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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ


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2.あたしじゃない誰かの破滅フラグ

 怒涛の挨拶回りも終わった二月。

 この辺り一帯を治める九龍会(くーろんかい)の後継者候補として伯父様との挨拶回りの日々がようやくが終わった。

 とはいえ、大学は休学中のままというわけにもいかず、復学を前提とした課題の山が待っている。

 その上『後継者候補』としての勉強も続行中。礼儀作法に、経済、政治など。

 スケジュールに余裕が増えたとはいえ、やることは多い。

 それでも、一月の慌ただしさに比べれば全然マシだった。大学は一年遅れてでも卒業しておきたいし。

 そんな風に、以前よりずっと規則的で健康的な生活を送っていたある日――。

 二月のはじめ。バレンタインが近付き、正式にあたしの側近になった花嵜(はなさき)メロがうるさくなってきた頃、受験勉強を終えて余裕が出てきた一応秘書の真瀬(ませ)ユウリが執務室にやってきた。


「ロゼリア様、六狼会(りくろうかい)六堂(ろくどう)ザイン様から連絡がありました」

「は? ザイン? なんで?」


 ユウリはものすごく言い辛そうな顔で報告してくれる。何で今更そんな名前が出てくるのか謎で怪訝な顔をしてしまった。

 六堂ザイン、六堂ディディエ――。

 なつかし……いや、懐かしくはない。五年前に少しだけ関わりのあった人物だけど、黒歴史を掘り返す趣味はない。


「六堂ザイン様、六堂ディディエ様、六堂カミル様のお三方で、ロゼリア様にご挨拶をしたいと打診がありました……」

「あ、あああ、挨拶ぅ!?」


 ユウリは気まずそうな顔をしている。あたしの反応が予想できていたんだろう。


 六狼会――。

 九龍会のある第九領の二つ隣にある第六領を統治している『会』。

 現代日本だと領が県で、会は県庁みたいなもの。知事に当たる存在は会長と呼ばれている。

 ただし、大きく違うのは『会』という組織は基本的に特定一族で運営されている点。会長も直系の人間が継ぐケースが多くて、いわば行政と血縁が一体化した仕組みであり組織。

 あたしは二ヶ月前に九龍会の現会長である伯父様、九条ガロから正式に『後継者候補』として指名を受けた。そのため一月の間は、伯父様に同行して他の領の会長や次期会長候補たちへ挨拶回りをしていた。

 そして二月。

 今度は逆に、「九龍会の新しい後継者候補に会いたい」という連絡が増えるだろうと、伯父様たちから言われていた。

 挨拶回りで会えなかった人や、後継者レースから外れた直系の人たち、その他関係者……。

 まあ、そういう“顔見せ”は避けられないとしてもよ?

 まさかその中にザインとディディエがいるとは思わなかったわ。


「ねぇ、カミルって誰……?」

「六堂家の第七子にあたる方で、現在十八歳の男性です」

「……十八歳」


 ユウリがメモを見ながら答える。

 つまり、あの頃十三歳だった子。顔を合わせてなくても不思議じゃない。


「どうされますか?」

「会いたくないから上手いこと断っておいて。でも、返事は数日空けて、頑張って調整したけど無理だったってことにしておいて」

「かしこまりました」


 ユウリは静かに頷いて頭を下げた。

 断りながらも、胸の中に引っかかるものがあった。


 先月の挨拶の場に『次期会長』と言われていた長女がいなかったのだ。

 六狼会は一番最初に生まれた子が会長を継ぐのが通例の会。

 けれど彼女は体調不良を理由に欠席、話題にすら上がらなかった。代理で上から二番目の長男、三番目の次男が出席していた。二人ともやけに疲れた顔だったから気になったのよね。

 あれって何だったのかしら?

 ザインたちに会えば理由が聞けるかもしれない。

 そう思わなくもないけど、会いたくない気持ちが優先された。

 そこまで興味がなかったから。



◇ ◇ ◇



 その夜、夢を見た。

 妙に生々しくて、やけに静かな夢だった。


 薄暗く狭い空間。

 パソコンのモニターの明かりが、デスクに座る誰かを照らしている。

 その後ろ姿を見て、あたしは目を見開き息を呑んだ。


 ――前世の、親友だ。


「これはレドロマの続編で『ブラック・ロマンス』。

 とは言っても、世界観が同じなだけでキャラクターは全然違ってて、話も前とは違うの」


 彼女は振り向きもせずに言った。

 画面には、見覚えのある名前がずらりと並んでいた。

 全員、同じ苗字を持っている。

 『六堂』――あの家の名前だ。


「全員兄弟。腹違いのね」


 知ってる。六堂って、六狼会の人たちね。

 六狼会って第一夫人から第六夫人くらいまでいて(正妻や愛人の区別はなく全員平等らしい)、子供が八人いるのよ。うち六人が男性だから、彼らのことね。何人かは見覚えがあるし……。


「レドロマと違ってミステリ要素が強いんだよ」

「えっ! じゃあキャラが死ぬの?」

「死ぬけど、死ぬのは攻略キャラじゃなくて……彼らのお父さん。

 一番上のお姉さんが失踪して、戻った来た時に実の父親を刺し殺すの。けどお姉さんが薬でおかしくなってて、お姉さんは『誰か』に洗脳されて父親を刺しただけの実行犯……洗脳した人物、つまり黒幕がこの六人の中にいる。それが誰なのか、他の兄弟と一緒に探し出すのが大枠のお話」


 ……レドロマと全然違う!

 レドロマこと『レッド・ロマンス』での悪役はあたし・九条ロゼリアだった。しかも「何もかもロゼリアが全部悪い!」って感じになってたのに、今回は攻略キャラクターの中に悪役っていうか黒幕がいる感じなんだ。キャラの闇落ち面が見れるってこと……? それはそれでちょっと惹かれる……。

 説明をしながら彼女はゲームを進めていく。

 何が何だかわからないまま、あたしは以前そうしていたように彼女がストーリーを進めていくのを眺めていた。

 お互いが攻略してるところを見ながらキャーキャー言ってたなぁ。

 すごく懐かしいわ。


「途中で兄ルートと弟ルートに分岐するんだよ」

「どういうこと?」

「上の兄弟三人が攻略できるルートと、下の兄弟三人を攻略できるルート。兄ルートでは弟側に黒幕がいるし、弟ルートでは兄側に黒幕がいる。……ちなみに黒幕側とのフラグは立たない」

「……え。闇落ちしたキャラのルートないの? 自由度低くない?」

「そこは情報解禁時に突っ込まれてたよ。……しかも、兄側も弟側も黒幕はキャラ固定だし、一回クリアしちゃうと謎解きの面白みはないんだよね……まぁ、値段は安いから価格相当なのかな、って」


 ま、まぁ、確かに全員が黒幕ルートを用意すると大変そう。下手すると一本道になるしね。ストーリー分岐はもちろんアリバイ管理とかめちゃくちゃ面倒臭そうだし、フラグ管理が破綻してストーリーがおかしくなったら、それはそれで冷めちゃう。

 彼女がやっているゲームは淡々と進んでいく。

 ストーリーは大体十時間弱くらいでクリアできるものらしい。六人いるから単純に全員クリアしようとすると六十時間。エンディングはトゥルー、グッド、ノーマルという感じで一定の分岐はあるみたいだから、そのためにやり直しを考えると数時間×六人分……。

 内容を考えるともっとボリュームを出して、やりこみ要素を盛れそうなのに勿体ない気もした。


 あたし――いや、『私』は彼女が進めていくストーリーをぼうっと追いかけていた。

 ヒロインは『蒼井シエル』という少女で、『陰陽』という裏組織に所属する暗殺者兼諜報員。

 導入は次期後継者であった長女・ヴィオレッタが二ヶ月ほど家を開けた後、ふらりと帰ってきたところからはじまる。

 帰ってくるなり父親に接触をし、隠し持っていたナイフで父親を刺す。

 自分で刺したというのに血まみれの手を見て呆然とするヴィオレッタ。警備の人間たちに拘束され、虚ろな表情で連れていかれ、殺人未遂で拘留された。刺された父親は病院に緊急搬送されて、生死の境を彷徨うことになり、結果亡くなってしまう。

 本格的なストーリーはそこからだった。

 将来が約束されていた彼女の行動に疑問を抱く人間は多く、「何故父親を刺す必要があったのか?」と周囲がざわめいた。

 ヴィオレッタが凶行に及んだ原因を探るため、蒼井シエルはメイドとして六狼会に潜り込み、ヴィオレッタの足取りや関係者の行動を追いかけていく。ちなみにヴィオレッタの父親兼現会長から、一ヵ月前に『陰陽』に対して捜索願が出されている。『陰陽』はその性質上、秘密裏に調査をするのにうってつけだった。そういう背景もあり、シエルは六狼会に簡単に忍び込めた。

 兄ルートの場合は弟三人が、弟ルートの場合は兄三人が共犯関係にある。

 兄三人が黒幕側の場合は他の二人が利用されている印象がかなり強く、弟三人が黒幕側の場合はかなり綿密に協力している話だった。

 黒幕側のルートはないんだけど、そっち側の方がスチルは充実してたし何となく気合が入ってる気がした。スチルが色々あるのにルートがないのは不満あったろうな……。


 弟ルートの黒幕は長男である六堂コウセイ。

 兄ルートの黒幕は六男である六堂カミル。


 ストーリーが進んでいくにつれ、そんな情報が浮き彫りになった。

 二人の名前には『あたし』に覚えがあって、片方は先月会ってる。


「コウセイさんにはこないだ会ったわ。なんか疲れてたけど、こういう理由だったのね」

「コウセイ、根は真面目ないい子なんだよ。捻くれた部分もあるけどね。……カミルも、ちょっと腹黒だけど、素直でいい子なの」


 彼女の言い方は、まるで本人たちをよく知っているようだった。

 カミルに対して「いい子」って言い方はわかるけど、コウセイさんは二十代半ばだから高校生である彼女が「いい子」って言うのはすごく違和感がある。

 そんな気持ちをよそにストーリーが進んでいく。

 コウセイルートを進んでるみたいだから黒幕はカミルだ。

 身辺を嗅ぎまわられることを不快に思ったカミルがシエルに「何を嗅ぎまわってるの?」と笑顔で迫るスチルが表示された。ヤンデレみがあっていいスチルだわ。そこにコウセイさんがやってきて「何をしているんだ」と二人を引き離し、間に入ってシエルを庇う。コウセイさんとカミル、二人が睨み合うシーンまでスチルで用意されていた。カミルは兄に睨まれている状態なのに不敵に笑っていて……いいな、ゾクゾクする。……なんでこれでカミルルートがないんだろう……。

 彼女が言うには弟三人の好感度によって相手が変わるらしい。黒幕本人(この場合はカミル)だけじゃなくて、ザインかディディエに迫られるそうな。それは見たい。

 ……あ、いや、『私』は見たいけど『あたし』としては微妙かな。


「ねえ、――」


 名前を呼ぼうと口を開く。けど、何故か声にならなかった。

 まるで彼女の名前を呼ぶことができないみたいに。


「……二人だけじゃなくて、アオもジークも、ザインもディディエも……一癖あっても、やっぱりいい子なんだよ。少なくとも、『ワタシ』にとってはみんな可愛い弟たちだった」


 視界がブレる。

 画面を覗き込む私の隣にいる彼女の姿がぼやける。黒く長い髪の毛がまるでヴェールのように彼女の顔を覆い隠す。それは、『私』の知っている彼女の姿ではなかった。

 少女らしい高めの声だったのに、妙な威圧感のある低い女性の声が混じる。

 アオ、ジーク、ザイン、そしてディディエ……いずれも六堂家の人間だ。ゲーム内での攻略キャラクターでもある。


「可愛がって、大切にしてたつもりだったんだよ。……まぁ、ワタシは小さい時から絶対会長になりたくて、そのために頑張ったし、弟たちが会長になりたいなんて思わないようにしてたから……そういうところに不満を感じてたのかも。

 でも、まさかこんな手段を取るなんて思わなかった。……すごく悔しいんだけど、悲しい気持ちの方が大きいのカナ。

 ……段々、わからなくなってきちゃった……」


 悔しさと悲しさの入り混じった声。

 彼女の話し方はゲームの中の長女ヴィオレッタのようだった。

 『私』の知る親友ではなく、『ブラック・ロマンス』の中に出てくる弟の手によって悪役に仕立てられた哀れな女性。

 何も言えないままでいると、やがて彼女がトントンと画面を指さす。

 画面に狭い個室の中に閉じ込められ、項垂れたヴィオレッタのスチルが映し出される。明るい未来が拓けていたはずなのに自らの手で台無しにしたことに絶望したのか、目の光を失っていた。


「――『(ワタシ)』」


 画面を指さす手が微かに震えている。

 彼女――『りょーこ』は、悲しそうにこちらを見つめていた。

 目が合う。

 その姿はついさっきまで『りょーこ』だったのに、画面の中のヴィオレッタと同じく長い黒髪に金色の目を持つ背の高い女性の姿になっていた。

 彼女に触れようと手を伸ばしたところで、目の前がブラックアウする。

 夢の世界から現実世界に強制的に浮上させられた。

お読みいただき、ありがとうございました。

21日までは毎日投稿、いずれも20時過ぎに更新予定です。

また覗いていただけたら嬉しいです。

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