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そこには友情があったのね!

 

――そうか。この人……ペレーグさんは、ファートリ老侯を友人・・と思っていたのね……!



 そうわかった時、アイーズの胸の内が少しだけ軽くなった。


 病が早まったゆえの老衰か、この世を去りかけ丘の向こうへ行きかけているファートリ老侯のことが不憫で悲しくていたたまれない。だからペレーグは友人として、何とか自分にできるだけのことをしているのだろう。



「たしかに、人の記憶をねらった部分だけ消しつぶす理術があります」



 低く、しかしはっきりとした調子でヒヴァラが言った。理術の詠唱をする時のように、通る声である。



「≪若年性もの忘れ≫って言って、すごく難しくて力をたくさん使う上に不安定です。いっぺんかけただけだと、かけた相手が何かの拍子に思い出しちゃうこともよくある。父さんは向こうで、ディルト侯の手下の理術士につかまって、その術を何度も重ねがけされたと思うんだ」



 理術の重ねがけと聞いて、アイーズは何となく拷問のようなものを想像してしまった。ヒヴァラにはもちろん聞けないが。



――ファートリ老侯がティルムン現地で風土病にかかってしまったと言うのは……。もしかしたら、そのせいなの? 関係はあるのかしら?



「そうなのかい。じゃあさっきも聞いたけど……君はもう、一人前の理術士なんでしょ? おやじさんにかかってる術を解くことって、できないの?」



 ペレーグの問いに、ヒヴァラは小さく首を振った。



「俺は見ての通り、精霊に呪われちゃってるし。しかも聖樹の杖を持ってこなかったから、並みの理術士みたいに理術つかえないんです」


「え~……」



 落胆するペレーグを前に、アイーズとカハズ侯は胸中でだけようしッ! と、こぶしを握った。



――ここのところは打ち合わせどおりよ、ヒヴァラよく言ったわ! 軍曹ほめてつかわす!


――周囲の人間には、理術が使えないってことにしておいた方がたぶん良いのです! えらいヒヴァラ君。



 ティーナ犬も、前足の肉球をぎゅうとすぼめていた。



――なみの理術士みたいには使えへん、ちゅうだけでー。べべ聖樹の輪っかと俺の力で、ぶっちぎりなみ以上・・・・に使えんねん。嘘はついてへんで~??



「……それに。記憶封じの術を解除できるのは、その術をかけた本人だけなんです。他の理術士がどれだけがんばっても、つぶされた記憶は元に戻せない」



 やはり詠唱時のように硬い声調で、ヒヴァラは淡々と続けた。



――えっ。ちょっと待ってヒヴァラ、それはつまり……??



 はっと気づいて、アイーズは顔を上げた。


 ペレーグとヒヴァラ。伯父と甥とが机を間にして、よく似た寂しい表情を向かい合わせている。



「ティルムンにいる、むこうの理術士に解除させなきゃだめってことなのかい?」


「はい。でもって、父さんに記憶封じ≪若年性もの忘れ≫の術をかけたのが、≪沙漠の家≫の大人たちの誰かだったとしたら、……」



 へやの中に今はっきりと、絶望が満ちる。



「その人たちはもう、みんな死んでしまったから。父さんの記憶はもう、永遠にもどらない」





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