不思議な色よね! ≪五つ沼≫
≪五つ沼≫というからには、沼は五つある。
林の中へ踏み入る道が砂まじりに白くつけられてあって、それをたどれば五つの沼を順繰りに見て回れるようになっていた。
規模としてはだいぶ小さいが、ガーティンローの≪ユウズ湖沼地帯≫に似ていないこともない。ただし景勝地としては、あまり知られていなかった。ファダン人でも浜域の者でなければ詳しく知らない、穴場の観光地なのだ。
「え……う、わっっ」
『これは……!』
ゆっくりかぽかぽと歩を進めるミハール駒上、アイーズの後ろからヒヴァラとカハズ侯の驚く声があがる。
少しだけのぼった起伏の上、視界がひらけて樹々に囲まれた沼が見えた。
「……林にふちどられた外側部分は、周りの木と同じ緑色なのに」
『真ん中だけ、あかるい翠玉みたいな色になっています。どうして……?』
ふわり、とカハズ侯が怪奇かえる男の姿を取り、アイーズの脇に浮かんだ。他の通行人も見当たらないし、まぁいいかとアイーズは思う。
「不思議でしょう? こんなきれいな色になるのは。沼の水質のせいだとか、土の色なんだとか色々言われているけどね。本当のところは、誰にもわからないのよ」
かっぽ、かっぽ……。
黒馬はのんびりと進んでいった。アイーズ達の前に、小さな沼が次々と現れては驚くべき姿を披露する。
「ここのは赤い、だいだい色に近いくらいだ」
『うふふ。ガーティンローの正規騎士外套みたいに、ど派手ですねえ』
「その向こうの沼は、牛乳みたいに白っぽく濁ってるわ! さかな棲んでるのかしら?」
『次のは、やたらにあっかるい青やのう。沙漠で水緑帯を上から見ると、ちょうどこないな色になるんやけど~』
ふさふさ歩きつつ、ぼそりと何気なく言ったティーナ犬の言葉が、アイーズの耳に引っかかる。
「≪白き沙漠≫の上空を飛んでたの? ティーナ」
『飛んでたちゅうか、ふよふよ高いとこに浮いとっただけや。何ちゅうても暇やったしなー? どの辺にどないな水緑帯があるんかいな、て探したりしててん』
アイーズは、はっと思い当たる。≪沙漠の家≫が何者かに襲撃された後、ヒヴァラが水緑帯を転々と渡り歩けたというのは……。
これもやっぱり、ティーナのおかげだったのだ。そうしてずっと上空から沙漠を見ていたティーナだからこそ、ヒヴァラの命をつなげる場所を知っていた!
「……けど。そうやって上から見てても、俺たちが閉じ込められてた家と水緑帯のことは、知らなかったんだろ?」
くる、とティーナ犬が三白眼でヒヴァラを見上げる。
『せや、さっぱりわからんかった。たぶんやけど、退役じじい理術士どもが強い結界でも張っとったんとちがうか』
「ティーナ。それって、≪かくれみの≫の術みたいなもの?」
『どうやろうね、蜂蜜ちゃん。かくれみのは何人か……、ま~部隊単位で使えることは使えるねんけど。家やしきひとつ分ちゅうたら、発動に使う体力消費が半端ないで? あんだけ長い期間を隠しおおせたんなら、古ーい時代のむつかしい術でも、使うてたんかもな。結界だとか』
古い時代……。それがどのくらい古いのか、アイーズとヒヴァラにはさっぱり見当がつかない。と言うより、そもそもティーナはいつの時代に人間として生きていたのだろう?
豊かな胸の内に浮いた疑問を、アイーズはそのままティーナにたずねてみた。
「……あなたが生きてた時代って、いつだったの。ティーナ?」




