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第9話:悪役ジジイ、連絡船の船員を殺すが、船員は全て狂暴な賊徒だった

 ベルクタウンを出ておよそ五日。

 俺たちは目的地のフェリオス湖に到着した。


「ようやっと着いたかぁ……腰が痛いわい」

「結構歩きましたものね」


 ぐぐ~っと背中を反らしたら、腰が不気味な音を立てたから慌てて元に戻った。

 おまけに、眠りも浅いせいか、ぐっすり寝たつもりが疲れが取れない。

 記憶が戻ってから、老化を一段と強く感じる毎日だ。

 早く若い身体になりたいぜ。

 見渡す限りの広大な水面を見て、コレットはため息を吐く。


「想像していたより、ずっと大きくてビックリしました。まるで海みたいです」

「ああ、そうじゃな。この湖は湖と言いながら、それこそ海のように広いんじゃ。なんと、琵琶湖の10倍もの面積があるのじゃよ」

「ジグ様、ビワコ……とはなんでしょうか?」

「いや、何でもない。こっちの話じゃ」


 危ねー、ついうっかり前世の記憶を話しちまった。

 気をつけろ、俺。

 もし転生者とバレたら、危険人物ということで監獄行きになる可能性だってある。

 フェリオス湖は豊かな湖だ。

 水が豊かならば魔物も生き物も多く住み、それを目当てに人も集まり……ということで、湖畔はベルクタウンと同じくらい栄えていた。

 港湾都市のような様相であり、湖畔には船がいくつも停泊していた。


「コレットよ、さっそく船に乗るぞよ。まだまだ通過点に過ぎんからの」

「はいっ」


 俺はコレットを引き連れ、勢い勇んで停泊場に行く。

 だが、初老の船長から言われたのは思いも寄らない言葉だった。


「あいにくだけど、船は出せないね」

「……なに? 船が出せない……じゃと?」

「そうなんだよ。悪いね、爺さん。最近、湖の真ん中に巨大な魔物が住みつきやがったんだ。船なんか出したら襲われちまうよ」

「じゃあ、ワシが倒してやる。魔物のいるところまで連れて行くんじゃ」

「いやいや、冗談言っちゃいけないよ。魔物の近くなんて危なくていけないよ。それに、爺さんは大した魔法使いじゃないだろう。はははははっ」

 

 船長は笑いながら去っていく。

 ちくしょう、若者だったら老害しまくったのに。

 うっかり年齢が近い人間に近寄ってしまった。

 俺は停泊場の、特に若者の船長に向かって怒鳴りまくる。


「おい! 誰か船を出せるヤツはおらんのか! ワシを湖の向こう側に連れて行けぇ! 今すぐ船を出すんじゃ! 船船船船船ぇぇぇえ! 魔物如きでビビリおって! 最近の若者はなっとらん!」

「ジ、ジグ様、そんなに大声を出されてはみなさんびっくりしてしまいます!」


 コレットの言う通り、船の関係者は怖じ気づくと消え去ってしまった。

 クソッ、逃げじゃねえよ。

 フェリオス湖は広い。

 飛行魔法で飛ぶにしては魔力を使いすぎるな。

 魔物の存在も気になる。

 どうする…………そう思っていたとき。


「お爺さん、どうやら船が出なくて困っているみたいだね。俺で良かったら船、出してやるよ」

「……話のわかるヤツではないか」


 身なりのきちんとした、若い男が近寄ってきた。

 少しは根性のあるヤツがいたと思われる。


「俺の船は大きいし腕の立つ船員ばかりだから、魔物なんか問題ないぜ。ここだけの話、お爺さんみたいな人が多くてね。特別に船を動かして稼いでいるんだ。で、どうする? あと二人で定員いっぱいだから、少し安くしておくけど。一人5000ゼーニのところ、4500ゼーニでどうかな?」

「値段まで安くしてくれるのか。もちろん、乗せてもらおうかの。お主、素晴らしいぞ。ワシはお主のような若者を待っていたのじゃ」

「ありがとう。じゃあ、俺についてきてくれ」

「金はいつ払えばいいかの?」

「後払いだから向こう岸に着いてからでいいよ」


 俺の直感が告げている。

 こいつは優しくするに値する若者だと。

 上機嫌で男の後をついて行くと、コレットが服の裾をくいくいっと引っ張った。


「あの、ジグ様……大丈夫でしょうか。ちょっと怪しい気がします。やけに都合が良いような……。まるで、私たちを待っていたかのようなタイミングで来ましたし……」

「怪しい? コレットよ、なにを言っておるのだ。ちゃんと国の許可証も持っているじゃろう。この若人はワシらが困っているのを見かねて声をかけてくれたのだ。人の好意を蔑ろにしてはいかんぞ」

「は、はい……わかりました」


 コレットはどこか心配そうなだが、問題ない。

 昔から俺の直感に狂いはないからな。

 数分も歩くと、崖の向こう側に巨大な帆船が現れた。


「お爺さん、あれが俺たちの船だよ」

「おぉ、立派じゃな。よきよき」


 船はマストが四本もあり、両脇からは二十門ほどの大砲が覗く。

 女神像も飾られていて、予想以上にしっかりした船だ。

 全長は70mくらいか?

 ほーん、黒船みたいでいいじゃん。

 タラップを登ると、他にも乗客がざっと五十人ほどもいた。

 船員はその半分ほどかな。

 出航の準備が手際よく進む中、身なりのいい船長と思しき男が乗客の前に出る。


「よぉ、乗客のみんな。俺が船長だ。乗ってくれてあんがとよ。湖に大きな魔物が住み着いたなんて噂はあるがな、別に心配はいらねえ。俺の船は超一級品だ。もし出会っても、蹴散らしてやるから安心しとけ。じゃあ、すぐに出発するからしっかり捕まっててくれ……おっと、お爺さん。乗るなら早くしてくれ、もう出ちまうよ」


 出発する寸前、俺と同じくらいのジジイが慌てて乗り込んできたし、やっぱり湖を渡りたい奴は多いのだろう。

 ジジイが乗り込むと同時、船はゆっくりと動き出した。

 湖の強い風に揺られ、ぐんぐんと加速。

 あっという間に岸を離れてしまった。

 いいぞいいぞ、老人に残された時間は少ないからな。

 効率よくいこうじゃないか。

 爽やかな風に吹かれ、コレットもどこか上機嫌だ。


「風が涼しくて気持ちいいです。船に乗ってよかったと思います」

「そうじゃろう、そうじゃろう。余計なことは考えず、ただ旅を楽しんでおればいいのじゃ」


 二人風を楽しんでいたところ、俺たちを案内した船員が近寄ってきた。

 手にはキラリと光るブツ。

 おっ、ウェルカムドリンクか?

 若いのに気が利くな。

 と、思いきや、グラスではなくナイフを突き付けてきた。

 …………は?

 

「じゃあ、爺さん。命が惜しかったら金出してもらおうか。ざっと10万、いや有り金全部出しやがれ」


 何言ってんだ、こいつ。

 ……そうか。

 俺を騙しやがったな。

 ふざけんじゃねえ。

 船員の豹変ぶりを見て、すかさず、コレットがマチェットを構える。


「ジグ様に何を! 離れなさい、この愚か者!」

「おっとぉ! 動くなよ、お嬢ちゃん。下手に動いたら大事な爺さんの首が撥ねられるぜぇ? 祖父と孫の二人旅、最悪な思い出にはしたくないだろ?」


 コレットは戦闘態勢に入ったが、今にもナイフで刺されそうな俺を見て動きを止めた。

 これは僥倖。

 だいぶ、主人への忠誠心が育ってきたようじゃないか。

 奴隷として、俺の手足のように働く未来はすぐそこだな。

 心中でにんまりしていると、船員はなおも俺にナイフを突きつける。


「ほら、早く金を渡せって。お前の命と引き換えだ」

「何寝ぼけたこと言ってんじゃ。船賃は4500ゼーニじゃったろう。それに後払いだったはずじゃ。ワシは1ゼーニたりとも多くは払わんからな。絞れそうなところから絞り取ろうとするな。税金かお前は」

「なに意味不明なことを言ってやがる。抵抗しないでさっさと金出せ、殺すぞ」


 魔力でガードすることは造作もないが、一計を案じて止めた。

 というか、むしろ自分から少しナイフの方に動いてやる。

 喉に軽く食い込み、ピリッとした痛みを感じた。

 触ってみると血が出てた。

 ……よし。


「早く金を出せって言ってんだよ、ジジイ。早くしないと、その皺だらけの喉を……」

「はい、正当防衛いいいい! はい、《魔弾》! はい、正当防衛いいいい!」

「ぐあっ……!」


《魔弾》を放って、船員の腹を撃ち抜いた。

 即死。

 ざまぁみろ、俺を騙したから当然の報いだな。

 正当防衛だから殺しても問題ないのだ、うわはははっ。

 心の中で笑っていたら、コレットが心配そうな顔で俺の身体をまさぐる。


「ジグ様、お怪我は!?」

「別に問題ない。この通りじゃよ」

「客を脅すなんて節度のない船員ですね。……もしかして! ジグ様、周りを見てください!」

「な、なんと……!?」


 他の船員が、客にナイフや剣などを突きつけて金品を奪おうとしている。

 おいおい、治安悪すぎだろ。

 なんだこの船。

 ぼったくりか?

 俺が殺したばかりの死体を見ると、船員たちが血相を変えて襲ってきた。

 

「「このクソジジイ、やりやがったな! 死ね!」」

「はい、正当防衛いいいい!」

「「がっは……!」」


《魔弾》を放ちまくって、船員を倒す。

 撃ち所の悪い奴は死に、そうじゃない奴は致命傷となった。

 ククッ、自分の弱さを恨むがいい。

 それにしても謎の船だな……と思っていたら、乗客が興奮した様子で集まってきた。


「お爺さん、俺たちを助けてくれてありがとうございます! 脅されて死ぬところでした!」

「おい……この死体、手配書に見覚えあるぞ! こいつら湖賊だ! 正規の許可証は偽造してやがったんだ!」

「渡し船に紛れ込むとは卑怯な奴らだな! 爺さんがいてくれて本当によかったよ!」


 …………は?


「こ、湖賊……じゃと?」

「お爺さんは旅人だから知らなかったんだね。フェリオス湖の反対岸で暴れ回っていた海賊の湖版だよ。壊滅したって聞いたけど、生き残りがいやがったんだな」


 乗客は船員たちの正体を説明してくれる。

 初めて知ったが、船員は全員海賊……じゃなくて湖賊だったらしい。

 言われてみれば、この船は大砲もめっちゃあるし女神像も飾られているし海賊船みたいだ……。

 俺たちを襲ってきたのは悪人だと聞かされ、コレットは感激する。


「先ほど停泊場で騒ぎ立てたのは、湖賊を炙り出すためだったのですね! 敵を騙すにはまず味方から! 私はすっかり騙されてしまいました! さすがジグ様でいらっしゃいます! 深くて広い視野に、私は感激しきりでございます!」

「お、おぉ……」


 意図せずして称賛されまくる。

 いや、ただムカついて怒鳴り散らしただけだったのだが……。

 コレットと乗客たちに褒められていると、船首の方が騒がしいのに気づいた。

 船長が乗客に詰め寄られ、舳先の奥まで追い詰められている。

 

「逃げるな! 安全に向こう岸に行かせろ! 何が、“乗ってくれてあんがとよ”……だ! 逃げ場のない湖で金を奪うつもりだったんだろ!?」

「抵抗したら殺すぞ! このお爺さんが!」


 乗客に詰められる船長は、俺に気づくと強い怒りの表情になった。


「ぐっ……! おい、クソジジイ! よくも仲間を殺したな、調子乗ってんじゃねえ! 計画を台無しにしたお前をぶっ殺してやる! ……"こいつ"でなぁ!」


 船長が叫んだ瞬間。

 激しい水飛沫とともに、巨大なクラーケンが現れた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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