表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/133

どえらいカミングアウトだわ!

 

「……バンダイン若侯、そういうことなのです。……私の弟は、理術士・・・になってしまったのですよ!!」



 悲鳴に近いようなファートリ侯の声を聞きつけて、アイーズの父バンダイン老侯はぎくり・もしゃり、とした。



「はぁぁぁぁ!? あんだとぉぉぉ?」



 一方でヤンシーは、鼻の頭にしわを寄せただけである。じつに不良らしい表情だ!



「呼び方なんでもいいし、実際どうだっていいけどなぁぁぁ!? ヒヴァラおぇ、なんで初めっからそれ言わねぇで、隠してたんだよ。ごるぁぁッ」


「ごめんなさい。ヤンシーお兄さん」



 ぽそり、ヒヴァラは小さく寂しく答えた。



「ごめんじゃねぇだろがよ!? やばいこと、よくねぇことだと自分でもわかってたから、言わなかったんだろッ。とりあえず、とっととアイーズ離さんか! ごるぁぁぁッ」


「それも、ごめんなさい」



 ぎゅうううう。


 背中とひざ裏、自分を抱き上げているヒヴァラの両腕に強く力がこめられた……と、アイーズが感じた時。


 ヒヴァラはまた、ティルムン語を発した。



「……いざ来たれ 群れなし天駆あまがける光の粒よ、高みより高みよりいざつどえ つどい来たりて 我が身をみず鏡の輝きでまもれ……」



 ひゅッ!


 ヤンシーの喉奥が妙な音をたてるのを、アイーズは聞いたように思う。



「え、うえええッ!? おい……、おい! アイーズ、ヒヴァラぁっっ!?」



 突如取り乱したように周囲を見回し始めるヤンシーの横をすり抜けて、ヒヴァラはどんどん細道の方へ歩いていく。



「アイちゃああああああん!!」



 父の悲痛なだみ声に、アイーズがどきりとしたのを察してヒヴァラは低く囁いた。



「……いま、皆に俺たちの姿が見えないようにしてあるんだ」



 道の脇にいたべこ馬のそばまで来ると、ヒヴァラはアイーズを地面に下ろす。



「お願いだよ、アイーズ。たのむから、あともうちょっとだけ……。ほんのちょっとだけ。俺と、一緒にいて」



 苦しげにゆがめた表情で、ヒヴァラは言った。アイーズはうなづく。


 べこ馬の背に手をかけてアイーズは素早くとび上がり、ヒヴァラを引っぱり上げる。


 そのまま放さず、ぎゅうっとアイーズはヒヴァラの手を握った。



「ちょっととばすから。しっかりつかまってて」



 それでヒヴァラは長い腕をくるっと回し、アイーズのお腹の上で両手を組んだ。



 かッ、かッ、かッ、かッッ……。


 暗い道、星明りのよく届かない小道を、アイーズ達は西へ進む。


 濡れそぼった衣類を通して、ヒヴァラの震えがぴたりとアイーズにしがみついているのが、よくわかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ