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書店主が明かす、驚愕の事実!

 ひゅっっっ!


 一瞬、息をのんで固まってしまったものの、書店主はすぐに我に返ったらしい。


 つるっときれいに禿げ上がったゆで卵のような頭が、蜜蝋みつろうあかりを照り返している。



「ディルト様……ええ、近衛騎士長のディルト侯ですね。ええ、有名な方ですから、存じ上げておりますよ」



 どうにか微笑をつくろって、書店主はアイーズに答えてくる。ディルト、と口にした自分をどこかで明らかに警戒しているな、とアイーズは感じた。そしてお腹の底に、ぐぐっと力をこめる。



「……たぶん、その方のご家族だと思いますの。レイミア・ニ・ディルトという女性を探しているのです」


「えっ?」


「少し前に亡くなったわたしの母が、娘時代に文通をしていたお友達なんです。お嫁入りの時にうっかり連絡先を紛失してしまって、それっきりになったのが心残りだと、母は生前さんざん申しておりまして」



 ここまでの道中、ヒヴァラとカハズ侯と念入りに練っておいたでっちあげ背景を、アイーズはしゃべった。自分を信じて、わたし演技派!



「……それでわたしに、もしマグ・イーレに行く機会があったら、レイミア様をぜひ探してと。ひと目お会いして、若き日のおたより友情にお礼を言ってくれないかと……そういう遺言だったんですの」



――お母さん、ごめんなさいっっ。本当にほんとにごめんなさい、嘘はこれっきりだからかんべんしてください! 長生きしてね!



 豊かな胸のうち、実際にはぶっちぎりで生を謳歌しているファダンの母にむけて謝りながら、アイーズは書店主に話し続けた。



「ああ、そうだったのですか! なるほど、お母さまの……!」



 しかしアイーズ目の前の書店主は、それで一挙に安堵したらしい。



「それは大変でしたね……! ええ、この町にディルト様のお名前はそのうちだけですし、おそらく近衛騎士長ディルト侯のお身内の方でしょう。貴族の皆さまは、お城の裏手にある住宅街にお住まいなんです。ディルト様のお宅は一番大きくて立派なお屋敷ですから、行かれればすぐにわかると思いますよ」


「そうですか!」



 ようしッ、とアイーズも胸のうちで握りこぶしを固める。



『ご主人。わたくし遠国のいなかから出てきましたもので、ディルト様が偉い方とは全く存じ上げず……。それでこちらで、名鑑を拝見したのですが』



 カハズ侯の低い声に、書店主はうんうんとうなづいている。



『だいぶお若いころに近衛騎士長になっていらっしゃる、と言うことは。やはりそれなりに何か大活躍をなさって、その地位におさまったと言うことなのでしょう?』



 怪奇かえる男の口調はおだやかで、何気ない風でもあった。書店主は先ほど見せた緊張を再びまとうこともなく、うなづいて聞いている。


 しかし一瞬目を閉じた後、……なぜか寂しさ、悲しさのにじむ表情でこう言った。



「皆さんは、僕らの王をご存じですか? ランダル・エル・マグ・イーレ陛下を」


「ええ」



 三人を代表する形で、アイーズが答えた。ファダンにそんなに話は聞こえてこないが、マグ・イーレ王の名前くらいは知っている。



「そのランダル陛下が王子様だった頃、三年ほどティルムンへ留学なさってたんです」



 ティルムン、聞いてもいないのにその名が出てきて、アイーズは思わずどきりと震えそうになるのをこらえた。


 すぐ隣にいるヒヴァラが、さっと緊張感をみなぎらせたのが伝わってくる。



「王子様の滞在中、ディルト様はその護衛兼お目付け役として、ティルムンに同行されていたんですよ。それからずっと近衛騎士として、陛下のそばにいらっしゃるんです」


「……そう、だったんですか??」



 かすれた声であいづちを打ったのは、ヒヴァラだった。



「……王子さまがティルムンに行っていたのって、いつ頃だったんですか? 本屋さん、わかりますか」


「ええ。イリー暦162年から164年までの三年間です」



 妙にすっぱりした口調で、書店主は即答した。



「……と、言いますのもね。王子様はティルムン留学を終えてマグ・イーレに帰国した後、すぐに結婚させられ……ごほん、ご結婚なすったんです。たぶんそれで安堵されたのでしょう、お父上の前王が間を置かずに亡くなって、ランダル陛下が即位したので……。ですから僕も、はっきりと憶えているんです。はい」




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