを使わけてるみたいなのよね。そして、今あたしに見せているのは『素の自分』の方だと思う。多分。
ただの独り言のようにも聞こえたから、口を挟むかどうか悩んだ末に――ゆっくりと口を開いた。
「……差がないなら、能力のある自分が会長に相応しいって?」
「あれ? そう聞こえました?」
カミルは一瞬驚いたような顔をしてから、にこりと笑みを浮かべる。
「少しだけね。この間、”後継者からは遠い位置にいたから今更”って言ってたのに、急に愚痴っぽいことを言うんだもの。
……全く興味がないとは聞こえなかったわね」
探る意味も込めてそう言うと、カミルは困ったような顔をして肩を竦めた。
「あはは。そういうつもりじゃなかったんだけどな」
そう言ってカミルはあたしから視線を逸らす。これ以上興味のない相手と話をしたくないのか、少しスピードを上げて、前のメンバーに追いつこうとしていた。
……うーん。流石にこれくらいのやり取りじゃ本心なんて探れないわね。
やっぱり圧倒的に時間が足りない。たった数時間でほぼ初対面の人間の内面を探るのは無理がある。
――ゲームでだって捜査の時間はかなりあったもの。あたしの時はなんたって半年あった。
どうにか彼らを探る時間を作りたい。
けど、そのために無関係な誰かを六狼会に置いていくのは難しい……。
顎に手を当て、俯きがちになって考えながら歩いているせいで、あたしはどんどん置いていかれてることに気付かなかった。
考えに夢中になっていると、不意に誰かの気配が近づき、ガシッと肩を掴まれた。
「お嬢様ッ!」
ハッと顔を上げると、すぐ横にはジェイルがいた。
ひどく焦った顔をして、息を切らしている。
「……え。な、何よ。どうしたの?」
どうしてこんな顔をしてるのかわからず、動揺しながら尋ねる。
すると、ジェイルは眉間に皺を寄せて思いっきりため息をついた。……失礼なやつね。
ジェイルは不機嫌さを隠そうともせず、あたしを真っ直ぐに見つめる。
「お嬢様こそ、どこに行かれようとしていたのですか?」
「どこって……」
周囲を見回してみると、見たことのない風景が広がっていた。どうやら屋敷とは別方向の道を進んでいたらしい。
……に、庭が広いのがいけないのよ。道はあるけど、あっちこっちに繋がってるし……。
そう言い訳したいのをぐっと堪えて、ふいっと顔を背けた。
「考え事は帰ってからでお願いします」
答えられなかった。
だって、ザインには帰るまでに答えが欲しいと言われてるのよ。もう時間がほとんどないわ。
――もし、六狼会に残すとしたら、ジェイルなのよね。
あいつらより年上だし、絶対に下手は踏まないだろうし……。そういう意味で、あたしが信頼している。
そう思って、控えめにジェイルを見上げた。相変わらず仏頂面で、あたしがはぐれたからか不機嫌そう。
「……ねぇ、ジェイル」
「何でしょう、お嬢様。……話は戻りながら窺います」
ジェイルがゆっくりと歩き出す。あたしがついてくるかどうかを確かめながら。
彼の一歩後ろを歩きながら、その背中を見つめる。
「何も聞かずにあたしのお願いを聞いて、って言ったら……あんたは聞いてくれる?」
僅かにジェイルの足取りが重くなった。自然と隣り合って歩く形になり、渋い顔をしたジェイルをじっと見つめることになる。
すぐ答えず、黙り込むジェイル。……そこまで悩む?
やがて、諦めたようにゆるゆると首を振り、あたしを控えめに見た。
「……内容に寄ります。と、言いたいところですが……聞いてしまうでしょうね。
今の俺に、あなたの願いを叶えないという選択肢は取れそうにないので」
不本意だと言わんばかりの表情と口調だった。それがおかしくて思わず笑いそうになってしまう。
そんな気配を察したのか、ジェイルは何か言いたげなジト目をあたしに向けてきた。
「お嬢様、忘れないでください。
俺は、六狼会には来て欲しくありませんでしたし、本当なら理由すら教えられない命令もお願いも聞きたくありません」
「わ、わかってるわよ……」
「――いえ、わかっていませんよ。お嬢様は」
ふっと笑うジェイル。呆れたような、仕方ないと言いたそうな表情だった。
あたしだってそこまで馬鹿じゃないわ。
純粋に命令だからという理由で、ジェイルが聞いてくれるわけじゃないことは、流石にわかってる。
卑怯なのは自覚してる。
……でも、それを利用してでも助けたいのよ。前世の親友を。
メリークリスマス!でした!




