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怪奇かえる男が仲間になったわ♪

『わたくしを、……そのう。連れていっていただけませんか。ご一緒に』



 アイーズとヒヴァラは面食らって、思わずきょとんとしてしまった。



『外の世界を見てみたい、とそういう気持ちばっかりは大きいのですけど……。実際に道の上に立ってみたら、もう何がどうなっているのかさっぱり勝手がわからなくって、怖気おじけや不安がとまらなくって~~! 一緒に行って、旅や移動そのものを教えて下さる方を、ずーっとお待ちしていたというか。その、ええと……』



 怪奇かえる男カハズ・ナ・ロスカーンはうつむいて、もぞもぞもじもじ、やや早口で続ける。



『えーとですね、わたくしいつもこうではありませんで……。その、人目につかないよう姿はひそめてまいりますし。もちろん、若いお二人の邪魔になるような、そんな野暮は決していたしませんから……』



 口を開けたままヒヴァラと顔を見合わせて、くわーっっとアイーズは赤くなった。



『……って、やっぱりだめでしょうねぇ。いけませんよね、ご迷惑ですよね、忘れてくださいまし。あ~恥ずかしいぃぃぃ』


「いえカハズ侯、違うんですー!」



 ぶんぶんぶん、アイーズこそ恥ずかしくなって両手のひらを振った。



「確かに便宜上、他の人には蜜月旅行ー、なんて風には言ってますけど! わたしとヒヴァラは昔っからの仲良しで、……ヒヴァラはわたしの、大事なお友達なんです!!」


『え……?』



 きゅるっと目を動かして、怪奇かえる男は寂しそうに笑っているヒヴァラのほうを見たらしい。


 小さくきぅっと肩をすくめてから、その寂しさを瞬時に引っ込め、ヒヴァラは朗らかにアイーズに言った。



「かえるさんと一緒に行くの、俺はいいと思うよ? アイーズ」


「そ、そうねヒヴァラ? わたしもそう思うわ。ぜひ一緒に行きましょう! カハズ侯」


『……よろしいのですか』


「ええ!」



 慌てふためきはしたが、アイーズは豊かな胸の内で気づいてもいた。



――同じく精霊であるカハズ侯が、一緒にいてくれれば。ヒヴァラの中にいるという、あのおっかない精霊への牽制になるかもしれない。あいつも、簡単にはヒヴァラの身体をのっとれなくなるわ!



『ありがとう……。ありがとうございます!』



 さらに顔じゅう濃い緑色になって、カハズ・ナ・ロスカーンは感極まった声を上げた。



『それではわたくし、お二人の恩に報えるよう……。道中、全力でヒヴァラ君の呪いの謎を解くお手伝いをさしていただきますね!』


「ええ、よろしくお願いします! カハズ侯」


『いい年なんですけど、うれしくって跳ねたい気分です……』



 明朝、二人が出立するときにあわせて出てくるからと言って、カハズ・ナ・ロスカーンはいとまごいをした。



『ではまた明日! ごきげんようっ』



 ぴょいーん、……湖側にあいたへやの窓から、怪奇かえる男はほんとに跳ねて出て行った。


 アイーズとヒヴァラはあっけに取られて、一挙に静まり返った室の中に座っている。


 やがて、ヒヴァラがぼそりと言った。



「……そろそろ、俺らも寝よっか」


「そうね!」


「俺、もう一つ自分用の草編み天幕を理術でこしらえるから。アイーズは大きいほう、使いなよ」


「え?」



 ぎくり、としてアイーズは見上げる。ヒヴァラのやぎ顔は、少し硬かった。



「俺の身体の中に、あの変なやつがいるってこと。……アイーズにかくしてたわけじゃないんだけど、俺にもよくわかってなかったから、言えなかったんだ。でも今となっては、俺があいつに呪われてるってはっきりしたし……。何が起こるかわかんない。暗い中で、アイーズの近くにはいられないよ」



 眠っている間に自分自身を乗っ取られることを、ヒヴァラは危惧しているらしい。



「平気じゃな~い? そんなの」



 わざと朗らかに、アイーズは言い放った。



「出てきたとしても、またわたしがヤンシー風の気合でびびらせてあげるわよ。さっきだって、危ないところでヒヴァラが戻ってきてくれたんじゃないの! 大丈夫よ、これまでだってそうだったんだし」


「うーん。でもなぁ、リメイーで、……」



 もぞもぞ言いかけるヒヴァラの語尾は、低すぎて不明瞭だった。気にせずアイーズはたたみかける。



「それに、二人で天幕わけっこした方があったかいわよ! 一人で冷やひや寝たら、風邪をひくかもしれないじゃない? そっちの方が大損害だわ」


「そうかあ。それもそうだ」



 ヒヴァラは納得してうなづいた。



「じゃあ、これまで通りで行こう。でもさアイーズ、もし夜中にあいつが出てきて、何かいじわるなこととか言い出したら。そのさくら杖で、思いっきりぶっ叩いちゃっていいからね?」


「えー? まさか、ヒヴァラの身体は叩けないわよ~~」



――大事なヒヴァラなんだもの。



 はなにかけたひょうきん調子に、アイーズは本音の理由をそっと隠した。







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