34話 確定存在 小蒼ちゃん 後編
確定存在小蒼ちゃん 後編
【202X 1月20日 PM14:30】
【現実:まほらぎ市 ハイツまほらぎ】
目の前にあるゲーミングノートっぽい、KokuSouSのデスクトップの中にいる小蒼ちゃんから告げられた、確定存在という聞いた事もない言葉。
森咲杜鷹である僕と小蒼ちゃんは、PCの画面という境界線を境目に向き合っている……というよりも僕は、小蒼ちゃんがラーメンを啜っている画面を眺めている。
『あ、ありがとうございます……うん、美味しい……』
――なんでまた小蒼ちゃんは、味噌ラーメンを啜ってるんだよ…………
「小蒼ちゃんがラーメンを食べてるのを邪魔したくないけど……話の続きしてもいいかい?」
『うん、美味しい……どうぞー』
「じゃあ…………小蒼ちゃんの元の姿である刻想器の数を数えたらキリがない、そういう事なのか?」
『ふっ、正解』
ズルズル! ズルズル!
「なら君は何故、ゲーミングノートPCの形をしているんだ?」
『ふっ、ゲーミングノートパソコン。高画質なゲームをしたいと考えるヒトがいても、現実は高額すぎて、簡単には買えずに諦めるヒトの想いが多いから』
「諦める人の想いが多いから?」
『ふっ、そう。杜鷹は毎朝、朝ごはんを食べる時は、パン派? それとも、ごはん派? ……あっ、すみません、ごはんをください』
――なんでこのタイミングで、パン派かごはん派かを聞く必要があるんだ? ……ちゃっかりごはんを注文してるし。
「朝ごはんを何を食べるかは、その日の気分次第だよ、小蒼ちゃん」
『ふっ、今の杜鷹のその答えこそ、想いを叶える存在である刻想器の存在理由……『時は命あるモノに常に選択をさせるモノ』……杜鷹が、妄想犯行計画に初めてログインした日、私があなたに言った言葉だけど、覚えてる?』
「ああ、勿論覚えてるさ。君という小蒼ちゃんと初めてまほやぎプラネタリウムで、直接言葉を交わした時に言われた言葉だからね」
『ふっ、なら逆に今、それを覚えてない杜鷹もいるとしたら?』
「どういう意味だ、小蒼ちゃん?」
『ふっ、森咲杜鷹であるあなたが、今のあなたを認識できるのは1人、つまり私と会話している杜鷹は杜鷹そのもの』
「…………だから今を生きる僕が、君があのまほやぎプラネタリウムで、僕に見せた絶望の未来を変えるために、君が僕の想いを元に作り出した妄想犯行計画があるんじゃないか」
『そう、だから心配いらないって事だよ。あくまで妄想犯行計画にログインしている時の杜鷹と喜冬は、直接あの世界であるほこやぎ町に行っている訳じゃない。刻想器の分体として私が用意した、モリサキモリタカとユキモリキフユという空の器に憑依してるだけだから――』
「説明になってないよ、小蒼ちゃん」
ラーメンを啜っていた小蒼ちゃんが、丼の上に箸を置いた。
『ふっ、なら説明してあげるからメガネ型ゴーグルをかけなよ』
「……分かったよ」
言葉だけは無く、実際に見てみないとどうなっているのか分からない、だから僕はメガネ型ゴーグルをかけた!
【おかえりなさい! 森咲杜鷹!】
【妄想犯行計画にログイン中…………妄想犯行計画システム管理者による特別ログイン実行中…………】
【ほこやぎ町の現在時刻、202X 2月X日 PM19:00へ五感転送を開始しました】
【202X 2月X日 PM19:00(停止)】
【仮想:ほこやぎ町 萬屋記録局 モリタカルーム】
『五感転送が完了しました、グッドラック! 探偵』
僕は、喜冬さんと最後にログアウトした時刻である、2月X日 PM19:00のほこやぎ町、萬屋記録局の僕の部屋に五感転送された。
「小蒼ちゃん、いるんだろ?」
「ふっ、正解。じゃあ説明してあげるから、まずは杜鷹がログアウト前にいたベッドを見なよ」
「僕のベッド? こ、これは一体どういう事だ?」
「ふっ、今の杜鷹は、喜冬がいないとログイン出来ない状態ではなく、五感転送が完了する直前の状態でほこやぎ町にいる。だからそこのベッドで寝ているのが、ほこやぎ町在住萬屋記録局局員であるモリサキモリタカだよ」
「確かに…………ここにいる時の僕だ……ログアウトしたら消えるはずじゃ?」
「ふっ、そんなことしたら誰が一番傷つくのかな? 喜冬? それとも萬屋赤葉?」
「…………両方だ」
「ふっ、不正解。両方なんて答えはないよ」
「どういう事だ、小蒼ちゃん?」
「仮に赤葉が先に、杜鷹が消えているのを見たら赤葉が傷つく、逆に喜冬が先に、杜鷹が消えているのを見たら喜冬が傷つく、この時点で2つの未来がある。赤葉が先に見て、その後、喜冬が見てしまう未来と喜冬が先に見て、その後、赤葉が見てしまう未来……杜鷹は2つの未来を同時に見れる?」
「いいや、僕が見ることができる未来は一つだけだ…………未来に正解はなくて、あるのは選択と結果だけだ」
「ふっ、だから私、小蒼はあなたと刻想契約を行い、あなたの未来の選択をし続ける支援をする為に、確定存在小蒼として、あなたの側にいるというのに……汝は、また最初の日と同じ弱音を吐くつもりか!」
パチーン!
小蒼ちゃんから強烈な平手打ちを喰らってしまった。
「ふっ、辞める、森咲杜鷹? あの変える事ができるかもしれない絶望の未来へ自分から行く選択をする? 私は別に構わない、それもあなたの選択の結果だ」
「イタタタ……さっきまで屋台でラーメンを啜っていた味噌ラーメンの匂いがする小蒼ちゃんに、まさか平手打ちされるなんて……逆にスッキリしたよ。喜冬さんが僕にアラーム機能を説明した時に、『ほこやぎ町の私たちの身体を休ませてあげないとね』って、言っていた意味がやっと分かったよ」
「ふっ、だから脳がどうとかの心配はいらないの。そもそも杜鷹と喜冬は、私が用意した分体へ憑依してるだけなんだから、普通のダメージは濾過されるだけ、分かった?」
「分かったよ。ありがとう、小蒼ちゃん。」
『ふっ、分かったならそれでいい』
小蒼ちゃんは僕にそう告げると光の粒子となって、まほやぎプラネタリウムへ帰っていった。
「さて、僕も帰るかな……」
【妄想犯行計画からログアウトしますか?】
小蒼ちゃんの説明から考えると……僕の五感酔いの原因は、目の前で寝ているモリサキモリタカである僕自身が、身体が悲鳴をあげている事を僕自身に伝えたかった。
その上で、第1の妄想犯行を攻略中、僕は一睡もせずに、ほこやぎ町にいる間は現実世界の時間が完全停止しているからと理由を付けて、何も食べずに約30時間起きていたのだ。
だからモリサキモリタカの体のダメージが、限界を越えた分が、ダメージの副作用として、現実世界の僕自身の身体に返ってきていたのだろう……
――さてと、ログアウトするか。
白いスマホのログアウトコマンドをタップした僕は、現実世界のまほらぎ市の自宅へログアウトしたのであった…………
34話 確定存在 小蒼ちゃん 後編 完。
35話へつづく!
最後までお読みいただきありがとうございました!




