管理局の影
放課後の夕焼け。校舎裏に響く足音は、もう二人だけのものではなかった。
異空間の裂け目が閉じたあと、ミサキは小さくため息をついてから、言った。
「ユイ。話さなきゃいけないことがあるの」
「……管理局のこと?」
ミサキは静かに頷く。そして、制服の内ポケットから一枚の黒いカードを取り出した。
そこには銀色の文様とともに、“異空間管理局第八支部”の文字が刻まれている。
「私たちは、異空間の“発生と侵食”を監視・管理するために存在してる。
でも……全てを救えるわけじゃない」
「つまり、黙って見過ごすこともあるってこと?」
「場合によってはね」
ミサキの口調は冷静だった。
「それが……正義なの?」
ユイの声には、わずかに怒りがにじんでいた。
過去に、力を持ちながらも助けられなかった誰かがいる――そんな記憶が、彼女を責めている。
「――正義って、すごく都合のいい言葉だよね」
ミサキは自嘲気味に笑った。
「でも、だからこそ私は、ユイと組みたい。あんたの力は強すぎて、むしろ管理対象に近い」
「つまり、私を“監視”するの?」
「最初は、そうだった。でも今は――違う」
ミサキが真正面からユイを見る。
「私は、あんたを味方にしたい。敵じゃなくて、仲間として」
ユイは黙っていた。
心が揺れる。信じたい。でも、まだ怖い。
そんな彼女の内心を見透かすように、ミサキが笑う。
「とりあえず、近いうちに“上”があんたに興味を示す。少し面倒な連中だけど……私が守る」
「……いいの? そんなこと言って」
「私、ちょっと反抗期だからね」
からかうように笑うミサキに、ユイもほんの少し口元を緩めた。
だがその頃――
学園の屋上、そのはるか上空。
“誰か”が空間の裂け目を透かして、地上を見下ろしていた。
「白神ユイ……ついに顕現したか」
男の声。歪んだ仮面に包まれた存在。
「ならば――『眠りの鍵』を回す時だ」
その目が見つめる先、ユイたちの未来はまだ、誰も知らない。