牧歌的きわまる追跡風景よ!
※牧歌的ながら、お食事中にはふさわしくない表現が本エピソードには含まれております。ご注意くださいませ。
・ ・ ・ ・ ・
どうしてそんなに、自信を持って突き進めるのか。
アイーズがいぶかしむほど、ヒヴァラの足取りはぶれなかった。
周囲をきょろきょろ見まわしたり、分かれ道で思案することすらしない。ここには初めてきたはずなのに、まるで土地勘を持っているかのようにヒヴァラはずんずん進んでいく。
日ごろから田舎道を歩きなれているアイーズですら、うっすら汗ばむほどの早歩きで、半刻(※)弱も歩いただろうか?
「ヒヴァラ……! ほんとにこっちで、道あってるの? と言うか、ここがどこだかわかってるの?」
荒く息をつきながら、アイーズは問いを投げる。
イヌアシュル町の東側、テルポシエ国境に通じているはずの深い森のほうではなくって、その縁をめぐる道に入っていた。地元の人しか使わなさそうな細い小道、これまで誰とも行き会わない。捜索に出ているはずの巡回騎士らとも、地元民ともかち合わなかった。
「いや、全然!」
「っって、あのねぇ~~!?」
少し疲れてきたせいで、アイーズの声がいら立ってしまった。
ヒヴァラがくるッと振り返る。悲しげに自分を見てくるその目に、アイーズはぎくりとした。
「ごめん……。けどイーディは、確かにここを通ってるはずなんだ」
「……」
アイーズだって、信じたいのはやまやまだ。けれど確証もなく引っぱりまわされるだけでは、誰だって不安になる!
そう言おうとした時、兄ヤンシーが突然声を上げた。
「ぅおい、お前ぇら! あれを見ろぉッ」
ヒヴァラの背後を指さし、ヤンシーが目をひんむいている。
アイーズはそちらに目をやって、思わず右手を口の前あたりに上げた! もちろん小指を立ててだ!
「ああッ、あれは!!」
「わぁ、うんこちゃんだ」
ヒヴァラがのどかに言い、三人はうずたかい山盛りに駆け寄った。
「馬のじゃないわ! 草たべてするッするの、仔牛のお通じよ!?」
「山も小っさいしなッ。これ、迷い牛のやつじゃねぇのかッ」
ひょろッと屈みこんだ腰をのばし、ヒヴァラが遠くを見た。
「……いた」
やさしげなヒヴァラの視線を、アイーズとヤンシーは追う。
荒れた農地の中に向かって、野道から細く分かれたささやかな径があった……。その先にごろんと大きな岩がいて、午後終わりの陽光をいっぱいに浴びている。
ヒヴァラはそうっと近づいていって、岩の裏側に回り込んだ。
浮かれてあそび歩いて疲れ切った仔牛と、それを見つけた安堵に脱力しまくった少年が、岩にもたれお互いにくっついて、眠りこけていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(※)アイレー世界における『一刻』は、そちらの約二時間です。というわけで半刻はだいたい一時間。(注・ササタベーナ)