目覚めの時
氷華の聖宮。
それは白神ユイだけが展開できる、夢と現実の狭間に存在する異空間。
どこまでも続く氷の回廊。天井から吊るされた無数の氷柱が、風に触れて微かに鳴く。
まるで、孤独を奏でる鐘の音のようだった。
「……っ」
ユイは侵入者の咆哮に、眉を寄せた。
巨大な影は床を這いながら、鋭い爪のような触手を伸ばしてくる。
だが、それが触れる寸前で――ユイの前に光の壁が立ちはだかった。
氷の盾。それはユイの無意識の意思が編み出した、心の防壁。
「お願い……暴れないで。もう、誰も傷つけたくないの……」
祈るような言葉。けれど、影は止まらない。
空間を揺らし、ユイの内面すら壊そうと迫ってくる。
(私の“こころ”が、試されてる……)
彼女はようやく気づいた。
この異空間は、自分の心が反映された場所。
――逃げ場所でも、牢獄でもない。
自分がどう在りたいかを、問われている。
そして――ユイは決めた。
「私は……戦う。誰かを遠ざけるためじゃなく、守るために」
その瞬間、空間が輝いた。
氷の回廊に、白い花が咲き乱れる。
氷華――ユイの想いが形を変えて咲いた、夢と心の結晶。
「夢境転域《Phase 2》――『氷華開顕』」
ユイの足元から、無数の氷の花弁が舞い上がり、侵入者を包み込む。
影は、悲鳴をあげることもなく、静かに氷の光に消えていった。
空間が収束する。
世界が、現実に戻っていく。
一人、廊下に立つユイの顔に、やわらかな風が吹いた。
(これは始まり。私が“変わる”ための)
彼女の中で、何かが確かに目覚めた。
***
こうして、白神ユイの戦いと再生の物語は、静かに幕を上げた――。
【序章:完】