ヒヴァラがまほうグッズを入手したわ!?
ぽたり……。
光る木の梢から、何かが落ちた。
「あれ? 何これ」
ヒヴァラがつまんで拾い上げた……アイーズの中指くらいの長さ、小さな枝先である。
『ふが――ッッッ』
またしてもティーナが、すっとんきょうな声を出す。
『聖樹がじぶんで、杖さずけよったーッッッ』
「……はぁ?? 杖?」
『と言うには、少々みじかすぎ小さすぎではございませんか~』
『よう見んかいッ! こつぶでも聖樹の枝先やぞ、ちゃんと先っぽがこぶこぶ三段になっとるやないか!』
つまみ上げた小枝にしげしげと見入るヒヴァラの脇から、アイーズものぞき込んでみた。
「ほんとだ……。理術士の杖と、まるっきり同じ形してる」
「ヒヴァラが前に使ってたっていう?」
「そう。本物はこんな、長ーいやつなんだけど」
ヒヴァラはひょろっぽい両腕を、いっぱいに広げた。
『いや待てヒヴァラ、これかてほんものやで!? 同等の威力もってるんとちがうか。聖樹がお前に直接贈ってくれたもんや、大事にもらっとき!』
「そ、そうなの? でも何だかなあ。小さすぎて、なくすの怖いな」
その時、小枝がふわりと強く光ってヒヴァラの指先を離れた。
うにうに、とみみずのように宙でのたくったかと思うと――するっ、とヒヴァラの左手首にからみつく。
「……」
ごく一瞬のことだったが、アイーズは見た。ヒヴァラとティーナも、見た。がくがくみやびに震えながら、怪奇かえる男もがっつり見た!
「……それなら絶対、なくさないわね」
「……」
小枝は少しだけのびたらしい。ヒヴァラの左手首で輪っかをつくって、こぶこぶ三つのある腕輪になってはまっていた。
『なんでかさっぱりわからんけど……。このべべ聖樹はお前のこと、何がどうでも応援したいらしいな?』
くす、とヒヴァラがほっこり笑ったらしい。白く光る小さな木に、そのやぎ顔を向けた。
「ほんとだ。ここまでしてくれるんだし、大事にしなきゃね。……どうもありがとう、さようなら」
優しい言い方だった。そうしてヒヴァラはそっと立ち上がる。アイーズの手をとった。
「……行こう」
ためらわない様子で来た道を戻るヒヴァラに手を引かれつつ、アイーズはいちど振り返る。
暗闇の中でぼんやりと光る小さな木の姿は、確かにそこにあった。
やがて、あの大きな水たまりの前に出る。水辺に立ち、アイーズの左手を握ったままでヒヴァラは言った。
「来た時とおんなしで、ここをくぐらないと外へは出られないと思うんだ。……ティーナ、今はちょっと引っ込んでて?」
『常に謙虚ひかえめな俺に、何言うとんねん』
「力をかさないで、ってこと。かえるさんは、頭巾ふちに入って」
『え~? 平泳ぎで支えなくって、よいのですかー』
「うん……。ちょっと試してみたいんだ。 ――いざ来たれ 群れなし天駆ける光の粒よ、高みより高みよりいざ集え」
闇の中、ぼわりと白く強く輝きだしたものがある。ぎょっとしてアイーズが見れば、光源はヒヴァラの左手首だった。あの小枝の環が、光っている!
「集い来たりて 我が敵を撃つ するどき風の刃となれ」
その白い光は、またたく間に膨れ上がった。
ヒヴァラの身体を中心として、まわりの空間いっぱいに昼の陽光のような明るさが満ちる。アイーズの目に、鍾乳洞はさながら真珠でできた宮殿のように見えた!
「ヒヴァラ、……」
「アイーズ、ぼうし押さえてて!」
言われてはっと右手で丸帽を押さえた時、ヒヴァラは屈みこんでアイーズの身体を抱きかかえた。
「蒼き鉄槌を下せ!!」
ぶ・あーん!!!
突如たつまきのようなきりきり風が、二人の周りを取り囲む。
それは勢いよく水たまりにぶつかっていって、ずっどーんと水中に大きな穴をあけた!
「ぎゃああああああー!?」
アイーズはつい叫んだ。
ヒヴァラが自分ごとふわりと弾んで――……その空洞の中に、跳び入ったのだから!!




