お豆をよりながら考察してみるわ
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≪五つ沼≫を後にのんびり黒馬を歩ませて、アイーズとヒヴァラはトゥーヒユの町はずれ、アンドール邸に帰った。
帰るなり、ヒヴァラはダアテに野良仕事の手伝いは要らないか、と聞いている。
「え~、そんな別にいいのよヒヴァラ君~? 遠慮しないで、アイちゃんとまったり仲良くしてたらいいのに」
「いえ、でも、あの。いか酢にんじんのご恩が」
むしろ嬉々として、ヒヴァラは堆肥の天地返しをするべく、広大な庭の隅へ向かった。
地位としてはだいぶ高いところにいる長兄アンドールだが、ダアテは自宅に菜園と鶏小屋を持っている。高官の奥さまとくれば、使用人に囲まれてほほほとお湯をすすっていそうなものだが、義姉は畑づくりこそ究極のぜいたくなのだと言う。
「だってファダン大市にいたら、こーんな大っきい土地は持てないもの。わたしは娘の頃から、鉢で花や香草そだてるのが大好きだったしねぇ」
昨年の収穫分、貯蔵豆のより分けを手伝いながら、アイーズは義姉にうなづいた。
日の当たる露壇に出した卓子の上で、白いんげんがつやっと輝きを放っている。
「ま~、趣味をかねた実益というやつー」
逆ではないかなと思うが、突っ込まないアイーズだった。
「お義姉さんのは、趣味の域を越えてるんじゃないかしら。うちで食べるもの、こんなにどっさりこしらえられるんだもの」
「息子らが帰ってくるときは、とてもとても足りないけどねえ……。おや? 誰か来た。お向かいさんかな、アイちゃんここ任していいかえ?」
裏口から気軽に訪う声がして、ダアテは室内に入っていった。
たくさんの白い豆と、そこに混じった石や豆がらを選る単純作業を続けながら、アイーズは再びヒヴァラの呪いについて考え始める。
――球技補佐さんの言っていた、≪心の熱≫……。よくわからないままだわ。熱は熱よと言っていたけど、具体的には結局どういうことなのかしら?
おばさんは、母親が子どもに熱を分け与えることもできる、と言っていた。それでふと、マグ・イーレで会ったヒヴァラの母親のことを思い出す。思い出すと同時に、アイーズは顔をしかめた。
――熱をあげられない母親も、いそうね。
あんな冷たくからからに乾いた母親のもとにいては、逆にヒヴァラは熱を吸われてしまいそうである。
レイミア・ニ・ディルトは一貫して、そういう母親だったのだろう……。最後に一瞬だけ、うるおい輝くような表情をアイーズに見せはしたが。
それは確か……そうだ、自分がヒヴァラを通して兄・ディルト侯の役に立つ日が来ることに言及した時だった。
――いくら実のお母さんでも、あの人には絶対に頼めない。何らかの形で熱を分け与えて、ヒヴァラの呪いを解くのを手伝って欲しい、だなんて……。
「うーん」
ぱらぱらぱらら……。選った豆を、アイーズは素焼きの壺に戻した。
ぽとり、一粒がつぼのふちに当たってはね返る。
卓子の隅に転がったそれをつまもうと手を伸ばした時……。ふいに、アイーズの頭にひらめいたことがあった。
――お母さんがだめでも……。お父さんなら??




