迷子(?)はうちで預かります!
とりあえず公的手段で、ヒヴァラの実家状況を調べる。そしてヒヴァラがファダンに戻ったことを実家側に知らせる前に、もう一度ここバンダイン家に報告に来る。
そう言うナーラッハの言葉を聞いて、ようやくヒヴァラは自分を含めた家族全員の名のつづりと、住んでいた家の在所詳細を中年巡回騎士に告げた。
「しかしね、ナーラッハ。ヒヴァラ君の実家が、やばそうな状況だったらどうする? むざむざ返すわけにいかんだろが」
「そりゃあお父さん、うちでこの子を預かるんですよ、もちろん! 安全な先行きがしっかり定まるまでは」
当然、と言いたげにアイーズの母が口を出してきた。バンダイン老侯が、もしゃっと小首をかしげた。
「え、いいのかい。おまえ?」
「ルーアの前にもさんざん迷子を連れてきといて、いまさら何を言うんですか? あなたは」
低めの声に、すごいどすがきいている! 母にぎろッとにらまれて、大きな父はもしゃもしゃと委縮した。
「それはそうだがね……。人間の男の子を連れてきたんは、初めてでなかったかね」
――お父さん、お母さん……。さっきも言ったけどヒヴァラは成人してて、男の子と言うより男性ですよ……。
両親に向かって突っ込みたいのを、アイーズはようやく我慢した。
末っ子の自分がいつまでたっても女の子あつかい、【アイちゃん】呼びが止まないのと同じだ。両親にとってヒヴァラは、迷子の男の子でしかないらしい。
しかしその貫禄の母は、ヒヴァラに向かってやさしく声をかける。
「気にすることないのよ、ヒヴァラ君。あなたは、うちのアイちゃんのお友達だったんでしょう?」
「今もそうよ、お母さん」
自分に輪をかけたふくよか容姿、丸いあごを揺らしてヒヴァラに話しかける母に、アイーズはそっと言葉をはさんだ。
「遠いところで、今まで怖い思いをいっぱいしてきたんでしょうけど。巡回騎士が二人もいるおっかない家に、手を出そうなんて人はいませんからね! 安心していなさい」
「その家ん中で、誰より何よりおっかないお母さんがそう言っとるしね」
ご・きゅッッ!!
母が父に向かって、首をななめ横にかしげた。
そこに、ヒヴァラのかぼそい声が流れる。
「アイーズは……どうするの?」
「え?」
「俺をここに置いて、プクシュマー郷へ帰っちゃうのかい……?」
不安のこもりまくった問いかけに、アイーズも一同もきょとんとした。
「……帰らないわよ? わたしの住所、ここなんだし……。君の事件が解決するまで、ちゃんとついてるわよ。もちろん」
ふ・しゅ~~~!!!
ふくろから空気の抜けるような音をたてて、ヒヴァラはため息をついた。
深くうつむいたから、すぐそばにかけたアイーズの眼前にヒヴァラの頭がせまる。いちご金髪、……に見える赫髪。
次いでヒヴァラは、くるりとアイーズの両親に向き直った。
「ほんとすいません……。おじさん、おばさん、お世話になります。あの、俺……食べる量がちょっと、多いかもしれないんですけど……」
そう言うヒヴァラの声に、アイーズはどきりとする。
朝食に、ぱんを半斤と杣粥を……ひと鍋……。朝であれと言うことは、昼・夜はつまり……。
「いいのよ、わかってるのよ。これから伸びるんだものねぇ」
何もわかっていない母が、あごをゆさゆさ揺らしながら和やかにうなづいている。
「俺、なんでも手伝いますから。草むしりとか色々」
「なんだ、いい子じゃないですか。お父さん?」
母に言われて、父とナーラッハは安堵したような表情である。
しかし両親は、果たしていつまでそんな風に微笑していられるだろうか……お昼ごはんまで?? アイーズの豊かな胸中を、一抹の不安がよぎる。