28話 第2の妄想犯行 探索篇 Part.3
第2の妄想犯行 探索篇 Part.3
【202X 1月1X日 AM07:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局 モリタカルーム】
【残解決時間 146時間30分】
ピリリ! ピリリ! ピリリ!
【ほこやぎ町への五感転送が完了しました!】
「本当に朝になってるよ……」
僕の視界に映るほこやぎ町の時刻を示すUIに表示された現在時刻が、前回ログアウトしてから約半日以上の時間を紡いでいることを実感している。
――これが本当の妄想犯行計画の攻略の仕方だったのか……
「でも確かに身体の感覚がいつもより楽だし、頭のボッーとした感じも無いな」
僕が30時間以上起きたまま解決した匂いの妄想犯行と同様に、アラーム機能の存在を知らないまま攻略を始めていたら、僕はどうなっていただろうか?
そんな事を考えながら萬屋記録局の局員服に着替えた僕は、モリタカルームの扉を開けた。
「あ、おはよう、杜鷹」
「おはようございます、赤葉さん。風邪は治りましたか?」
「おかげさまでね、でもまだ完全回復ではないかなー。あっ、そうだ! スキンハゲから杜鷹宛にメール来てたよ」
「えっ? 僕宛に?」
「そうだよ、えーとね。例の新年の幸せコインの持ち主件? ……もしかして事件? 事件でしょ?」
「まあ……今のところは事故ですがね――」
僕は、山北さんの転落事故の件、明堂さんが送ってきたメールにもあったビル裏で見つかったコインの件も含めて、赤葉さんに報告した。
「ほほう、なるほどね……本当にそうなのかな?」
「どういうことですか?」
「えーと、山北さんだっけ? その人が誰かに転落させられた犯行に、ゴーグルと新年の幸せコインが犯行に使われたとしたら、転落させた人はなんでそんな面倒くさい事をしたの?」
「それはですね、まだ掴めてないんですよ」
「掴めてない? 杜鷹らしくないね……つまりさ、名前が登録される幸せコインを犯行に名前が登録されるコインなんだよ。この意味、杜鷹は分かってる?」
「確かに、そんな簡単に足がつきそうな物を使わないですね……」
「そう! そんな簡単に足がつきそうな物を犯人は使わないはずだよね? でもさ……まだその空き会議室は調べてないんでしょー、もし仮に金餅さん事件の時の計画的な犯行だったら、考えは違ってくるかもね」
――赤葉さんの言う通りだ、僕たちはまだ空き会議室を調べてはいない。
ガチャ!
「おはようございます、赤葉さん、森咲君」
「おはよう、喜冬」
「おはよう、喜冬さん」
「おはようございます。赤葉さん、体調どうですか?」
「うーん、まだ完全回復ではないかな。今日も調査に行くんでしょ? また帰ってきたら話、聞かせてよ」
「分かりました、赤葉さん。じゃあ行こうか、喜冬さん」
「二人共、ちょっーと待った!」
「えっ? 赤葉さん、なんですか? 今から僕は現場に……」
「スキンハゲのメール、見ていかなくていいの?」
――あっ、明堂警部のメールの事、すっかり忘れてた……
「喜冬も一緒に行くなら、見ておいた方がいいよ」
「はい、赤葉さん」
僕と喜冬さんは、局長PCに届いた明堂警部からのメッセージを赤葉さんに見せてもらった。
「なるほど……あのコインの持ち主は……ほこやぎ商事のツアー企画部社員東川 雫美さんのコイン……数日前にビル内で落としてから探していた……詳しくは現場で、か……ありがとうございます! 赤葉さん!」
「はっ? メールを見せただけなんですけど……スキンハゲによろしくね、2人共いってらっしゃい」
僕たちは、萬屋記録局からほこやぎビルに向かう事にした……のだが、外の気温は仮想空間なのかを一瞬忘れてしまうぐらいの寒さだった……
――寒っ! ほこやぎ町も氷点下零度を下回ってるよ……寒すぎる!
【202X 1月1X日 AM09:00】
【ほこやぎビル4階 転落元 空き会議室】
【残解決時間 145時間】
ほこやぎビル入口で明堂さんと合流した僕と喜冬さんは、山北さんが転落してしまった現場であるほこやぎビル4階のほこやぎ商事の空き会議室に来た。
「おはよう、杜鷹君。久しぶりね」
「お久しぶりです、八色さん。おはようございます」
――ん? なんで八色さんがいるんだ? しかも喜冬さんをじっと見てるし……
「あなたが、雪護喜冬さん?」
「はい、そうです。はじめまして、萬屋八色警視」
「こちらこそ初めまして、雪護さん。赤葉や白葉と混同するから、下の名前で呼んでください」
「わかりました、八色警視」
「で? 杜鷹君はなぜ、赤葉の代わりに雪護さんを連れてきたのかしら? 責任者である赤葉が来ない理由は?」
「……あ……え、赤葉さんは……」
――『風邪は治りましたが、病み上がりなので』なんて、言える訳ないだろ……
「八色警視、私から説明してもいいですか?」
「ええ、どうぞ、雪護さん」
「はい……赤葉さんは金餅さんの事件を解決した後、森咲さんへ『一睡もせずに、集中力が落ちている状態で、万が一推理が間違っていたら、杜鷹は責任を取れるのか?』と注意したと言っておられました」
「確かに……私の妹である赤葉であれば、間違いなくそう考えるでしょうね……でもね、雪護さん」
「はい、八色警視」
「その言葉は、私の妹である赤葉であれば、絶対言わない言葉よ」
「ええ……責任感が強く、萬屋記録局の局長である赤葉さんは、そうは言わない……だからこそ、風邪を引いてしまった赤葉さんからの指示で、私がここにいるのです」
「……ふぅ、合格ね。よろしく、雪護さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
――えっ? ……どういうことだ?
「杜鷹君、良かったわね。もし雪護さんがいなくて、君だけだったら帰ってもらってたわよ」
「…………はい、すみません」
そういう事か……この人は嘘をすぐに見抜いてしまうぐらいの観察力を持っている人だ。
だから八色さんは僕の口から、赤葉さんが来ない理由の説明を求めていた。
それに対して、僕が八色さんに嘘をつこうとした時点で、八色さんは調査許可を認めない。
結果的に妄想犯行計画のゲームルール通りに暴くことが出来なくなり、ゲームオーバーとなってしまうところだった……
――喜冬さんがいてくれて良かったよ……
「ごめん、雪護さん。助かったよ……」
「大丈夫だよ、それにしても生で見る? 八色さんは迫力が凄いね」
「うん……そうだね……」
「森咲君、落ち込みすぎだよ」
「別に落ち込んでは……いや、切り替えていくよ」
「雪護さん、ちょっといいかしら?」
「はい、なんでしょう? 八色警視」
八色警視に呼ばれた喜冬さんと離れ、僕は会議室を調べていくことにした。
「会議室は昨日、鑑識が調べた後のままだ。森咲、気になることがあったら俺に聞いてくれ」
「分かりました、明堂さん」
――まずはどこから調べようか……会議室テーブル周りからかな。
僕はまず空き会議室のテーブルデスクを調べる事にした。
この会議室のテーブルデスクは、会議がしやすい長方形の形で配置されていた。
窓際の角席の対角線の席周辺にビジネスカバンが置かれており、椅子にはトレンチコートが掛けられている。
僕は会議室の状況から事件当時、山北さんが座っていた座席は、対角線の席であると考えた。
――普通、山北さんを転落させるなら窓際の角席に座らせた方が簡単なのに……うーん。
「明堂さん、山北さんの嵌めていたゴーグルは、私物でしたか?」
「ガイシャの私物? あのゴーグルは、ほこやぎ商事のツアー企画部の備品だった。今朝、記録局へ送った新年の幸せコインに関するメッセージの通り、コインの落とし主の東川 雫美さんもツアー企画部の社員さんだ」
「なるほど……東川さんはツアー企画部ですか?」
「なんだ森咲、何か引っかかるのか?」
「いいえ、別に引っかかる点はありませんが……明堂さん、山北さんの所属部署はどこでした?」
「ガイシャの所属部署は営業部。営業部の部署は、この会議室から近い場所にある……だから森咲は何が言いたいんだ?」
――この空き会議室から営業部から近かったとしてもこのカバンとコートだけでは、空き会議室に山北さんがいた理由、4階から転落しているのに外れていなかったゴーグルをかけていた理由、ビル裏にコインが出てきた理由と繋がらない。
「山北さんは、山北さんの性格から、ほこやぎ商事の多くの社員から殺意を向けられていたと白葉さんから聞きました」
「そうだ……ガイシャは自分より下と判断した社員さんやビルのメンテナンス業者にマウントを取ることで有名で、萬屋白葉が提供してくれた情報の裏取の結果、ガイシャを憎んでいた人間は多い、ビル裏のコインの持ち主である東川さんもそのうちの1人だ」
「東川さんもそのうちの1人?」
「そうだ。萬屋白葉の情報からの追加情報によると、ガイシャは気に入った女性に対して、プライベートの詮索や執拗な口説きもしていた」
「それはマウント癖以上のヤバさですね……」
「ガイシャが、東川さんへの態度を変えたのは、ガイシャからのプライベート誘いを断ったから、だそうだぞ」
「ははは、分かりやすいな……」
――晴山先輩はそこまでの人じゃないだけ、全然マシだな……
「まあ、組織に偶に生まれてしまうモンスター社員みたいなもんだ、ガイシャには悪いがな。……でもだからって、ガイシャを殺めていい理由にはならん、森咲も俺と同じ様に考えるだろ? 違うか?」
「そうですね。山北さんがどんな人だったにしろ、殺めていい理由にはならない……えっ? 転落事故の可能性は無くなったんですか?」
「あのな、森咲。この現場に萬屋警視がいるという事は、そういうことなんだってぐらい、理解しろよな」
僕は、今以上にちゃんと調査しなければとならないと八色さんがいる理由を明堂さんから聞いて理解した。
「明堂さん、山北さんが東川さんと同じぐらいに執拗な口説をしていた社員さんはいますか?」
「ああ、いるぞ。備品管理部の中崎杏さんと萬屋白葉と同じ情報管理部の西平明凛さんだ」
「ありがとうございます。では逆に山北さんが、マウントを異常な程にとっていた社員等はいますか?」
「ガイシャが異常な程マウント取っていた社員等? ……それならこのほこやぎビルのメンテナンス業者であるK.Sビルメンテナンスのリーダーの森南徹さんだ」
「ビルメンテナンスのリーダーさんにまでですか?」
「そうだ。萬屋白葉からの情報では、顔立ちも良く人柄も良い評判の森南さんは、女子社員からの人気があり、その嫉妬心からではないか? と言っていたな」
「嫉妬心ですか……明堂さんと八色さんは、誰が山北さんを殺めたと考えていますか?」
「チッ! それが解ってりゃ、お前がここにいるはずがないだろうが!」
――あっ、やばっ、キレた……
「明堂君の言う通りよ、杜鷹君。昨日、白葉から事件の報告を受けた時、君がいると聞いたから君の知恵を借りようと私は考えたの、私達もある程度の予想はできているの……でも――」
「つまり、確たる証拠が無いと?」
「そうよ。金餅邸の西坂さんによる事件とは、また違う事件だから、私の考えの1つとして君の力を借りる事を考えている……でも最終的に決めるのは杜鷹君よ、君はどうする?」
遅かれ早かれ、山北さんは殺めれていたのかもしれない。
でも山北さんがモンスター社員であったとしても殺める理由にはならない。
でもこれは現実世界の暴かれる側のプレイヤーである、あの子が組み立てた妄想犯行計画によるものだ。
あの子はもしかしてマウント取る人間が許せないということなのだろうか……
もしあの子が組み立てた妄想犯行計画を元に、妄想犯行計画というゲームシステム側が、殺められてしまう人間を選んでいるのだとしても…………
――それでも僕は、喜冬さんとハッピーエンドの未来を掴むためにこのステージを暴き、クリアするだけだ。
「八色さん、先日も言いましたが、どんな理由があろうと人が人を殺めるなんてあってはいけない! ……だから僕は今、ここにいるのですよ」
「……ふぅ、合格ね。その言葉を待っていたのよ。あの事件の時の様に頼んだわよ」
「はい、分かりました!」
僕は、八色さんから正式許可を得て、喜冬さんと調査を再開した。
――山北さんが転落してしまった要因がこの会議室あるはずだ……
「森咲君……これなんだろう?」
「ん? 会議室のテーブルがどうかしたの?」
「そこじゃなくて、テーブルの天板裏のこれだよ」
喜冬さんが気づいた物は、窓際の角テーブルの天板裏につけられている小さな四角い機械だった。
「……なんだろうね、これ? ……雪護さん、この機械さ、天板裏にビス留めされてる……あと小さい横穴が2つあるみたいだ」
「四角い小型の機械に小さい横穴…………森咲君、それってもしかして……スマホと無線接続できるタイプの小型スピーカーじゃないかな?」
「えっ? 無線接続するタイプのスピーカー? ちょっと待って、白いスマホの設定画面をっと…………あった! 雪護さん、正解だ! これスピーカーだよ!」
僕が白いスマホで見ていた画面は、設定画面の無線型周辺機器のペアリングリストだ。
そしてペアリングリスト内には、喜冬さんが見つけた小さな四角い機械の正体である無線接続タイプのスピーカーがあった!
――あれ? 間違えて接続したら変なメッセージが表示されたけど……業務? 情報? なんだこれ? ……ヤバっ!
28話 第2の妄想犯行 探索篇 Part.3 完。
29話へつづく!
最後までお読みいただきありがとうございました!
*2026年3月23日(月) 内容を改訂いたしました。




