変わらない隣
掲載日:2025/08/21
澄川悠には、数えるほどしか友達がいない。
けれど、その一人ひとりは深くつながっていて、長く心に残る存在だった。
ある夕暮れ、親友の美咲が電話をかけてきた。
声はかすかに震えていた。
「ねぇ、私さ…仕事、やめようと思うんだ。頑張ったけど、もう無理かもしれない」
悠はしばらく黙って耳を傾けた。
彼は慰めの言葉をすぐに投げかけるタイプではない。
ただ、美咲の声の裏に隠された疲れや迷いを、静かに受け止めていた。
「美咲は、いつも全力でやってきたよね」
やがて悠が口を開いた。
「だから、今しんどいって思うのは当たり前だと思う。
でもさ、やめるかどうかは、疲れが少し落ち着いてから決めてもいいんじゃない?」
美咲はしばらく沈黙し、やがて小さな笑い声を漏らした。
「悠って、すぐには答えをくれないけど…話すと落ち着くんだよね。不思議」
悠は微笑み、窓の外に沈みゆく夕日を見つめた。
「俺は、美咲がどんな選択をしても、友達でいるからさ」
その一言に、美咲の声は少し明るさを取り戻した。
「ありがとう。悠がいてくれてよかった」
電話が切れたあと、悠は自分の胸に広がる温かさを感じていた。
――数は多くなくてもいい。
少数の友の隣にいて、変わらない灯火であり続けたい。
それが、自分の役割なのだと。




