夢想と困惑のキャディさん
・ ・ ・ ・ ・
「……」
ふかふかした鳶色巻き髪の娘と別れ、林の反対側にある球技場のなだらかな緑の起伏を前にしたとき。
全身もも色の球技補佐おばさんは、……ふあっ!? と我に返った。とたん、声がかかる。
「あーっ、いたいた! もう、何してんの球技補佐さーんッ!?」
遊歩道の真ん中に突っ立っているおばさんの前に、毛のかたまりのような壮年男性がもしゃもしゃと走り寄って来た。
「たしかに休憩中だったけどね。急にいなくなられては、本当に困るんだよ! ほらほら、早いとこ向こう様に鉄板を差し上げてッ」
「は、はい! ただいまッ」
丸ぽちゃ小柄なおばさんは、みじかく草の刈られた球技場の中へ、慌てふためいて走って行った。
引きずってきた長い革かばんから鉄板十番を出し、二人の紳士に向けて差し出す。球技客の紳士らは、皆えりの立った専用衣を着ていた。
「ふふふ、それでは飛ばしていきましょうか」
紫紺のえりを上品に揺らして、オーラン騎士らしい中年紳士が言う。
「ここから追い上げますよ、アリエ侯」
「うらららら。そう来ます~? それでは、逃げ切ってみせましょうー」
草色のえりを立てて、のほほんと笑う老人はテルポシエ人らしい。
――それにしても、不思議な髪の人だねー。金と赫毛が段々になってる、ちりちり髪のじいさんなんて。わたしゃ見たことないわぁ?
もも色の頬かむりから飛び出してしまった、自身の金髪を手ぬぐいに押し込みながら、球技補佐おばさんは思った。
二人の紳士は、緑色の低い丘へ歩いてゆく。その後ろについて歩きながら、先ほどのもしゃもしゃした男性(こちらは地元のファダン騎士らしく、縹色えりの立った専用衣である)がおばさんに耳打ちした。
「いつも通りに、大事な国際接待なんだからねッ。このあとは絶対に消えちゃだめですよッ??」
「あ~はい、それはもう!! バンダイン若侯」
自分では持ち場を離れた記憶もないのだが、おばさんは必死に言った。
――おっがしいなぃ。どうも、ぼーっと眠ってたような気が……しないでもないげんちも~??
ばひゅーんっ!!
「おおおう、アリエ侯! なーい・しょッッ」
球が宙にうたれる小気味よい音に、アンドール・ナ・バンダインのだみ声がかぶさった……。




