18.カードに隠されたクセものたち
「わ、これおいしいです」
「だろ? 俺様もそれ好きなんだよな~」
いつの間にか和気あいあいな雰囲気になった。
最初は互いに探り探りだったけど、真っ先に馴染んだのはアリス。
アリスに続くようにジェイルもユウリも自然と打ち解けた。メロは最初からいつも通りだったけど。
ザイン、楽しそうだわ。
暇つぶしだなんて言ってたけど、こうやって大人数で食べたり話したりするのが好きなのね。知らなかったわ。
――まぁ、それはそれとして。
「ロゼリアさん、何か食べたいものはありますか? 僕、お取りしますよ」
「ロゼリアさん、こないだの麻雀本当にすごかったです。一生の自慢になります」
「ロゼリアさん、ロゼリアさん――」
さっきからカミルがずっとあたしに話しかけてくる……。正直、ちょっと、いや、かなり鬱陶しい。
……こいつ、本当に、何……?
何か六狼会の内情でも喋らないかと思って、一応耳は傾けてるけど……ヴィオレッタ救出のヒントになるようなことは一切喋らなかった。当たり前か。
ジェイルたちはチラチラとあたしを気にしてくれている。が、カミルの牽制がすごくて口が出せないみたい。
ザインは完全に知らんぷりだった。
「懐かれすぎて疲れている」ってただの冗談かと思ってたのに、本当だとは思わないじゃない……。
こちらから何か聞きたくても、急にヴィオレッタのことなんか聞いたら不自然極まりない。
が、いい加減イライラしてきてしまった。
「ねぇ、そう言えばロゼリアさんは」
「カミル」
セリフを遮ると、カミルはまるでよく躾けられた犬のように姿勢を正して黙った。
「あたしはあんたにそこまで懐かれる覚えがないんだけど」
「え? やだなぁ、ロゼリアさん。……”わかる”でしょう?」
意味ありげに笑うカミル。まぁ、わかるわよ。――麻雀の時に残滓を見せたからでしょ。
だからって急すぎるし、何を考えてるのかわからない。
あたしはいちごのチーズケーキを更に取りながらため息をついた。
「しつこい男は嫌われるわよ」
「うっ。……すみません、ちょっと浮かれてたのかもしれません。
今が賑やかで嬉しいのと、ロゼリアさんとお話できるのが嬉しくて……」
ギクリと肩を震わせるカミル。しゅんとした様子は子犬のよう。まぁ、猫かぶってるってわかってるけど!
カミルの印象は「爽やかな少年」から「あざとい」に変わっている。夢でりょーこが言ってた「腹黒」も。
あたしが脈ナシの反応を見せたからか、ジェイルたちがあからさまに安心している。メロは「ザマァ」と言わんばかりの表情をしていた。
「フラれてんじゃん、カミル」
楽しそうに笑うザイン。カミルがむっと口を尖らせた。
「ちょっと失敗しただけだよ。まだフラれてない」
「へいへい、頑張れよ。――お」
適当な言葉を投げたザインが出入り口の方へ視線を向ける。楽しそうな顔をしていた。
振り返ると、そこにはディディエがいた。
……来ないと思ってたのに。来るんだ。
ザインがふっと笑い、自分の隣の椅子を引いた。
「寂しがり屋が来やがったぞ」
「うるさい。誰のことを言ってる? お前が来いと言ったんだろう」
「おめーだよ、おめー。大体、こっちは”気が向いたら”って誘っただけだぜ?」
ディディエは「チッ」と舌打ちをしながらも、ザインの隣に腰掛ける。そして当然と言わんばかりの態度で目の前にあるバターサンドに手を伸ばしていた。
あたし、多分ディディエのことは一生理解できないわ。
とは言え、これまでの鬱憤もあってちょっと弄りたい気持ちがあった。
「……あんた、本当に素直じゃないわね」
「はぁ?!」
ディディエがぎろりとあたしを睨んだ。顔が綺麗な分、迫力はあるんだけど――あんまり効かない。
こいつ絶対損してる。ていうか、ちょっと過去の自分を思い出してほっとけないのよね。
「損してるわよ、その性格」
「……お前が言うのか?」
「あたしは一応色々改めたもの。――このチーズケーキ美味しいわね、もう一つ頂いちゃおうかしら」
あんたとは違うのよと言わんばかりの態度を取るとディディエが言葉に詰まっていた。
それを見たザインとカミルが顔を見合わせて笑いを押し殺している。
そして、なんだかんだでディディエも会話の輪に加わる。
素っ気ないしぶっきらぼうだけど、反応が素直というか負けず嫌いなところもあって無視されるということはなかった。だからか、メロとアリスにキレられない程度に遊ばれている。……遊ばれてる自覚なさそうだけど。
やがて、食も落ち着いてきた頃――。
ザインがトランプを取り出す。
「さぁて、と。どうせだしゲームでもしようぜ。麻雀は誰かさんが一人勝ちになるからカードな」
ちらりとあたしを見るザイン。……うるさいわね。わかってるわよ、それくらい。
特に誰からも反対意見は出なかった。雰囲気がいいからか、逆にワクワクしてるまである。いい感じだわ。あたしの情報収集は全然進んでないけど。
まずは手始めにババ抜き。
席替えをしたことで、ザインがジェイルの手札を引くことになった。
「……おめー、顔変わらなさすぎだろ。どれもジョーカーに見えてくんだけど」
「ザイン様。余計な心理戦は結構です。さっさと引いてください」
「余計って言うなよな、大事だろ」
ザインが諦めたように札を一枚引いた。
ジョーカーだったらしく、がくりと肩を落とす。そして恨めしげにジェイルを見た。
「ちったぁ忖度しろよ」
「相手がお嬢様ならします」
ジェイルのはっきりした態度にザインは大きくため息をついた。
――続いて神経衰弱。
前半は運要素しかなかったけれど、後半からユウリの記憶力が火を吹いた。
開けた札の位置は全て記憶しているようで、さっきから次に回すことなくガンガン札を揃えている。
ディディエがその様子をじーっと見つめていた。
「……お前、遠慮というものを知らないのか?」
「えっ?! あ、い、いえ……そういうわけじゃ……」
「ディディエ、自分も覚えてるからって駄々捏ねんなよ。順番も運だっての」
「……ディディエ兄様、ちょっと大人気ないよ……」
兄と弟に責められ、ディディエがわかりやすく表情を歪ませた。それを見たユウリ以外がちょっと笑う。
そして、ユウリが周囲の様子を伺った。
「あ、あの……間違えた方がいい、ですか……?」
「好きにしろ。というか、一々聞くな」
「す、すみません……じゃあ、これで」
ディディエはツンと顔を背けてしまった。め、めんどくさ……。
ユウリは控えめな態度のまま次から次へと札を捲り、ほとんどを揃えてしまう。
――結局ユウリの圧勝で終わった。次、ダウト。
メロがカードを持ったまま場を見つめ、時折札を出した相手を見つめる。
「ダウト。――あ、またダウト」
何故かほぼ百発百中と言っていいくらいのダウトを連発するメロ。
こ、こんな特技があったなんて……。
観察してみても誰一人表情の変化なんてわからない。順番通りの札を出してるとしか思えなかった。
「意外な特技じゃん。なんかコツあんの?」
楽しげに尋ねるザイン。メロは少し考えてから首を傾げた。
「え。いや~……カン?」
「……勘かよ」
「一番困るパターンだ……」
ザインはがくりと肩を落とした。カミルもお手上げと言わんばかりの顔をしている。他のみんなも同様の反応だった。
――次、大富豪。
何故かアリスの独壇場になった。人数が多い中、四枚のカードをババンと場に出す。
「革命! ――階段しまーす。――あ、ちょっと切らせてくださいね、八で。――ここでスペ三返しです!」
(手札どうなってんだ……?)と、全員の心が一つになった。
ルール全てを把握した立ち回りで、全てを破壊していくアリス。何回やってもアリスが大富豪だった。
「辛い……」
大貧民になったカミルが弱い札ばかりの札を見つめてぼやいていた。
一通り終わった後、ザインが満足げに笑う。
カミルも楽しそうだったし、分かりづらいけどディディエもちょっとだけ表情柔らかかった。
「久々に大人数でカードゲームやったわ。やっぱ楽しいな、こういうの」
しみじみと言うザイン。……やっぱり兄弟間で最近こういうのがなかったのが伺い知れる。
今なら何か聞けるかも……?
そう考えている間に、ザインが更に続ける。
「いいよな~。それぞれ個性があって変な柵みたいなのもなくて……どう? 誰か一人くらいウチに来ねぇ?」
――は?
空気が一瞬で変わった。
あたしは固まってしまったし、ジェイルたちも目を見開いている。
ディディエとカミルだけが落ち着いていた。まるで、こうなることをわかっていたみたいに。
冗談なら笑って終わり。
けど、ザインの声は全く冗談に聞こえない。本気の誘いに聞こえた。
――何考えてるの、こいつ……?




