理術士ヒヴァラを指揮するわっ!
「俺が理術で炎を出せば、人さらい達は死んじゃう。でも出さなければ、おばあさんと子どもが危ない」
ぶるぶる身体を震わせて、すがりつくような眼差しでヒヴァラはアイーズを見る。
「どうしたらいんだろう、……アイーズ!」
――ヒヴァラは……。炎の攻撃のさじ加減ができないんだ!
ぐっ!
察して、アイーズはヒヴァラの肘を強く握った。
「大丈夫よ、ヒヴァラ。炎じゃなくって、別の方法でなんとかあいつらを追っ払える。わたしの合図にあわせて、理術を使うの。いいわね?」
こくり、ヒヴァラはうなづく。
ぎゃあ、ひぃやーん!!
男に小突かれながら、十二歳くらいの子が小屋の外に出てきた。その胴に、五つか六つくらいの小さな子どもが二人、ひっついている。泣きわめいているのはその二人だった。
「ヒヴァラ。あの二人の男に、草で腹巻を作ってあげて!」
「は、はらま……」
「きっついやつよ。両手をびったし胴体にくっつけるくらいの。ヒヴァラなら、絶対できる!」
「あ、ああ……そっかー! いざ来たれ 群れなし天駆ける光の粒よ、高みより高みよりいざ集え」
ヒヴァラの髪が、頭巾の下でかッと強く輝きだす。ヒヴァラの唇がものすごい速さで動いて、ティルムン語を紡いでいった。
ふあっっ……。
突如として体の周りに何か取りからまるような感覚をおぼえて、二人の男はぎょっとした。
「え……うえええ!? 何じゃ、こりゃあっっっ」
縄のようなものが、胸の下から太ももまでぐるぐる巻きついている。身体にぴったり寄せた両腕が、動かせないっ!
「何だぁぁぁ!? おいお前ぇ、取ってくれぇ!」
「お、俺にだって引っ付いてやがんだ! これっ」
男二人は、思わず焚火のそばに寄った。自分たちを拘束している、摩訶不思議な縄の正体を確かめようとしたのである。
「ようし! 今よヒヴァラ、焚火に一点集中して≪乾あらい≫の風を送ってッ」
「集い来たりて 彼らがまといし衣の穢れをば払い去れ」
ふうあーッ!
ヒヴァラの作った乾風のひとすじは、勢いよく焚火に向かって吹いてゆく。
そこで、ぱちんっっ! 炎の中心で、大きくはぜた!
「ぎゃっっっ」
「うわ、わぁーっっっ」
上衣の裾にぽつっと移った火に仰天して、男たちはたじろぎうろたえる。
その様子をじっと見計らい、アイーズはす~~と息を吸った。
「ガーティンロー騎士団!!! 街道・警邏ぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
どっきーん!? 隣のヒヴァラがびびるほどの大音響で、アイーズはがなった!
はなにかかった低い声を、兄ヤンシーのものまねで培った元不良風のどすのきかせ方で響かせる。ふくよかなお胸、およびお腹奥底からの気合が入りまくって、高めの男声に聞こえないこともない!
「火のぉぉぉおおぅ、用ぉー心ーー!!!」
案の定、火に責められた男二人はびくりと身体を硬直させる。
「さっ、ヒヴァラ! 次はわたしたちの後方、上に向かって≪乾あらい≫を吹きまくって! 木の枝を派手に揺らすのよっ」
「集い来たりて 樹々がまといし衣の穢れをば払い去れ」
何で? といっさい疑問を差し挟まずに、ヒヴァラはひたすら早口で詠唱した。
ざわぁあああああ!!!
大きく吹いていく乾いた風は、遠くで大勢の人間がざわつくような音をたてる。
「うっわ……! イリーのお巡りだ!」
「ち、ちくしょうッ」
男二人は上衣のすそにちろちろ火をつけたまま、森の向こう側へ飛び込んでいく。
アイーズはヒヴァラの肘を軽くつかみ、掘っ立て小屋に向かって歩き出した。
「上出来よ、ヒヴァラ! よくやったっ」
「うん……!」