あかべこ発見! しょっぴくわよ
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「っつうかイーディ、お前ぇなぁぁ!? お父ちゃんやお母ちゃんが、どんだけ心配したと思ってんだよッ。かわいそうに姉ちゃんなんか、目ん玉泣きはらしてたぞ、ごるぁ!? 迷子探しが迷子になりゃがって、あんちくしょうッ」
「ううう、だってぇ」
足が疲れちゃってもう歩けない、とぐずる少年をおんぶして行くヤンシーが、小言をいっている。
「まあまあヤンシー、とにかく無事に見つかったからよかったじゃない。まだ日のあるうちで、助かったわよ!」
その後ろを、アイーズはのしのし歩いていった。ちょっとおくれたヒヴァラが、声をかける。
「りん子、おいでー。りん子」
騒動の大もとである脱走首謀者は、まるい瞳が実にかわいらしい黒牛だった。
ヤンシーが常備しているしょっぴき縄、もとい捕縛拘束用の細縄を首輪につながれて、今はヒヴァラに引かれている。
……仔牛と言っても、ゆうにアイーズの丈を上回る壮大なお子様だ。
「おら慌てて出てきたから、べこ縄わすれて持ってこなかったんだ。りん子はずうっと前に見つけてたんだけど、帰る方向に全然ついてきてくれないんだもん」
「縄を忘れてってなぁぁぁ。お前ぇ、巡回騎士がそれやったら、いっぱつでくびだぞぉぉ!? そういう時ゃあ、帯を外して使え! ごるぁぁ」
「あーそっかぁ……、ほだな~い」
「気づけ! ごるぁぁ」
ヤンシーはまだまだ、イーディにぎゃんぎゃん説教継続中である。
アイーズは仔牛の反対側、ヒヴァラの隣に寄っていった。
「……さっき、ごめんね。ヒヴァラ」
「なにが?」
「道あってるのかって、きつく聞いちゃったこと。疑って、ごめんね」
知らない土地で不安があったし、疲れていたし……。正当化と言う名の言い訳を、アイーズは付け足さないでおく。何をどうしたって、余計にみっともなくなるだけだ。
ふるる。高ーい位置にある頭を、ヒヴァラは横に振った。
「いいんだ、全然。どうしてイーディの行き先わかったのか、うまく説明できない俺が悪いんだもん」
「……でも本当に、すごいね? 探しもの得意って、昔はそんなこと言ってなかったわよね?」
「うん。最近とくいになったんだ」
「そうなの? ……おっと、りん子や。みちくさはもうだめよ、きりきりお歩きー」
「あはは。ほんとかわいいなあ、赤んぼう牛。あかべこー」
ヒヴァラに声をかけられ引かれると、りん子は素直についてくる。やんちゃな女の子なのに、なぜだか初対面のヒヴァラになついている様子だった。
「わたしも次に失くしものしたら、ヒヴァラに探すの手伝ってもらおうかな」
「うん、まかしといてよ。……でも、アイーズでも失くしものなんてするの?」
しない。アイーズは子どもの頃から、ほとんど物を失くさなかった。忘れ物だってしない。
そもそもあんまり物を持っていないし、大事なものにはきちんと気を配っている。
――いちばん大っきな失くしものは、自分から出てきてくれたしねー。
「? なに? アイーズ」
アイーズが見上げて笑いかけるヒヴァラのやぎ顔が、不思議そうに小首をかしげた。
「お巡りの兄ちゃん。おら、腹へったよう」
「どの口が言うんじゃ、お前ぇぇぇ」
やがて細道の向こう側、農人らしき男性たちがやってくるのが見えた。
「あっ! イーディ、イーディ坊かよう!?」
「見っげでくれたんかー! おまわりさん!」
手を振ってくる男たちの中から、歓声が上がる。りん子を引いたまま、ヒヴァラがヤンシーのそばにそうっと寄った。
「ヤンシーお兄さんが見つけた、ってことにしといてください。お願いだから」
「あー? おう?」
ヤンシーは深く考えずに、ヒヴァラにうなづく。……