ティーナと夢トークよ!
『なぁ。蜂蜜ちゃんは、ヒヴァラのこと悪くないて思うてんの? あのひょろひょろが、好きなんかい?』
「はじめっから、大事なんだって言ってるじゃない」
『ぬう。微妙にはっきり言わへんのな、さすが女の子。あいつが好えのかちがうのか、どっちやねん』
「……答えなくっちゃだめ? それ」
ふさふさ、かさかさ……。ティーナ犬は長床几の上でまわって、座り直した。
『別にええわ、どうせ夢ん中やもん。……けどな。ヒヴァラはちっと、……いや色々、おかしいとこあんねん。それ蜂蜜ちゃんに言うとこ、思うて』
何だろう、とアイーズはふんわり頭を縦に振った。
『あのな。ヒヴァラはあれは、どうにも蜂蜜ちゃんにぞっこんやろう? 俺だけの主観とちごうて、かわずのおっさんも言うとるし、そこはまぁ間違いないねん。けどな蜂蜜ちゃん、ここ目ぇ覚めてもおぼえといて欲しいねんけど……』
明るい陽の光に、ティーナの赤毛があたたかく輝いている……。
『理術士ちゅうのはな。本来、恋ができひんはずなんよ』
アイーズは小首をかしげた。
『これは秘密でもなんでものうてー、ティルムンではわりと知られてることやねん。俺みたいにな、餓鬼の頃から理術理術でうちこんで勉強して。ほいでそのまま兵士になって、敵あいてにどんぱちかましてるうちはな、女の子と仲良うしよとか、そういう気が起こらんはずなんよ』
「どうして……?」
『その辺も含めて、ぜーんぶ理術の発動に力を持ってかれるからや。あんだけ大食いしとっても、ヒヴァラはひょろんひょろんやろう? 向こうの理術士ってな、皆あんな感じやねん」
夢の中でも早口なティーナの言葉を、アイーズはじっと聞いていた。
『けど俺がヒヴァラめっけて、なかに入った時な? あいつの持ってる記憶、ずらーっと見せられてんか……。瀕死のヒヴァラん中は、小っちゃかった頃の蜂蜜ちゃんの顔で、ふかふかいっぱいやったんよ』
「今でも小柄よ、わたし」
『俺あいてにぼけかましてどないすんねん、んもう。……ほいで俺は何となくわかった。こいつはこの女の子を、そらもう大事に想っとって。そのおかげでぎりぎり生きてるんちゃうか、と』
「……」
『けどな~? ヒヴァラにくっついて、色々わかってくるうちに。やっぱりどうも変や、と思えてきたんよ。あいつはもぐりにせよ、相当きびしい環境で理術仕込まれたはずや。それやのに、ずーっと昔っからの蜂蜜ちゃんへの恋情を持ち続けてるて、普通はありえへん。少なくとも、俺が人間やってた頃はなかったはずや』
「ヒヴァラは特別な理術士だってこと?」
『ある意味そうとも言える。理術つかう時は俺がだいぶん力を貸しとるけど、あいつの詠唱わるくないねん。蜂蜜ちゃんに指揮されたり、蜂蜜ちゃんの快適のために術使う時は、どうにも精度上がっとるし……。もし次に攻撃かます機会があったら、それこそ成長してそうやな』
それはつまり、ヒヴァラが回復しているということなのだろうか、とアイーズはぼんやり思う。
「呪いが解けかけてる、とか?」
ティーナ犬は頭をかたむけた。少し悲しそうに見える……犬として。
『……そっちは全然、変わってへん。相変わらずに、へとへとなまんまやし』
「そう」
『沼で蜂蜜ちゃんがヒヴァラにちゅうしとった後な、俺なり考えてん。ひょっとしてもしかして、蜂蜜ちゃんがヒヴァラの嫁になってくれたら、あいつ嬉しくなって元気になって、俺が抜けても平気になるんちゃうか? ってな。けど、……ことはそうそう単純やあらへん』
ふがー。赤犬はため息をついて、お座りの姿勢から首をぐうっと前に下げた。
『とりついてる俺が言うのも何やけど。ほんっっと複雑や、あいつ』
「ありがとう、ティーナ。……わたしのヒヴァラを、守ってくれて」
もう一度、アイーズはティーナ犬の頭をなでた。そうっと静かに、聞いてみる。
「……あなたは、恋をしたことなかったの?」
『ないねん』
犬もまた、静かに答えた。
『おっさん臭く、蜂蜜ちゃんやヒヴァラにそっち方面からむ時のねたはな、ぜーんぶ生きとった頃に読んだ本からの受け売りや。今となっては後悔役立たずやけど、しとけばよかったな』
「……」
ティーナは前を向いたまま、アイーズの手が首まわりの毛をすくにまかせている。
『むしろ、それ理由で身ぃ滅ぼしたんやったら。精霊になんて、なってなかったかもしれへん』
「ティーナ。あなたは……」
あなたの身にいったい何が起こったの、とアイーズが聞きかけた時。
ふわり、と景色がかすんで陽光ばかりがまばゆく目に入ってくる。
『……そろそろ、起きよし。蜂蜜ちゃん』
あたたかい暗闇、毛布とヒヴァラの草天幕にくるまれた中で、ゆっくりアイーズは目覚めた……。




