表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

219/231

わたしとしたことが! 油断大敵だわ(恥)

・ ・ ・ ・ ・



「……えーと??」



 ふあっと気づいた時、アイーズはおなじみ草編み天井を見た。


 毛布に包まれわらぶとんにのっているからには、天幕泊の野宿ではなくて宿屋にいるはず……。薄暗い中でも、それは何とかわかる。しかしこの狭さは一体?? 草編みの天井と壁とは、アイーズの身体ぎりぎりくらいのところを覆っているのだ。


 むくり、とアイーズは上半身を起こす。毛布の下はいつもの麻衣に毛織、ふくろ股引ももひきの着のみ着だった。



――ぎゃっ、何っ?? ねまきにも着替えてない! お湯も使わないで寝ちゃったの、わたしー!?



「……起きたか~い」



 やたら近い、寝床すぐ脇の草編み壁からにゅうとヒヴァラの顔が出た。ぼんやり輝く赫髪(あかがみ)のおかげで、アイーズははっきり知る。


 ヒヴァラとアイーズは、同じ寝台の上にいた。ヒヴァラは大きな寝床を天幕でくるんだ上、二人の間に草仕切りを作ったらしい!



「……大丈夫? どこか痛くない、お腹とか?」


「……」



 か――!!! 


 自分の頬に、さらにその上に、血がのぼるのをアイーズは感じる。とっさに声が出てこなくて、アイーズは狼狽した。



「頭いたいとか、気持ちわるいとか」


「……ないわ」



 妙に口の中が渇いてはいるが。



「あの店員。アイーズのはっか湯に、蜂蜜酒か何か入れたっぽいんだ。よっぱらっちゃったから、俺おんぶして宿に帰ったんだけど……。へやに入ったら寝台いっこしかないし。もう本当、どうしたらいいかわかんなくって」



――よ、よ、酔っぱらった……このわたしがッ??



 飲めないイリー人の代表格にして典型のアイーズである。蜂蜜酒は強いから、ほんの微量でつぶれてしまったらしい。



「だからもう、本当ごめんなさい。ぼうしと靴と外套だけぬがして、あと毛布にくるんで転がしちゃったんだ。むりやり起こして目をさまさすのが、そのう……。できなかったんだ、もったいなくって」


「は??」


「だから俺もつきあって、≪乾あらい≫とかしないでそのまんま寝ちゃった。あとでお湯使った後にするよ」



 しょんぼりしたような、同時にひどく照れたようなヒヴァラの話は、いまいち要領を得ない。しかし記憶の外側で醜態をさらしたわけではないらしい……とわかり、アイーズはどうにか動揺を抑え込んだ。



「そいじゃ、まだ早いし。俺もうちょっと寝るね」



 ヒヴァラの顔が、すういと草壁のむこうに引っ込んでいく。



「そっち寝台脇の卓に、水さしとゆのみ、のってるよ」


「え、ええ……」



・ ・ ・ ・ ・



 雄鶏の歌にて二度寝から目ざめ、簡単な宿の朝食をむさぼった二人は、エンベラの町を出る。


 朝日の中に浮かぶ白い道を北方に取りつつ、黒馬上のアイーズはヒヴァラに改めて話し出した。



「よくよく考えてみれば、むちゃくちゃ危ない状況だったわね! あの店、わたしたちをお酒で盛りつぶすつもりだったんだわ。店の裏側から、奴隷業者にでも引き渡す魂胆だったのかしら!? おそろしいわ~、やっぱりここは無法地帯なのよ」


「……」


「ヒヴァラが引っかからずにいてくれて、助かったわ。北部の町って、本当に油断ならないわねっ」


「アイーズ。……俺のは、ふつうのはっか湯だったよ。全部のんじゃったけど、何ともなかった」


「え? そうなの?」



 驚いてアイーズが肩越し振り返ると、ヒヴァラはきまり悪そうな苦笑を浮かべている。



「……あの、ねえ。アイーズは時々、よっぱらった方がいいと思うんだ。俺」


「何でよ。危ないじゃないの」


「……でもアイーズ、大っきなねこみたいに、ふかふか丸くなってて寝てて。ものすごくかわいかったんだ」



 かっぽかっぽかっぽ……。沈黙のうちに、ミハール駒の蹄音だけがひびく。



「一生!!! お酒なんて、のまないわーッッッ」



 照れかくしに、アイーズは小さく咆えた。生まれて初めて、本当に『ぎゃふん』と言いたくなった瞬間である。


 ミハール駒がぴくんと耳を動かして、その頭の上に乗っていた小さなカハズ侯がふふふ、となごやかに笑った。


 見えないティーナは、どこかで笑いを抑えている気配である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ