表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

211/235

≪風刃≫で逆ワープよ!

 

「ん――ぎゃあああああっっっ」



 長い長い長い穴の中を、ヒヴァラに抱えられたアイーズはどこまでも垂直に落ちていった。


 ヒヴァラが作り出したらしい青い風が、水を切り裂いてゆく! 


 その風の進むすぐ後ろを、二人は落ちてゆくのである。


 そう、風には色がついていた……。鮮やかなはなだ色の空気の流れが、暗い水をどんどんかき分けていくのがアイーズにも良く見える。


 いったいどこまで落ちるのか、いつまでも続くように思えた落下は、ふいに終わりを迎える。


 ばちん!!!


 何かと何かが衝突する大きな音に、アイーズが思わず目をつむってから開けた時――。


 見覚えのある風景、怪奇のひとかけらもない夜の野の景色が見えた。あの廃村、公共水汲み場だったらしい水たまりのほとりだ。



『あっ……も、戻ってきたのですねー!?』



 ヒヴァラの外套頭巾ふちからそうっと顔を出したカハズ侯が、つぶやいた。



「ヒヴァラ、……今の音は何? ばちんって、どこかぶつけたの?」


「うん。俺の長靴底と、地面がぶつかったんだ」



 アイーズをゆっくり地面に下ろして立たせながら、ヒヴァラは言った。


 びゅうううううん!


 まだ風が強い……。アイーズは左手で丸帽を押さえ、右手でヒヴァラの肘あたりをつかむ。



「大丈夫? すごい理術を使ったのね」


「うん。攻撃のひとつで≪風刃≫って言うんだ。ティーナの言うとおりだったよ、理術の杖を使った時みたいにだいぶ威力がでた……! ほんとに力は、貸してなかったんだろ? ティーナ」


『ないでー。いま頭光ってなかったやん? おまいだけの力でやったんや』



 するっ、とヒヴァラの足元に浮き出たティーナ犬が言った。



「すごいもの、もらったな!」



 ヒヴァラはアイーズを見、自分の左手首を見た。



「これでティーナの力を借りなくっても、アイーズのためにどんどん術を使えるぞ」



 夜空の弱い明るさの中でも、ヒヴァラが嬉しそうに笑っているのがアイーズにわかった。


 それはいかにも屈託のない笑顔、何の憂いもなかった遠い日のヒヴァラそのものにも見えて、アイーズの胸のうちはなぜだかぎゅうっと苦しくなる。


 ヒヴァラにそれをさとられたくなくて、アイーズはひょうきん鼻声で言った。



「それじゃあ、ね。さっさと天幕へ帰りましょう……。ゆのみに半分お白湯作ってもらって、寝るわー! もうくたくたよ、わたし」


『そしてこの、怪異まれなる≪迷い家まよひが≫探検譚をしめくくるのですね~!!』


「そうだね!」



 アイーズとヒヴァラはそっと、水場の水面を見やる。


 巨大な岩々に囲まれた水たまりはごく小さく、水位は低くなっていた。底に光るものもない。


 もはやその中にとび込むことは不可能だと、誰の目にも明らかなほどに【扉】は小さく、暗くなっていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ