夢境転域の兆候
教室の窓際に座る白神ユイは、静かにノートに目を落としていた。
授業の声は遠く、彼女の意識は別の場所に漂っている。
ふと、指先に微かな感覚が走る。
「また…始まったの?」
ユイの手のひらに、薄く青白い光が滲み始めた。だが、周囲のクラスメイトには何も見えない。
目の前の世界が少しだけ歪み、時間が緩やかに流れたような錯覚に襲われる。
彼女は慌てて深呼吸し、手を握りしめた。
「夢境転域……勝手に暴走しないで」
その能力は強大だが制御が難しく、まだ完全には使いこなせていなかった。
放課後、ユイは一人で校庭の隅にある古い木の下に座った。
静かな時間の中で、夢の城プラシア城の欠片が頭の中に浮かぶ。
「この力、どうすれば…」
そんな時、背後から声がかかった。
「白神さん、転校初日で何かあったの?」
振り返ると、同じクラスの穏やかな瞳の少女が立っていた。
ユイは少し驚きつつも、その声にほっとした。
「ありがとう、気にかけてくれて」
こうして、ユイの小さな居場所が少しずつ広がっていくのだった。