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宿場町リメイーに到着したわ!

 

 ヒヴァラの兄が配属されている、高地第二分団拠点のあるイヌアシュルまでは遠い。


 南端の首邑みやこファダンから国境北端まで、ほぼ全領土の南北縦断をすることになる。ふつうの常足なみあし騎行では、とても一日で到達できる距離ではない。


 父バンダイン老侯と兄ヤンシーだけだったなら、ぐっと速足でとばしただろう。途中にある地方分団基地で、疲弊した軍馬を取り換えられる。よって倍の速さで到着するのだろうが、軍属でないアイーズとヒヴァラがいるのでは、そうも行かなかった。


≪切り株街道≫上の宿場町、リメイーで四人は一泊することにした。


 暮れかけた黄昏たそがれの光の中、町門をくぐる。


 そこの衛兵役の巡回騎士らは、父と兄とに騎士礼をしたが、アイーズとヒヴァラにはこう言った。



「すみませんね。土地の性格上、宿泊する方には身分証を確認させてもらってるんですよ」


「あっ、はい」



 アイーズとヒヴァラの差し出したものをさらっと見て、リメイーの巡回騎士はうなづく。



「どうもありがとう。どうぞ」



 町の厩舎に馬を入れ、自分たちで世話をしてから、一行はリメイーの中心街に向かって歩いた。



「あのう。土地の性格、って……?」



 誰へともなく、そうっとたずねたヒヴァラをぎょろんと見返し(※悪気はまったくない)、ヤンシーが答える。



「ここの町からそのまま≪切り株街道≫を北進すりゃ、北の国境に出るだろぉ? けどその前に、≪山間ブロール街道≫に続く道にも通じてんだよ。ごるぁ」


「山の道の方面から、わけわからんのが入ってくることもあるしの。他の地域より、警戒だいぶ強めなんよ。このへんは」



 ひげをひくつかせて、もしゃもしゃと父も話に入ってきた。



「そうなんですか……」



 老若バンダイン侯の言う通りなのである。


 沿岸部をつらぬいてイリー諸国間をつないでいる≪イリー街道≫を表道とするならば、山沿いを走る裏道とも言えるのが≪山間ブロール街道≫だった。


 そこでは東の大国テルポシエを通過せずに、内陸部からイリー圏外≪北部穀倉地帯≫に到達することができる。しかし≪切り株街道≫以上に山々森々と深い林を抜けてゆくため、治安がよろしくない。各国騎士団の警邏けいら巡回の網目をすりぬけて、よからぬ無頼者ぶらいものや悪徳業者が多用する傾向にあった。



「でも。山の道の方面から来た、わけわかんないやつって……。そのまんま俺だし!」



 わざとぼけているわけではない。


 まじめな態度のヒヴァラがの口調で言い、隣を歩くアイーズはまたしても、かくっと脱力した。



「いやいやヒヴァラ、ちがうでしょ。わたしは君のこと、ちゃんとわけ・・わかってるわよ~?」


「あ、そう? けど俺って自分でも、わけわかんないこといっぱいだし~」



 返すヒヴァラは、どこまでも素でありまじめである。果たして天然ぼけと認定すべきなのか。


 その時、花鉢に囲まれた路上の立て看板がアイーズの目に入った。



「おっと。お父さん、ヤンシー! あれって宿屋じゃないかしら?」


「おんや、そうだね」


「つうか宿泊費とめし代、出張騎士経費で落ちんだよな~? 父ちゃん?」



 町の主要道に面した、石造りのどっしりした建物である。古い町家を改築したところらしい。



――ふうー。とりあえず旅の初日、今日は何も怖いことはなかったわね~! よかった!



 安堵したアイーズは兄の後ろに続き、のしのし宿の中に入ってゆく。そこにひょろん、とヒヴァラがついていった。



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