どえらいカミングアウトだわ!
「……バンダイン若侯、そういうことなのです。……私の弟は、理術士になってしまったのですよ!!」
悲鳴に近いようなファートリ侯の声を聞きつけて、アイーズの父バンダイン老侯はぎくり・もしゃり、とした。
「はぁぁぁぁ!? あんだとぉぉぉ?」
一方でヤンシーは、鼻の頭にしわを寄せただけである。じつに不良らしい表情だ!
「呼び方なんでもいいし、実際どうだっていいけどなぁぁぁ!? ヒヴァラお前ぇ、なんで初めっからそれ言わねぇで、隠してたんだよ。ごるぁぁッ」
「ごめんなさい。ヤンシーお兄さん」
ぽそり、ヒヴァラは小さく寂しく答えた。
「ごめんじゃねぇだろがよ!? やばいこと、よくねぇことだと自分でもわかってたから、言わなかったんだろッ。とりあえず、とっととアイーズ離さんか! ごるぁぁぁッ」
「それも、ごめんなさい」
ぎゅうううう。
背中とひざ裏、自分を抱き上げているヒヴァラの両腕に強く力がこめられた……と、アイーズが感じた時。
ヒヴァラはまた、ティルムン語を発した。
「……いざ来たれ 群れなし天駆ける光の粒よ、高みより高みよりいざ集え 集い来たりて 我が身をみず鏡の輝きで護れ……」
ひゅッ!
ヤンシーの喉奥が妙な音をたてるのを、アイーズは聞いたように思う。
「え、うえええッ!? おい……、おい! アイーズ、ヒヴァラぁっっ!?」
突如取り乱したように周囲を見回し始めるヤンシーの横をすり抜けて、ヒヴァラはどんどん細道の方へ歩いていく。
「アイちゃああああああん!!」
父の悲痛なだみ声に、アイーズがどきりとしたのを察してヒヴァラは低く囁いた。
「……いま、皆に俺たちの姿が見えないようにしてあるんだ」
道の脇にいたべこ馬のそばまで来ると、ヒヴァラはアイーズを地面に下ろす。
「お願いだよ、アイーズ。たのむから、あともうちょっとだけ……。ほんのちょっとだけ。俺と、一緒にいて」
苦しげにゆがめた表情で、ヒヴァラは言った。アイーズはうなづく。
べこ馬の背に手をかけてアイーズは素早くとび上がり、ヒヴァラを引っぱり上げる。
そのまま放さず、ぎゅうっとアイーズはヒヴァラの手を握った。
「ちょっととばすから。しっかりつかまってて」
それでヒヴァラは長い腕をくるっと回し、アイーズのお腹の上で両手を組んだ。
かッ、かッ、かッ、かッッ……。
暗い道、星明りのよく届かない小道を、アイーズ達は西へ進む。
濡れそぼった衣類を通して、ヒヴァラの震えがぴたりとアイーズにしがみついているのが、よくわかった。