14.騒がしい報告会
「お嬢、あいつやべーッスよ! 絶対近づいちゃダメッス!!」
ザインたちが帰った直後。
部屋に戻ろうとしたところで、メロが隣に来て喚いた。
「急にどうしたの。っていうか、あいつって誰よ」
「カミルだよ、カミル! 猫かぶってるッス! おれらちょーバカにされたんスけど!」
「なんですって……?」
あたしは足を止め、眉間に皺を寄せる。
メロは悔しそうで、その場で地団駄を踏みそうな勢いだった。
普段なら「何をバカなことを」と取り合わない話。
けれど、今回ばかりは事情が違う。
見れば、ジェイルもユウリもアリスも一様に不機嫌そうで、メロを止めない。いつもならメロの軽口を注意する立場なのに。
「ジェイル。メロを止めないってことは本当なの? カミルに何か言われた?」
「……はい。申し上げにくいのですが……」
珍しく歯切れの悪い返事だった。
あたしは少し考えて、今すぐに四人から話を聞くことにする。
「いいわ。ちょっと部屋で聞かせて頂戴」
四人を手招きして歩き出す。彼らは黙ってついてきた。
こんなの廊下でする話じゃないのよね。
とは言え、ちょっと目を離した隙にカミルが何か言うなんて思わなかったからびっくりしたわ。
そもそも本来『ブラック・ロマンス』が始まってる時点で、あたしは死んでるのよね。本当なら死んでるはずの人間が生きてるんだもの、ストーリーに何かしら影響があると思った方が良いかもしれない。
寝る前にノートに書かなきゃと思いながら、執務室へと四人を招き入れた。
ソファに座るよう促し、あたしも腰を下ろす。
「で? 何を言われたの?」
「あいつ、カミル!! いきなりお嬢に婚約者はいるのかって聞いてくるし、おれらのこと『下の人間』だって言うしさぁ!」
「ストップ。ジェイル、メロを黙らせて。――ユウリ、詳細を教えてくれる?」
思わず額を押さえて遮る。
メロから聞こうとしたあたしが馬鹿だった……。
あたしの指示通り、ジェイルはメロの口を押さえた。ユウリが少し困った顔をしながら話し始める。
「えぇと、最初はカミル様に僕たちがいつからロゼリア様についているのかを聞かれました。その時はおかしなところはなかったんですけど……。
突然、ロゼリア様に婚約者が決まってないことを確認されました」
なんで婚約者?
思わず首を傾げてしまった。
確かに伯父様から『後継者候補』と指名を受けてから、あたしの婿の座を狙う輩は増えたと思う。けど、伯父様はその手の話題を一切封殺している。少なくとも一年はそういう話は表に出てこないと思う。
その空気は、結構わかりやすいと思うんだけど……?
あたしは頭の中を疑問でいっぱいにしながら、話の続きに耳を傾ける。
「それで、ご自分がロゼリア様の相手に最適だと……」
「はああ? なんでよ。どうしてそんな話になるの?」
驚きすぎて声を上げてしまった。いや、意味がわからないわ。
ユウリは困ったように肩を落とす。
「その、ロゼリア様より年下で、余計なことを言わないから……ガロ様にも気に入っていただけるはずだと……」
「……なにそれ。すっごい自信家ね」
心の底から呆れた。
カミルの第一印象だった「爽やかな少年」ってイメージが音を立てて崩れる。
まぁ、『ブラック・ロマンス』で黒幕の顔を見てるから今更だけど……化けの皮が剥がれるのが早いことに驚いていた。
「で? まだ何かあるんでしょ?」
「……は、はい。その、婚姻については会同士のメリットで考えているようでした。
今の体制があるのは優秀な人間が選ばれてきたからで、そこに……『下の人間』の血を混ぜるのは愚行だと……。
ロゼリア様は間違いなく九条家を継ぐ人間とも言ってました。だから、自分が相応しいと言っているように聞こえて……。このあたり、僕にはちょっと理解ができませんでした」
ユウリの説明を聞いて考え込む。
間違いなく、カミルはあたしが能力の残滓を受け継いでいることに気付いていると見ていい。これは狙い通りだから、こうして聞けてよかったわ。
ユウリは神話時代の話を信じてない。だから、意味がわからなくて当然。
――けど。
「『下の人間』の血を混ぜるって何のこと?」
それだけピンと来なくて首を傾げる。すると、ジェイルとユウリがぎくりと肩を震わせた。
メロが何か言いたそうにしてるけどジェイルに口を塞がれてて答えられない。妙な沈黙の後、アリスが両手をぶんぶん揺らしながら口を開いた。
「カミルさま、ジェイルさんたちがロゼリアさまのこと好きだって気付いてたんですよっ!」
ジェイルが「白雪!」、ユウリが「アリスってば!」と慌てて止めようとするが、アリスは止まらない。
「だから、自分は結婚相手になれるけど、お前らはなれないぞってオーラがすごかったです!
カミルさまって会の血筋以外は『下の人間』って見下してるんです! わたしも見下されました!!
でも、わたしはカミルさまに、簡単にロゼリアさまの横に並べるなんて思わないでくださいって言いましたから!」
アリス、相当お冠みたい。……というか、未だにあたしに懐くアリス(レドロマのヒロイン)に慣れないわ。
それはそれとして、あの短時間でジェイルたちの気持ちにまで気付くのね。流石と言うべきかしら。
――ふっと、年末のパーティーで怒涛のプロポーズ&告白ラッシュを思い出してしまった。……余計なことを考えないように首を振り、今の話に集中する。
「血を混ぜるって、結婚して子供を作ることを言ってるのね。……随分気の早い話だわ」
「でも、カミルさまはそこまで狙ってるんですよ! 怖くないですか?!」
「別に怖くないわ。立場が圧倒的に違うもの。
カミルなんて嫌、って伯父様に言っちゃえば、それで終わりよ」
ふっと笑うと、全員があからさまにホッとした。
――そう。仮に伯父様が気に入っても、あたしが「嫌」と言ってしまえばそれで終わり。
「あたしは伯父様の眼鏡にかなう男以外は絶対に認めない。
けど、だからって伯父様の決めた男なら誰でも良いわけじゃないわ」
要は一次面接が伯父様で、最終面接があたしってこと。
でも、だからって婚約者や結婚なんてまだ全然考える気ないけどね。
ホッとした様子のジェイルが口を開く。
「安心しました。ひょっとしたらカミル様はお嬢様の好みではないかと危惧しておりましたので」
「やめてよ。ああいうあざといタイプは好きじゃないわ」
「あざとい……?」
「ザインやディディエがいる場では”弟”って顔してるでしょ、あの子。それぐらい気付くわよ。
――まぁ、それでも六狼会に行くわ」
それぐらい気付く、というのは嘘。『ブラック・ロマンス』の情報を持ってからよ。普通にしてたら絶対気付かなかったわ。
けれど、四人が反応したのはその言葉ではなく、「六狼会に行く」という言葉だった。
「お嬢! 行くの!?」
「行くわよ。約束したもの」
ジェイルの手を引き剥がし、メロが前のめりになる。
「なんで!? や、やっぱりヨリを……」
「あのねぇ。あんたいつまでその話題を引き摺るのよ。ないわ、絶対に有り得ない」
心底呆れる。しかもメロは本気っぽいし。
ジェイルが微妙な表情であたしを見つめていた。
「……お嬢様、本当に行かれるおつもりですか?」
「行くって言ってるでしょ。ちゃんと伯父様に許可は取るわ」
「何故、六狼会に拘るのですか?」
「……拘る?」
思わず眉間に皺を寄せる。そして、ドキッとしてしまった。まるで見透かされたようで。
――ジェイルの言うことは全く間違ってない。
今のあたしの行動原理全ては”りょーこを救うこと”にある。『ブラック・ロマンス』の舞台である六狼会に拘るのは当然の話だった。
ジェイルは真っ直ぐにあたしを見つめてくる。まるであたしを探るみたいに。
「はい。三日間眠り続けた後、まず確認されたのがザイン様に返事をしたのか、です。
何かあると思ってもしょうがないでしょう。……理由があるならお話ください」
しまった――完全に失敗した。
自分がどう見られているのかなんて気にする余裕なくて、周りが見えてなかったわ。
ど、どうやって切り抜けよう……。




