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精霊に年齢きいたらあかんで~??

 

「あなたが生きてた時代って、いつだったの。ティーナ?」


『わっからへーん。ティルムン暦も年号も、忘れてもうた。まぁイリー諸国が東でどうのこうの、ってみんなが話してたんは憶えとるから、そこまで昔でないのんかもしれんけど~??』



 少なくとも三百年よりこっち側なのか、とアイーズは思った。


 イリー始祖らがティルムンとたもとを分かち、ここ南海沿岸部に植民して以降だ。いや、あんがいカハズ侯と同年代だったりして、とも思う。


 ヒヴァラの呪いを解明するためにも、ティーナの過去についてアイーズはもっと多くを知りたい。


 しかしティーナはしっぽを振りふり、ととと……と前方へ行ってしまった。これ以上自分のことを話す気はない、という風に。


 深追いするのはやめておこう、とアイーズは考える。根掘り葉掘り聞きだそうとして、ティーナの機嫌を損ねたら一大事だ。



「それにしても。ティーナがわかんなかったのに、あの理術士は≪沙漠の家≫を見抜いておそってきたのかぁ……」



 ため息とともにつぶやくように言って、ヒヴァラはきゅきゅっと震えあがったらしい。アイーズの脇腹に添えられた手に、少し力がこもる。



「なんておそろしいやつだろう……!」



 そうだ、ここの部分も謎に包まれている。


 ディルト侯が秘密裏に創設・運営していたらしき施設の理術士養成所。そこを急襲して壊滅させた若い理術士というのは、いったい何者だったのだろう?



――真のティルムン軍が、偽物の理術士養成所に気づいて、粛清に来たのかしら?



 それなら制圧されるべきは教師役だった退役理術士だけで、閉じ込められていたヒヴァラたち被害者は保護・救出されていたのではないだろうか。


 ティルムン軍とイリー騎士団では方針がまったく異なるのかもしれないが、事情も聴かずに現場にいた全員を即抹殺、というのは永久平和を語るかの国らしくない。



――あっ。それにアンドールあんちゃんの話だと、理術士というのは五人ひと組編成の隊単位で動くんじゃなかったかしら? たった一人で殴りこんでくると言うのは、どう見たっておかしいわよね……。



 結果だけ見れば、この謎の若い理術士が≪沙漠の家≫を急襲し、たまたま見かけた瀕死のヒヴァラをすでに死亡していると勘違いしたことで、ヒヴァラはアイーズのいるファダンへ帰ってくることができたのだが。


 しかしヒヴァラが本音としてもらしたように、その若い理術士が≪おそろしいやつ≫であるのは事実だ。



「そうよね。でも沙漠を渡ってまでヒヴァラを追ってくる、なんてことはさすがにないと思うわよ。その人につけられた気配も、感じなかったんでしょう?」


「うん。全然」


「じゃあ、心配はいらないわよ。はじめの追手二人は、君のことを人違いで追いかけて来たちんぴら・・・・だったんだし、今はディルト侯の配下に集中して注意しておきましょう。 ……ね、あそこの沼のほとりでお弁当にしようか?」


「しよう、しよう」



 生成きなりあるいはたまご色。まろやかな白色の水をたたえた沼を指し、朗らかに言ったアイーズの提案にヒヴァラがうなづく。



『はあ……。本当のほんとに、ふしぎ……。そして何て、美しいのでしょうね。ここは』



 五つ沼とその風景に、いちばん感動しているのはカハズ侯かもしれない。


 怪奇かえる男は、大きな金色の瞳をうっとり潤ませている。



『やっぱり世界は広うございます。想像もつかなかったきれいなもの、素敵なものがこんなにあふれているだなんて……。ああ、ロスカーン湖の古城を出てきて、本当によかった』



 たまご色の沼に、かぽかぽ近づくミハールごまの脇。


 しみじみとしたしょっぱ辛いおじさん声で、怪奇かえる男は夢見るようにつぶやいていた。



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