二人の共闘
黒い影が、空間の裂け目から這い出した。
数は三体。どれも人の形をかろうじて保った“歪んだ模倣体”。
空間の揺らぎに引き寄せられ、現実に干渉する危険な存在だった。
「速い……!」
ユイが後方に跳ぶと同時に、ミサキが指先から光の輪を放つ。
その輪が影の一体を包み、内部から蒸発させた。
「一体、排除」
「……それ、あなたの能力?」
「そう。“境界執行印”――空間を安定させる術式。私は管理局の執行官だから」
ユイは小さく目を見開いた。
(空間の歪みに直接干渉できるなんて……)
けれど、すぐに二体目が襲いかかってくる。
今度はユイが前に出た。
「夢境転域――《氷華展開》」
ユイの周囲に咲き乱れる氷の花弁が、敵を覆うように舞い、鋭い刃となって貫いた。
氷の華が砕け、影は霧となって消える。
「やるじゃん、ユイ」
「あなたも」
残るは一体。だが、それは先の二体とは違い、体躯が倍近く、異空間の裂け目と同調し始めていた。
「マズい。こいつ、裂け目そのものに融合しようとしてる!」
「どうなるの?」
「放っておけば、学園全体が異空間に呑まれる」
――それだけは、絶対にダメだ。
「なら……一緒にやるよ」
ユイは力強く言った。
ミサキは一瞬目を見張ったが、すぐに微笑んだ。
「了解、共闘成立」
ユイとミサキ、二人の力が交錯する。
氷の花弁と金色の輪が交わり、大きな陣を描いた。
「《夢境交合陣》、起動!」
ユイの氷華とミサキの執行印が融合し、異空間を浄化する螺旋の力が放たれる。
巨大な影はうねり、叫び声をあげながら、光の渦に呑まれて消滅した。
裂け目が閉じる。
すべてが、静寂に戻る。
「……終わったね」
「うん」
しばらく沈黙のあと、ミサキが静かに口を開く。
「ユイ。あなたが“あちら側の人間”でよかった」
「……私は、自分がどっち側かなんて、まだ分からない」
「じゃあ、これから一緒に考えよっか」
「……うん」
それは、少女たちが“敵”を超えて、初めて誰かと心を通わせた瞬間だった。