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≪語る人々≫シャーレイお婆ちゃんに呪い相談よ

・ ・ ・ ・ ・



 お婆ちゃんが朝市で買い込んでいた日用品と、根菜くだものの色々を持って、アイーズとヒヴァラはついてゆく。


 ぱん屋の裏手にある小さな家が、≪語る人々≫シャーレイさんのお宅だった。



「さーて。呪いを解く方法を知りたいんだよね?」



 いきなり本題にずばりと切り込まれて、アイーズとヒヴァラは淹れてもらったはっか湯を噴き出しそうになる。



「あのっ、まだ何も話してないんですけど~??」


「なんでわかっちゃうんですかッ」


「わかるわよー。あたし、ちっとみえる・・・方なの」



 小さな家の小さな居間。


 低めの安楽椅子の中にふんぞり返ったしわしわお婆ちゃんは、小卓を挟んで腰掛に座るふたりに、何でもないという風に言った。



「でも、精霊ふたつに取りつかれてるって人も珍しいけどね?」



 アイーズはヒヴァラと、次いでその頭巾ふちできょとんとしたカハズ侯と目を合わせた。


 ティーナは姿を消しているのに、お婆ちゃんにはその存在が知れているらしい。



『……ごきげんよう、奥様』


「あらま、紳士な精霊だね。かえるの旦那に福ある日を」



 けろけろと話しかけたカハズ侯にも、シャーレイさんは動じることなく挨拶を返した。



『わたくしはこのお二人にくっついて、世間さまを見て回っているだけなのでして。取りついている、というわけではないのです』


「ああ、そうなのかい。でも、もう一つのほうは違うね。兄ちゃんの身体にすみついて、ややこしいことになっているね?」



 そこでアイーズは、ヒヴァラの身に起こったことをかいつまんでお婆ちゃんに伝えた。


 五つ沼で出会った≪語る人々≫、球技補佐きやでいのおばさんに話したのと同じ内容である。ヒヴァラがティルムンへ行ったこと、理術士であることは伏せ、ティーナによって命を支えられていると話す。ティーナがヒヴァラから離れてしまえば、ヒヴァラが死んでしまうという呪いの本質についても。



「別の地域の≪語る人々≫に、ヒヴァラはが足りていないんだ、と言われました。でもヒヴァラがどうして熱を失ってしまったのか、その原因もわからないままで……」



 お婆ちゃんはむずかしい顔をして、アイーズの話を聞いていた。



「……そうだね、その人の言う通りなんだ。それに人間と精霊ってのは、たましい取って喰われたりするだけじゃなくって、長いこと近所づきあいすることもできるんだよ。でも、ずうっと取りついたまんまってのは無理だね」



 お婆ちゃんはヒヴァラの顔を、目を細めて見つめる。



「どのくらい、取りつかれてるんだえ?」


「えっと……。もう、ひと月になるのかな?」


「だいぶ長いね。そのせいで、こんなひょろひょろにやせちまったんだね……」


「いえ、あの、これはもともとで」



 シャーレイさんは低い声で、ヒヴァラに問うた。ティーナにとりつかれた時のことについて。



「事故で死にかけていた、と言ったね。ものすごく辛いだろうけど、呪いを解くためにゃ、たぶんそこんとこに触れなきゃならん。もうだめだと感じた時、あんたは何を思ったのだえ?」



 アイーズはぎくり、とした。ヒヴァラの頭巾ふちでカハズ侯も緊張している。



「……え?」


「このまま死ぬわけにゃいかん、と何かを強く思ったろう。なにかやりかけていたこと、しなければいけなかったこと……それがあったからこそ、精霊はあんたの中に入り込んだのだよ」


「……それは」



 ヒヴァラは困惑をやぎ顔いっぱいにのせ、隣に座るアイーズを見た。



「ふるさとのファダンと……そこにいるはずの、このアイーズのことを思いました。ぜったい帰りたい、こんなところで死ぬのは嫌だって」



 絞り出すように言ったヒヴァラを、お婆ちゃんはじいっと見つめ続ける。



「それだけかい? 他にはなし?」



 ふるふる、ヒヴァラは頭を振る。シャーレイお婆ちゃんは小首をかしげた。



「……妙だね。本当にそれだけなら、あんたの今際いまわきわの願いはもうかなっているはずなんだ。精霊としちゃあ手助け終了で出ていくなり、魂をよこせとすごんでくる時分なんだがね?」


『あの、シャーレイ奥様。ヒヴァラ君についている精霊は、彼のたましいを取って食べようとかしているわけではないのですよ』


「そうそう。ひねくれてるけど、根の悪いひとじゃないんです」


「うん。まあ、あたしもその辺はうすうすわかるよ。……お話とはちっと違うけど、あたしの旦那が死んだ時にね……」



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