11.勝利の余韻と思惑
「お疲れ様。楽しい勝負だったわ」
にっこりと笑って言う。ザインが呆れたように肩を竦めた。
「そりゃー一人で俺ら三人をボコれば楽しいよな。……おめーなんでそんなに強いんだよ」
「小さい頃から伯父様に鍛えられたからに決まってるでしょ?」
これは本当の話。昔から家族麻雀をする家系だった。伯父様とお母様が強くて、お父様はいつも負けていた。当時は二人がドラを集める理由がさっぱりわからなかったのよね。
お母様が「龍に愛されてるからよ」と意味ありげに笑っていた理由が今ならははっきりわかる。
懐かしさと寂しさ覚え、ゆっくりと立ち上がった。
「少し休憩しましょ」
「じゃートイレ貸して」
「……誰か案内してあげて」
遠慮なく言うザインに若干の呆れを感じて声を掛けると、ユウリがさっと前に出てきた。
ディディエとカミルも立ち上がったので、ユウリは三人を案内することになった。
「先に応接室に戻ってるから。ユウリ、三人を連れてきて頂戴」
「はい、かしこまりました」
部屋から出ていく三人を見送り、あたしも部屋を出た。
すると、メロとアリスが目をキラキラさせてついてくる。
「お嬢! めっちゃかっこよかった! すごいッスね、一人トバしちゃうなんて」
「ロゼリアさま、本当にかっこよかったです! 裏ドラが乗った時なんて声を上げそうになっちゃいました!」
うっ。眩しい……!
アリスのザ・ヒロインという小動物チックな可愛らしさに尊敬の眼差しがあたしに刺さる。
――あと、メロ。
以前はあたしのことを嫌っているせいで舐めた態度しか取らなかった。なのに、何故かあたしのことが好きになったらしく、最近犬っぽさに拍車がかかってる。ちょっとかわいいと思っちゃうのが悔しい。
あたしは肩にかかる髪の毛を振り払いながら平然とした態度を貫く。
「伯父様に比べたらまだまだよ」
「ガロ様のような打ち筋でした。素晴らしい結果だったと思います」
二人に遅れてジェイルが近づいてきた。どこかほっとしたような顔をしている。
「三対一の勝負を持ち出した時はハラハラしましたが、勝ててよかったです」
「……あんた、まさかあたしが負けるとでも思ってたの?」
「勝負に絶対はありませんので」
いつもの仏頂面に戻り、平然と言い放つジェイル。
じーっとジト目で見つめるけど、ジェイルは表情を一切崩さなかった。
「……まぁ、いいわ。応接室に戻るから。片付けよろしく」
「承知しました」
「はーい」
「かしこまりました。わたしは後でお茶をお持ちしますね」
三人に指示だけ出しておき、あたしは先に応接室に戻る。
短い距離を歩きながら、ぼんやりとゲームのことを思い出していた。
前作『レドロマ』には龍や狼を操ると言った特殊能力の話は一切なかった。だから、夢の中で『ブラック・ロマンス』を見た時に驚いたのよね。
カミルに特殊能力があると知った時、夢の中で思わず「なにそれ?!」って叫んじゃったもの。
ま、まぁ、確かによ?
『レドロマ』のラスボス悪女・九条ロゼリアに「麻雀が強い」という設定があっても「だから何?」ってなっちゃうのよね。ゲームの中で麻雀やるシーンなんてなかったし。
夢の中のりょーことも「これ設定どうなってるの?」「さあ……?」という会話をしている。
引っ掛かりはするけど、今重要なのはそこじゃない。
カミルが黒幕かどうか――はっきりさせたい。
応接室の中に入り、扉にもたれ掛かる。顔を伏せてため息をついた。
無理ゲーだと思ってるのは今でも変わらない。けど、見過ごすなんて絶対にできない。
みんなが戻ってくる前に、「よし」と小さく呟いて気合を入れ直した。
そして、程なくしてザインたちが戻ってきた。
アリスがお茶を並べていく。
「で、ロゼリア。おめーが一位になったんだけど、要求は?」
「要求って……誘拐犯みたいなこと言わないでくれる? 急なことだったもの、別に考えてないわ」
「へえ?」
「あんたこそ、あたしのことを招けなくなったわけだけど……いいの?」
お茶を飲みながら尋ねてみると、ザインは意味ありげに笑った。
「パイプならもう繋がったろ?」
「は? どういうこと?」
「九条ロゼリアとこうして挨拶を交わして、四人で卓を囲んだ――。
まー、物足りなさは否めねぇけど俺らにとっては十分。今後もちょっとした話の種になるから、感謝してるぜ」
あたしはティーカップを持った状態で固まってしまった。
確かに客観的に見れば、今ザインが述べたことは事実。間違いではない。
しかも、あたしが麻雀をしたのは挨拶回りの時と、さっきやった分だけ。
思わずザインを睨んでしまった。
「……あんた、知ってたでしょ。あたしが挨拶回りで麻雀してたの……」
「知ってたに決まってんだろ。まー、ウチじゃやる余裕なかったみたいだから?
親父や兄貴たちより先に卓を囲んだってことで、ちょっとした自慢にはなる」
し、試合に勝って勝負に負けた気分!
カミルをハコにしてすっごいいい気分だったのに一気に気分が萎んだわ。こんなチャラついた男に一本取られるなんて、本当に悔しい。
見れば、ディディエは澄ました顔をして、カミルはにこにこ笑っている。
悔しかったけど、それを表に出さないようにため息をついた。
「……まぁいいわ。けど、自分たちが負けたってことはちゃんと言って頂戴」
「負けたのはカミルだけだろ」
「僕はちゃんとロゼリアさんにトバされたって言いますよ」
ザインもカミルも楽しそうに答えた。
最初からそのつもりだったと言わんばかり。負けた腹いせにこう言ってる可能性もあるけど、実際「卓を囲んだ」のは事実なのよね。変に吹聴しないなら良しとしましょう。
さっきの麻雀の特典。
一位の人間の言うことを他の三人が聞く(ディディエは聞かないかもしれない)。
何にするか考えなきゃいけないけど一旦保留よ。
ティーカップを置いてザイン、ディディエ、カミルの顔を順に眺めていく。
「あんたたちに何を聞いてもらうかはじーっくりと、考えさせてもらうわ」
悪い顔に見えるように、ニヤリと口も端を持ち上げて笑う。三人が若干引いたのが伝わってきた。
「それはそれとして――いいわよ、六狼会に遊びに行ってあげても」
しれっと、何でもないことのように言う。
まるで時間が止まったような気がした。
「「「「「「「えっ?!?!?!」」」」」」」
部屋にいるあたし以外の全員の声が重なり、空気が大きく震えた。
あんまりにも大きな声だったから、らしくもなくびっくりしてしまった。
慌てて周囲を見回すと、ザインたちはもちろんのこと、後ろに控えているジェイルたちも信じられないものを見るような目であたしを見つめていた。
……いや、失礼じゃない!?
「何よ、そんなに驚いて」
「……おめー、ウチに来たくなくて勝負にノッたんじゃねーのかよ……」
「最初はそうだったけど気が変わったのよ」
「……そういうところは相変わらずだな」
「うるさいわよ」
ザインが呆れている。あたしは悪気など微塵も見せずに笑ってやった。
ディディエもカミルも「マジかこいつ」とでも言いたげな表情をしていた。こいつらも失礼ね。
「今なら予定が空いてるから、どうせなら早めに遊びに行きたいわ」
「へえ? そりゃこっちとしてもありがたいな」
え。ヴィオレッタが不在なら逆じゃない? なんか違和感がある……。
「どういう意味よ、それ」
「いや、こっちの話」
ストレートに聞いてみるとザインが首を振った。
答える前、ディディエとカミルに睨まれていたけど……何か隠してる?
まぁ、いいわ。
とりあえず、これで六狼会に行ける。それに、こいつらにあたしの要求を突きつけられる。
ゲームが始まる前に何とかするわよ……!
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