23.鍵の先で待つもの
美術品のある建物をザイン達に案内させるつもりが……!
揃いも揃って断ってくるなんて、そんなことある!? やっぱりカミルが黒幕で、結託してるんじゃないの?
引っかるのよね、やっぱり。
あたしの疑念は今のでぐっと高まってしまった。
よし、ここはあたしの我儘さと傲慢さを発揮する時だわ。
「ちょっと。あんたが招いておいて、こっちの希望聞かないってどういうことよ」
「……マジで面倒なんだよ。修繕中ってこともあって鍵の管理も厳重だし……」
本当に面倒くさそうに言うザイン。
あたしは腰に手を当てて、大きくため息をついて見せた。
「あんた、あたしの言うことを一つ聞くんじゃなかったかしら?」
「えー? マジでぇ? それここで使う~?」
「あんまりにも嫌そうにするから無理やり言うことを聞かせたくなったのよ」
悪びれもせずに言い切った。
他のメンバーすら「うわぁ」と言わんばかりの顔をしてたけど……無視よ、無視。周りに何と思われようとも、今は情報収集に徹するの。
ザインはお手上げと言わんばかりに両手を上げる。
「……我儘すぎだろ。はー、もう。わーったよ、でも行くのは一か所だけにさせてくれね?」
い、一か所……。何とも言えない顔をしてしまう。
敷地が広くて大変なのも、鍵の管理が厳重なのもわかる(寒いのはただの我儘だけど)。
わかるけど、嫌がりすぎじゃない?!
どうしても疑って見てしまう。だから、更にツッコミたい……けど、これ以上何か言うのも、流石にまずいかしら。
あたしは渋々首を振り、肩を落とす。
「ったく、しょうがないわね。それで我慢してあげるわ」
「へいへい、ありがとうございますゥ。――カミル、鍵。好きなとこでいいぜ」
ザインがめちゃくちゃ面倒臭そうに言う。カミルも珍しく億劫そうな顔をして「わかったよ」と言って屋敷へ戻っていった。
「――って、おい。ディディエ、何逃げようとしてんだ。おめーも付き合うんだよ」
「……チッ」
しれっとカミルと一緒に屋敷に戻ろうとしたディディエの肩をガシッと掴むザイン。死なばもろともって感じだわ。
話がまとまったところで、メロたちがこそこそ話しているのが聞こえた。
「……お嬢。そんなにゲージュツとか好きだっけ……?」
「こら! 余計なこと言わないの!」
「好悪関係なく、他の会に興味を示されることは良いことだ」
「ですよね。勉強熱心で素敵だと思いますっ」
……ジェイルとアリスが好意的に受け取ってくれて安心したわ。
本当は芸術や美術品に興味なんてない。興味があるとしたら高価な宝石やブランド品ぐらい。最近は控えてるけど。
鍵を取りにいったカミルを待つつもりだったけど、ザインがゆっくりと歩き出す。
「先に行こうぜ」
「え? カミルを待たなくていいの?」
「いーよ、別に。入れるところは限られてるし、流石に今更自分ちで迷子になるほど馬鹿じゃねぇしな。
ついでにどこに何があるかガイドしてやるよ」
肩越しに振り返って言うザイン。渋々ついていくディディエ。
兄が言うならいいかとあたしたちも二人について歩き出した。
庭はだだっ広いものの、綺麗に整備されている。屋敷から続く石畳もあちこちに続いているのがわかった。
ただ、とにかく広い――。
その上、美術品が納められている建物は一つ二つじゃないのよ。
やがて屋敷から一番近いところにある建物――ギャラリーに辿り着いた。
全員でそれを見つめる。
「はー……金持ち、って感じッスね」
ギャラリーを前にしてメロが呟く。ジェイルに「余計なことを言うな」と注意されていた。
――目の前にあるのは一軒家みたいなギャラリーだった。
周りを見渡すと大小さまざまなギャラリーがある。外壁は白ベースで統一されているけど、外観からは何か置いてあるのか判別がつかない。
けれど、このギャラリーの入口には鎖がかかっていて封鎖されている。
ザインが建物の前に立ち、面倒くさげに口を開いた。
「目の前にあるギャラリーが一番のメイン。まー、彫刻とかでかい絵画が置いてあるトコ。
まー、けど、中の階段がやばくて修繕中。入れねぇから次」
「二階建てに見えるけど、中はどうなってるの?」
聞いてみると、ザインが目を丸くした。あたしの質問が意外だったらしい。
「半分は吹き抜け、半分はなんつーかロフトみたいな感じ。彫刻や絵画を上から眺められるようになってるぜ」
あ、よかった。一応解説してくれた。
あたし含め、ジェイルたちも「へえ、そうなのか」という反応をしている。
……まぁ、こうやって解説されても、ヴィオレッタが監禁されてるかどうかなんてわからないんだけどね。
本当は地下があるかどうか聞きたいんだけど……不自然すぎるわよね、流石に。
ゲームでは、黒幕側じゃない方は地下の存在を知らないのよ。だから、不用意すぎることは口にしたくないわね。
何かそれらしいことを言ってくれることを期待しましょう。
ザインは次のギャラリーへと向かって歩き出す。
歩みはゆっくりで鍵を取りに行ったカミルを気遣ってのものだと伝わってきた。
こういうところを見せられると、疑うことに罪悪感を覚える。こっそりため息をついた。
敷地の奥に向かうと森のように木々が生い茂り、ギャラリーの半分くらいは森の中にあるようだった。
「で、次が――……」
案外、ザインは丁寧にギャラリーについて解説してくれる。
どんなものが展示されているのか、どういう意図で作られたのか。そういったことを。ディディエは興味なさそうにしていたけど、時折ザインの説明に補足をしてくれた。
来客があると解説することも仕事だったんだろうというのが伝わってくる。
ただ、残念なことに、ヴィオレッタが監禁されているところの目星すらつけられそうになかった。
ゲームでは詳細な監禁場所までは明かされてないから。
『封鎖されたギャラリーの地下に監禁されていた』という簡単な説明しかなかったのよ。そこに至るまでの推理はあっても、あたしがこうして見て回って「ここ!」と特定できるだけの情報はなかった。
……どうしようかしら、本当に。
ザインとディディエの解説を聞きながら、ゆっくりとギャラリーを巡る。
やがて、こちらへ向かう足音が聞こえてきて――カミルが番犬一匹とともに追いついてきた。
それを見たザインがにっと笑う。
「遅かったじゃん」
「こ、これでも急いだんだよ……」
走ってきたからか、カミルは息を切らしていた。手には鍵を持っている。
「……ありがとう、もう行っていいよ」
落ち着いたタイミングで番犬の頭をそっと撫でる。番犬は尻尾を振って「ワン!」とひと鳴きすると、自分の仕事に戻っていった。
……なるほど、犬に場所を案内させたのね。
横目でカミルの様子を観察した。カミルはあたしの視線に気付かないまま、ザインに鍵を渡す。
ザインが鍵を弄びながらあたしを見る。
「ロゼリア、こっち」
「ここはどんなものが展示してあるの?」
「んー……まぁ、入れば嫌でもわかるぜ」
ザインに案内されるまま移動する。
嫌でもわかるってどういうことかしら。芸術や美術に興味はないけれど、ちょっと期待してしまった。楽しむシーンじゃないとわかっていても心が躍る。
向かった先は、まるで小さなプラネタリウムのような形をしたギャラリーだった。
ザインが入口の鍵を開けて、あたしを中に促す――。
中は暗い。
真っ暗? と、不思議に思ったところで、淡い明かりがつく。
「わ、すごい。綺麗ですね!」
アリスが感嘆の声を上げる。
そこは――あたしがカミルに「メルヘン」と言った、神話の世界そのものだった。
もう誰も信じてないだろう神話をモチーフとした美術品がところ狭しと飾られている。しかも、よく見るとただ飾られているだけでなく、並べ方にはストーリー性を感じた。
肩越しにカミルを振り返る。
カミルは無邪気で、それでいて誇らしげな笑みを浮かべていた。
――「神聖な雰囲気がしませんか?」
少し前のセリフをもう一度投げかけられているようだった。




