表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/237

ついに誘拐の真相が明らかになるのかしら?

「――嘘を、おっしゃい!!」



 いきなり弾けるようにして、レイミア・ニ・ディルトは低く叫んだ。



「あの子は、ヒヴァラはずっとティルムンへ留学・・に出しているのです。いま英才教育の仕上げ中なのですよ! それを人身売買だなどと……、言いがかりもはなはだしいですわ。あの家・・・からそんなもの、そんな書類! 出てくるわけが、ありません!」



 とたんに何かを恐れ、それを隠すべく居丈高になったレイミアを、アイーズは冷静に観察することができた。



――書類の出てきた場所を、わたしはぼんやりとしか言わなかった。それなのにレイミア・ニ・ディルトは、もと自宅のファートリ邸だとはっきり確定して反発している。狼狽しているところを見ると、書類の詳細も知らないし、後ろめたいものが何かしらあるということね?



 これはいける、とアイーズは直観した。つつけばもう少し、その後ろめたい背景を知ることができるだろう。


 ……同時に、そういう悪意の混じる中にヒヴァラが連れ去られていったこと。実の母親がそれに少なからず加担していたことが、明らかになるだろう……。真実は哀しい方向にのびているらしい。


 けれどやはり、知らなくてはならない。今さら目を背けて立ち去ることはできないところまで、アイーズとヒヴァラは来てしまっていた。


 アイーズはさりげなく肩に手をやり、揉むしぐさをした。その実は左肩の上で震えているヒヴァラの手を、ぎゅうっと上から押さえつけたのだけれど。



「書類は、いま現在わたしの自宅に保管してあります。巡回騎士の皆さんには、まだ翻訳内容をお渡ししていません」



 レイミアはアイーズをきつくにらみつけ、唇を引き結んでいる。



「ヒヴァラ君がいなくなってしまったのには、おうちの深い事情があったのだろうと、察しております。もし……。もし奥さまから、納得のできる説明がいただけるのでしたら。わたしとしてはその問題の書類一葉を、暖炉にくべてしまうこともできるのですが」



 かまかけ、どころではない。ありもしない架空の書類をでっちあげて、いまアイーズはヒヴァラの母を脅迫しているのである。


 レイミア・ニ・ディルトが恐慌しつつも、ヒヴァラのことを隠そうとしているのを目にして、アイーズは正面からの誠心突破は無理なのだ、とさとっていた。



「話していただけませんか、奥さま。ヒヴァラ君はなぜ、ファダンを去らなければならなかったのですか?」


「……」


「奥さま。どうか」



 知ってることを洗いざらいこの場で今すぐ吐かんか、ごるぁぁぁぁ!? アイーズの中で、内なる元不良やん兄のヤンシーが咆哮している。ほんとはアイーズもそのくらい、がしがし迫りたいところだが……いやだめだ。


 ふう、とレイミア・ニ・ディルトが鼻から溜息をついたらしい。ヒヴァラの母は、薄く口を開いて話し出した。



「……ヒヴァラはディルト家のものであり、あの子はマグ・イーレ人です。故国に尽くすわたくしの兄の隠し刀となり、ゆくゆくはマグ・イーレ再興の原動力になるようにと……。そう願って、西方ティルムンに託したのです」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ