「王太子アシュレイの本音」
翌朝、僕は何事もなかったように教室の椅子に座り、窓の外をぼんやりと眺めていた。授業開始の鐘が鳴るまではまだ十分に時間がある。だが、生徒たちはすでに集まりはじめ、にぎやかな朝の空気が広がっていた。
「ノイシュタット。君、また寝てただろう?」
目の前に現れたのは、銀髪に碧眼の青年――王太子、アシュレイ・フォン・レアミル殿下その人だった。
彼は僕のことを“珍しい話し相手”程度にしか見ていない。**王族らしからぬ気さくさで、**偉ぶらず、どこか少年のような無邪気さがある。だからこそ危険でもある。
「おはようございます、殿下。寝ていたかは記憶が曖昧ですが、夢の中でドラゴンとティーパーティーをしていたような気がします」
「ははっ、君は本当に変わってるなあ。そういうところ、嫌いじゃないよ」
軽口を交わしつつ、僕は心の中で鋭く彼の顔色を探った。昨日、ミレーヌ・グレイスと話したことが、この王太子にも影響している可能性はある。
「それよりノイシュタット。昨日の話、聞いた?」
「どの話でしょう。この国は“聞きたくない話”ばかり飛び交ってますから」
すると、彼は人払いをするように左右を見て、声を少し落とした。
「ミレーヌがね、最近、俺に近づいてくるんだ。今まではほとんど必要以上に関わらなかったのに、急に“王家の将来のために”とか言い出して」
……やはり、ミレーヌはアシュレイにも仕掛け始めていた。
「それって……王子の政治的基盤を整える、ってことですか?」
「たぶんね。でも……俺はそういうの、苦手なんだよな。政治とか、策略とかさ。僕はただ、平和に生きたいだけなんだ」
その言葉に、僕はほんのわずかに眉を動かした。表情は変えずに。
(……この男、“裏”の世界に踏み込む覚悟がない。だが、利用はできる)
王太子アシュレイ・フォン・レアミル――彼もまた、駒として使うには十分な存在だ。