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「聖女と王太子と、面倒の予感」

僕は草むらの上に落ちていた外套を払いながら羽織り、メイド――いや、エージェントのクロエに目配せした。彼女は無言で頷き、小さな巻物を取り出す。王城からの暗号文だ。


 解読するまでもない。あの署名と封蝋の刻印だけで、誰が差出人なのかは分かる。王国情報部――《影の手》の奥に潜む、影のさらに“奥”の存在だ。


「グレイス公爵家の令嬢ね……。確か“聖女候補”の一人だったな?」


「はい。本日、神殿関係者と接触し、国教庁の内情を探るような行動が確認されました」


 クロエの声は静かで、まるで風の音と同化しているかのようだった。僕の左肩の後ろでその気配を消しながら情報を読み上げていく様子は、まさに訓練された影。


「……学園に通っていたはずだよな。確か、三年生。ミレーヌ・グレイス」


「ええ。以前から在籍していましたが、目立った動きがなかったため、接触は控えておられたかと」


「ああ、そうだった。王太子の婚約者というだけで、めんどくさそうだしな」


 僕は肩をすくめる。知っていた、確かに。だが積極的に関わる理由もなかったし、彼女が“動く”までは見守り対象でしかなかったのだ。


「王家の後継ラインと宗教勢力の結託……。なんとも分かりやすく不穏だね」


「はい。国政の根幹に関わる問題と判断され、優先案件として通達が来ました」


 僕の口から、心底嫌そうな声が漏れた。こうして裏で“国家のがん細胞”を摘み取っていくのが僕の役目とはいえ、なるべくなら静かに、平穏無事な学園生活を送りたいのだ。


「……仕方ないか。誰かが処理しなきゃ、この国はすぐ腐る」


 深いため息をついて、僕は言った。


「よし。ちょっとだけ、関わってみるか。彼女が本当に“危険”かどうか」


 そう呟くと同時に、無能を演じる仮面をわずかにずらした。エリオット・ノイシュタット、本日も任務開始である。


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