表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/237

次の目的地決定、テルポシエに発つわ!

 

「……ヒヴァラを連れて、テルポシエに行くわ!」


「ひゃんっっ!? な、な何でテルポシエっ!?」



 腰掛からずり落ちそうな勢いで、ヒヴァラが驚いた。



「ヒヴァラ。ディルト侯の配下は、わたし達がファダン人だって知ってるんだから、それこそファダンじゅうをくまなく探すでしょう? でも、その先のテルポシエに行くとは思わないわよ!」



 加えて、マグ・イーレとテルポシエは犬ねこの仲。


 マグ・イーレ人としては敵地・・には極力かかわりたくなかろうし、足を踏み入れるのもためらうはず! よってテルポシエ領内の方が、ヒヴァラの足跡を消しディルト侯の追手をまく・・のにふさわしいのである。



「そ、そうか。なるほど」


「ヤンシーのくれたお金もあるし、一回りくらいは向こうにいます。あんちゃん、ミハールごまに乗って行ってもいい?」


「うん。べこ柄の公用馬は、引き続きうちで預かっとくしな。テルポシエ市内にそこそこ良い宿を探して、定宿きめたらうちとファダンのお父さんに便りを出しなさい」


「はい」


「……あとねぇ。万が一、向こうでなんぞ困ったことになって、にっちもさっちも行かんような事態になったら。これを使いなさい」



 アンドールは床に置いていた通勤用騎士かばんを膝に抱き、小さな布包みを取り出してアイーズに渡した。



「……何、これ?」



 開けてみると、中から出てきたのはたまご大の球である。小さなでこぼこが無数についている白い表面に、≪ミ≫と緑色の字が書いてあった。目印のようである。



「接待した時に、テルポシエ高官が置いてった忘れ物。届けに来たとか何とか、適当に口実つくってその人に保護を頼みなさい」



 アイーズは、球を包んでいた布のしわを伸ばした。そこに在所が書かれている。



「……テルポシエ南区あなご通り、三一七番地。ミルドレ・ナ・アリエ老侯?」


「そ。ひと昔まえは、テルポシエ宮廷ですんごい幅きかしてた大物。定年退職が近いからもう一線は引いて、今はのんびり王室のお世話係してるけどね」


「王室のお世話って……。今でもすごい人なんじゃないの?」


「だからね。それ使う時は、本当にせっぱつまった時だよ。使わなければ、必ず持って帰っておいで」


「忘れ物なのに?」


「いいんだよ。もう二年くらい預かってある、切り札みたいなもんだしね」



 公私において張りめぐらせてある、兄の人脈と情報網のおこぼれと言うところだろうか。


 にしたって、こういうものを軍属でないアイーズに渡すのは兄自身、危険をおかす行為であるのに。それだけアンドールもアイーズを信頼し、また身を案じてくれているということだ。



「……ありがとう、兄ちゃん。慎重に保管します」



 ひげに埋もれるように、アンドールはうんうんとうなづいた。



「ま、安全第一で行っといで。いざという時はヒヴァラ君ね、理術の力で何とかしてちょうだい。アイちゃんに危ない真似だの、怪我だのさせないでおくれ?」


「は、はい……」



 さほど感情のまじらない調子で言われたものの、その裏にアンドールがどすんときかせている強いを察知して、ヒヴァラは少し首をすくめた。


 このへんもバンダイン老侯……きょうだいの父とそっくりおんなしだ、と内心で思っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ