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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ


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24.交わらない価値

 カミルからそっと視線を逸らし、中にあるものを眺めた。

 庭にある噴水と比べたら神聖かもしれない。けど、これに価値を感じる人ってそんなにいないんじゃないかしら……。

 そう思いながら、ゆっくりと中を歩いた。

 かなり昔に描かれた絵や彫刻、神話の中に出てくる道具をイメージした何か、そんなものが並べられている。

 確かに綺麗だけど……神話のことなんて、どんどん忘れ去られてるのよ。知らない人も多いわ。

 ここはどちらかと言うと、郷土資料館とか郷土博物館みたい。他のギャラリーがどんな感じなのか知らないけど、多分このギャラリーだけ毛色が違うんじゃないかしら。


 ザインが呆れた様子でカミルに声を掛ける。カミルは笑って肩を竦めていた。


「おめー、ここ好きだよなー。予想はしてたけどさ」

「なんかね、好きなんだ」


 微笑ましい兄弟の会話だけど、カミルの言葉はあたしに向けられているような気がした。

 彼らの会話に反応はせず、ゆっくりと歩いていく。

 龍の置物を見つけ、その前で立ち止まった。水晶で彫られた龍。……かっこいいし、綺麗だけどね。

 そう思ってこっそりため息をついてしまった。


「美術館って感じはしないッスね。……あ、龍。九龍会と一緒だ」


 つまらなさそうに見ていたメロが横に並んだ。目の前にある龍を見て楽しげに笑う。

 ふっと笑ってメロを見た。


「九龍会をモチーフに彫られたものなのよ、これは」

「へー。お嬢、なんでわかるの?」

「ここに置いてあるものを見ればわかるわ。――ほら、隣には蜘蛛がいるしね」

「……この蜘蛛めっちゃ強そう」


 金属の糸の上に宝石で作られた大蜘蛛が鎮座している。

 反対隣にジェイルが立ち、一緒になって覗き込んできた。


「これだけ集めるのは大変だったでしょうね」

「そうね。年代物もありそうだし……あんたは流石に全ての会と一致する?」


 ずらりと並べられた煌びやかな置物たち。龍、蜘蛛、狼……そして他にも六つの置物が並んでいた。

 ジェイルはこれみよがしにため息をつき、不満そうにあたしを見つめる。


「自分を花嵜と一緒にしないでください」

「おい、なんだよそれ」

「あ、わたし! わたしもわかります! 任せてください!」

「ぼ、僕もわかります……!」


 後ろからアリスとユウリが割り込んでくる。

 実際のところ、世間的にはメロくらいの認識になってる気がする。自分のところはわかるけど他はさっぱり、みたいな。

 あたしにそこまで興味はない。

 覚えなきゃいけなかったから覚えてるだけ。

 ……とりあえず、ここにヴィオレッタは監禁されてないでしょうね。ゲームの中では封鎖された建物に監禁されてた、って話だし。

 ゲームのことを考えていると、カミルがそっと近付いてきた。


「ロゼリアさん、いかがですか?」

「そうね、よく集めたなって感じかしら。流石にここまであると壮観だわ」


 そう言って笑うと、カミルは満足気に頷いた。


「でしょう?」

「あんたは六狼会の狼が好きなの?」

「うーん。狼に思い入れはありますけど、全部ひっくるめて好きですね。一つだけじゃ成立しないし……」


 ゆっくりと周囲を見回しながら、カミルが機嫌良さそうに答える。

 会の話題には食いつきがいい。それだけ彼の中で意味を持っている、ということ。

 けれど、これだけでは彼が黒幕だと断定はできない。

 カミルが龍の置物へと視線を向けるので、自然とそれを追いかけた。


「ロゼリアさんこそ、龍がお好きですか?」


 あたしの様子を窺うような視線を向けられる。ふっと笑い、肩を竦めた。


「別に。あんたと同じで多少の思い入れはあるけど、好きというほどじゃないわ」

「……好き、じゃない……?」


 訝しげな顔をするカミル。

 わけがわからないと言わんばかりの表情だった。

 ――ゲームの知識もあるから、カミルの考えはある程度想像がついた。

 『次期後継者候補』で、能力の残滓を持っている。――その自覚がある人間は、自分の会の象徴は好きで当然、みたいな感覚があるのよね。

 けれど、あたしが「好きじゃない」と言ったから混乱してるのだと思う。

 カミルを見つめ返し、ゆっくりと口を開いた。


「――あたしは、九条家に生まれて、九龍会であることの恩恵は受けてるわ。

 けど、それ以上に煩わしいことも多いのよ。……好きに恋愛できないのもその一つね」


 少し責めるように言うと、カミルが笑顔のまま固まった。

 流石に自分がジェイルたちに言った言葉は覚えてるでしょう。あと、それがあたしの耳に入ることだって簡単に想像がついたはず。

 カミルは気まずそうに視線を逸らしてしまった。


 ……あと、この場では絶対に言わないけど……。

 あたしが九条家に生まれなかったら――『レドロマ』で悪役になることも、そもそも両親が死ぬこともなかったわ。

 何不自由なく暮らせることと釣り合いが取れてるかと聞かれたら、正直否定したくなる。


 ゲームと変わらずにカミルは優生思想を持っている。

 由緒正しい家柄。優しい母親。優秀で頼れる姉兄たちに囲まれて、不自由なく暮らしてきた。

 だからこそ、というのも理解しているけど、あたしと相容れると思えないのよね。

 思わずため息が漏れてしまう。


「カミル」

「は、はい」

「あんたとあたしの考え方は違うわ。ここに案内してくれたことではっきりわかった。

 ここは素晴らしい展示だし、ぜひ残して欲しいけど……見るもの全ての心を奪うまではいかないのよ」


 そう言うと、カミルはまるで小さな子供のように拗ねた顔をした。

 背後からザインとディディエが近付いてくる。


「まーたフラれてんのかよ」

「べ、別にそういうわけじゃ、」

「お前の好みをとやかく言いたくないがロゼリアはやめておけ」

「外聞も悪ぃしな。お互いに」


 カミルの言い訳を待たずに二人が畳み掛ける。

 外聞が悪いというザインの言い分は最もだわ。っていうか今更?

 ”あたしが”六堂兄弟に手を出してると思われるのもまずいし、”カミルが”兄に二股をかけた女だと知りながら近づくのもまずい。ほんと、お互いにとって良くないのよ。

 これ以上ここにいても――と思った瞬間。


「っくしゅん!!」


 アリスがくしゃみをした。全員の視線が集まる。


「ご、ごめんなさ――っくしゅ!」

「あー、暖房ついてねぇから寒ぃよな。そろそろ戻るか」


 ザインが少し申し訳無さそうに言い、周囲を見回す。それでいいよな、と確認を取るような視線だった。

 当然、反対する者はいない。

 全員の意思確認をしたザインが大きく頷いた。


「んじゃ、戻るか。――アーリス、寒ぃなら俺様とくっついて戻る~?」

「……け、結構ですっ」


 チャンスと見たのか、ザインがアリスに近付いて声を掛ける。アリスは思いっきり引いていた。

 ザインの女性関係が派手とは聞いていたけど、アリスに声をかけるなんて思わなかったわ。最初、興味もなさそうだったし……。

 あたしは腰に手を当ててザインを睨んだ。


「ちょっと。うちの子に手を出さないでくれる?」

「出してないだろ、まだ」

「出されてからじゃ遅いのよ……! アリス、ザインに近付くんじゃないわよ」

「は、はい!」


 アリスがこくこくと頷く。他のメンツは大体呆れていた。

 そして出入り口に向かってぞろぞろと歩き出す。

 ヴィオレッタ救出のヒントはなかったけど、来てよかったわ。カミルを暴く取っ掛かりになりそうだったし。


 ギャラリーを出て、カミルが鍵をかける。残念そうにため息をついていた。

 「行くぜ」と先導するザインについて、みんなが歩き出す。あたしも行こうと歩き出したところで、ぐんっと手を後ろに引かれた。

 バランスを崩しそうになりながら振り返るとカミルがあたしの手を掴んでいた。

 

「……びっくりした。何よ」

「少し、後ろの方でお話させてください」


 カミルの顔は真剣だった。

 もちろん、断る理由なんてない。


「いいわよ」


 そう言って余裕たっぷりに笑うのだった。

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