1話 想いを叶える存在 刻想器
妄想犯行計画 未来を掴む推理ゲーム
想いを叶える刻想器
お金が欲しい。
――でもただ待っているだけでは、お金が欲しくても貰えない。
宝くじが当たって欲しい。
――宝くじの当選は、奇跡の奇跡が起きて、当たるもの。
好きな人と付き合いたい。
――ただ待っているだけでは、好きな人とは付き合えない。
異世界転生し、女の子とハーレムを築き、その世界でついでに俺様無双したい。
――もし次の朝、本当に異世界転生していたら? 何も知らない状況でそこからどう生きていくんだ?
これが20代半ばのサラリーマンである森咲杜鷹として生きてきた僕の中では、叶わないと考えてきた願いである。
僕が叶うと考える願いとは、大切なモノ、大切な人を護りたいという、心の中にある想いだと考えている。
瞳に映る世界が、全てだと考えて、今を生きてきた僕の目には、想いを叶える存在を自称するモノがいる。
『我は、刻想器。汝らヒトの想いを叶える存在である。あの未来を見た汝は、今、何を想うのだ?』
あんなものを見せた上に、その上更に未来を見た感想という名の選択を迫るのか? でも僕は今、選択をしなければならない。
幸福な未来とは真逆の絶望の未来に繋がる可能性を回避する為の選択、大切な人、大切なモノを護りたい、僕の想いを叶える為の選択を……僕は今、刻想器に迫られている。
今から僕が語るのは、刻想器が目の前にいる状況から体感、約数十分前の出来事である。
【数十分前 プラネタリウム】
今の僕がいる場所は、小学校の校外学習で、訪れた事のある天体観測が上映中のプラネタリウム……
でも本当は、推理作品である萬屋赤葉の事件帳の劇場版アニメを、同僚の雪護喜冬さんという女性と観に来ている。
だから、このプラネタリウムで、身体の感覚で体験している事自体が、おかしいと普通は考えるだろう。
僕の趣味は、トリックモノと推理モノの作品の鑑賞と考察で、少し変わった趣味である事を自覚しているおかげで、この状況を冷静に考える事ができて、心落ち着く天体観測を眺めているのだ。
――それでもこの今の状況は、よく分からないけどね。
『煌めく、星々を巡る神秘的なロマンチックな旅は、いかがでしたか? 次は、森咲 杜鷹の未来を皆様、是非ご鑑賞くださいませ』
「なんだこのアナウンスは? 僕の名前がなぜ出てきた?」
おかしいと思いながらも、森咲 杜鷹の未来の上映は、止まることなく始まった。
「森咲杜鷹の未来か、幸せな未来だと良いけどね。
そう思わない、雪護さん? ……あれ?」
隣の座席に座っているはずの同僚の雪護喜冬さんに声をかけたつもりが、そこにいるはずの雪護さんが、何故かいない事に気づいた。
「雪護さん、どこに行ったんだろうか? ……あれ? よく見たら僕以外、誰もいないじゃないか」
この状況を言葉で表現するなら、 異世界転生の作品で、トラックに轢かれて、命の灯火が消えた主人公が、世界の創造主の神様と出会う空間というイメージがピッタリ! これがこのプラネタリウムに今いる、僕の感想だ。
『皆様、大変長らくお待たせいたしました! 森咲 杜鷹の絶望の未来のクライマックスに突入いたします!』
――僕の絶望の未来へのクライマックス?
訳の分からないアナウンスを聞いた僕が、天井に視界を向けると、そこには僕が目を背けたくなる様な映像が映しだされていた。
【202X 某日 森咲 杜鷹の絶望の未来】
この映像の中の森咲杜鷹は、ベッド以外の家具は何もなく、部屋内から出られない様に、ドアノブが外されたドアがある異様な空間にいた。
LEDの光もなく、窓も無く、壁の中に設置されているスクリーンディスプレイの光だけが、空間内の唯一の光となっている。
映像の中の森咲杜鷹は、来年春に放送する予定である萬屋赤葉の事件帳の実写ドラマの映像を観ている。
しかし映像の中の森咲杜鷹は、何故か涙を流し、誰かの名前を呟きながら、瞬きもせずにずっと観ているのだ。
「なんで、泣いてるんだよ。僕は未来で一体、何をしたんだ?」
未来の森咲杜鷹と同一人物である僕からすれば、未来という不確定な事実を、強制的に確定させられるという受け入れがたい状況だ。
『皆様、森咲 杜鷹の未来、いかがでしたか? 本日の上映は終了致しました。またのご来館をお待ちしております』
……森咲杜鷹の絶望の未来は、森咲杜鷹である今の僕が、目を背けたくなる様な作品だった。
映像の中の森咲杜鷹が、涙を流しながら呟いていた名前と涙を流しながら観ていた萬屋赤葉の事件帳。
森咲杜鷹が呟いていた名前は、森咲杜鷹である僕が座る、隣の座席に本来座っているはずの大切な人の名前。
森咲杜鷹が涙を流しながら観ていた、若手女性小説家、柊が作り出した、萬屋赤葉の事件帳は、森咲杜鷹である僕の心の支えの一つであり、ファンとして大切なモノ。
大切な人と大切なモノを繋ぐキッカケを踏み躙った、森咲杜鷹の絶望の未来という映像は、僕の涙腺が崩壊する程の涙が止まらないぐらいの絶望だったのだ。
僕以外に誰もいない静寂なプラネタリウムで、響き渡る森咲杜鷹である僕の咽び泣く声。
僕が生きる今からの未来を見るというのは、本来なら非現実的で、不確立な現象。
明日という名前の未来を選ぶ事ができるのは、僕だけであり、それが森咲杜鷹として存在している理由だ。
「こんな所で、泣いていても仕方がない……帰ろう……僕はどれぐらい泣いていたのかな」
どれぐらい時間を僕が泣いていたのかは分からないが、プラネタリウムに居続ける理由は僕には無い。
だから僕は帰るために座席を立とうとした……立とうとしたはずだった。
「えっ? た……立てない、身体が全く動かない」
帰ろうとした僕は、なぜか座席に完全に拘束されていた。
どれだけ身体を動かそうも、叫ぼうとしてもダメだった。
絶望の未来の次に起きた、座席の地獄のVIP席化は、金縛りを体験した事がない僕が、手足の痛みと身体に重りを乗せられた結果、擬似的な金縛りの体験をしている様な感覚であった。
『ふっ、まさか、我と同じ思考を持つヒトがいるとはな』
「誰だ! もしかして、森咲杜鷹の絶望の未来を僕に見せて来たのはお前か? どこにいるんだ? 姿を見せろ!」
『ふっ、汝の目は節穴なのか? ずーと、汝の目の前にいるのが、見えないのか?』
「目の前だと? 僕の目の前にはプラネタリウム投影機しかない! 一体、どこにいるんだよ!」
『ふっ、我はここだ! 節穴の目を持つヒトよ!』
ガチャン! カラカラカラカラ!
僕が座る地獄のVIP席が、絶叫マシンでおなじみのジェットコースターのシートへ変貌した瞬間だった。
カラカラカラカラカラカラ!
「ん? おいおい待て待て! 天井にぶつかる! ……止まった?」
僕を乗せている地獄のジェットコースターは、天井にぶつかる直前で、なぜか急停止したまま、動かなくなった。
「おいおい、僕は高い場所が苦――うわぁぁぁ!」
いきなり走り出した地獄のVIP席ジェットコースターは、ゴールであるプラネタリウム投影機を目指して、急加速しながら下り始めた。
ギュイーン! ギュイーン!
「………うわぁぁぁ、屋内でこん……うわぁぁ!」
ギュイーン! ギュイーン!
――ああ、もう早く家に帰りたい……
「や、やばい! ぶつかる! …………あれ、助かった?」
地獄のVIP席ジェットコースターは、ゴールであるプラネタリウム投影機の目の前で、急停止したのであった。
――は、吐きそうだ……
「ウプッ、屋内ジェットコースターは危ないだろ! 勘弁してくれ、勘弁……」
『ふっ、屋内ジェットコースター? その様なことを言ってきたのは、汝が初めてだぞ』
「そうかい。僕からすれば、普通に恐怖でしかなかったよ……あの映像もジェットコースターも……」
『ふっ、恐怖? それはヒトではない我には、分からぬよ。ただ、強き想いを持つ汝をこのまま帰したら、惜しいと我は考えた。ただ、それだけである』
当たり前の様に頭の中に話しかけてくる存在は、意外と普通に会話ができるみたいだ。
『ふっ、確かにヒトと会話をするのに、顔を出さぬのも礼儀知らずとなるな。汝よ、我はここだ』
その声と同時に、黒いプラネタリウム投影機から放たれた光が、一瞬だけ見えた。
「なんだ、そこにいたのか? 分かる訳がないだろ?」
『ふっ、汝の目は本当に節穴だったな……』
「よく言うよ……僕をこんな所に拐っておいて……」
『ふっ、我は刻想器。汝らヒトの想いを叶える存在である。あの未来を見た汝は、今、何を想うのだ?』
これが数十分前から続いている出来事で、長い振り返りの時間となってしまった。
こうして僕の目の前には、森咲杜鷹である僕の絶望の未来を強制的に観せ、選択という名の元に、観た感想を迫る自称想いを叶える存在、刻想器がいる。
この刻想器が、僕の想いを叶える為に、一体どんな要求を僕にしてくるのか?
刻想器が想いを叶えてくれた結果、僕の絶望の未来を変えることができるのか?
だから僕は、その結果を知る為、目の前に現れた刻想器と会話をしてみることにした。
もし本当に、絶望の未来を変える事ができるのなら、大切な人と大切なモノを護る事ができるのであれば……
どの様な結果でも、僕は受け入れる覚悟はある!
1話 想いを叶える存在刻想器 完。
2話へつづく!
最後までお読みいただきありがとうございました!
*12月10日(木) 一部内容を改訂いたしました。
*1月17日 カクヨム版の1話と同一にしました。
*2026年3月9日(月) 1話を再構築改訂版として投稿しました。




