第7話:悪役ジジイ、老害ムーブの結果、なぜか悪徳薬草売りを破滅させる
「は、はぁ!? 毒草なんて知らねえよ! 俺が売ってるのは毒草じゃねえ!」
薬売りは、しどろもどろな様子で怒鳴る。
いや、俺もまさか全部毒草とは思わなかったんだよ。
鑑定結果を見て、コレットは険しい顔で薬売りを糾弾する。
「全部毒草ではないですか! 許せません、ジグ様を騙したのですね! お金を返しなさい! そして、責任を取って死になさい! 臓物を撒き散らして魔物に脳を食われて死になさい!」
「だから、これは全部薬草だ! この耄碌ジジイの鑑定魔法が間違ってんだよ!」
「ジグ様の侮辱は兆死に値します! ジグ様、抜刀の許可を。一太刀で斬り伏せてみせます」
コレットは腰のマチェットに手を当てる。
いつの間にか祭りの喧噪は止み、周りの住民が俺たちを見ていた。
薬売りがあれこれと言い訳する中、怒り顔のおっさんがこっちに来る。
こいつの父親か?
ちくしょう、面倒だな。
どうする……。
「おい、薬売り! 俺も昨日腹が痛くなったぞ! 薬草だって嘘吐いて売りやがったな、このクソ野郎! 死んだらどうすんだ!」
違った。
被害者だった。
おっさんの怒号が響き渡ると、さらに住民がわらわらと集まってくる。
な、なんだなんだぁ?
「鑑定魔導具がうまく効かないと思ったら、妨害魔法をかけてたのね! もう一度鑑定させなさい! ……〔邪毒草〕!? 立派な毒草じゃない!」
「住民を舐めてんじゃねえぞ! 文句を言わないと思ったら大間違いだ! 顔貸せ、一発ぶん殴ってやる!」
「お前にこの毒草食わせてやろうか! そうすりゃ、俺たちの苦しみが少しはわかるだろ!」
被害者めっちゃ多かった。
住民たちが詰め寄り、薬売りは大汗を掻く。
おいおい、今度は衛兵の一団までやってきたぞ。
「……どうした、いったい何の騒ぎだ」
「この薬売りが、毒草を薬草として売っていたんです。お爺さんが魔法で暴いてくれなければ、危うく泣き寝入りするところでした」
「毒草を売っていただと!? この祭りで何てことをするんだ! お前たち、縄で縛れ! ……ご老人、犯人確保のご協力、誠に感謝いたします」
薬売りはあっさりと衛兵に捕まり、固い縄で縛られていく。
もしかして、ガチの悪い奴だったのか?
ぽかんとする俺に、薬草売りは怒鳴ってくる。
「ジ、ジジイ、てめえは何者だ! 俺の妨害魔法を破る奴なんて初めてだぞ! クソッ! お前さえいなきゃ大儲けできたのによ!」
「おい、暴れるな。罪が増えるぞ。……お前たち、連れて行け!」
衛兵たちの一部が薬売りを馬車に乗せ連行する。
残った面子は注意深く〔邪毒草〕を回収し始めた。
コレットは両拳を握り締め、輝く瞳で俺を称賛する。
「お見事です、ジグ様! あの男が売っていたのは、全部毒草だと気づいておられたのですね! お祭りを楽しんだのは油断させるため! 敢えて時間をかけることで、腹痛が起きてもおかしくない時間にする采配もさすがでした!」
「お、おぉ……」
そこまで考えてないのだが……。
コレットに飽き足らず、衛兵や住民までもが俺の近くに来ては感謝の言葉を述べる。
「あの男には我々も目をつけていたのですが、確固とした証拠がなく、逮捕まで至らなかったのです。高度な鑑定防御を打ち破るなんて、相当な実力者とお見受けします。おかげで、祭りを問題なく続けることができます。ご老人、本当にありがとうございました」
「爺さん、すげえな! その疲れた格好も相手を油断させるためなんだな! すっかり騙されちまったよ!」
「ご老人、薬草売りに支払ったお金を返却いたします。街の治安維持への貢献、深く感謝申し上げます。さっそく、町長殿に報告させていただきましょう」
「う、うむ……?」
町長だと?
おいおい、話が大きくなってきたな。
別に来なくていいのに……。
住民に感謝を述べられること数分、俺より少し年下に見えるじいさんが衛兵に連れられやってきた。
「ベルクタウンの町長です。お話は聞きました。祭りに紛れ込んだ不埒な商人を見つけ出してくれたそうですな。町を代表して感謝申し上げます。ぜひ、あなた様のお名前を教えてくださいませ」
「ジグルド……」
「おおっ、お名前も立派な方だ! さて、何か褒美を差し上げねばなりませんな。ジグルド殿、私にできることであれば何でもやらせていただきますぞ」
ふむ、褒美か。
町長が若者だったら「100億寄越せ」と無理難題でも突きつけたところだが、ここは勘弁してやろう。
「ワシは魔物の素材を売りたいんじゃが、薬草売りがいたスペースで店を開いていいかの?」
「なるほど。そういうことでしたら、お礼も兼ねて私が全て買わせていただきましょう。素材をお見せください。…………なんと! ジグルド殿は収納魔法まで使えるのですか!? いやはや、これは驚いた。たしかに、あなた様ほどの実力者なら、あんな男の妨害魔法など簡単に破れるわけですな! しかも、この辺りでは入手できない珍しい魔物の素材ばかりではないですか! 二級魔物の雷爪熊まで!? これはすごい!」
素材の数々を見せると、なぜか町長も住民も興奮しまくりだ。
そんなにすごいか?
……ああ、そうか、凶壊ハイエナも雷爪熊もそこそこの強敵だ。
この町にギルドはないし、周囲に魔物がいなくなって久しいと、老齢のシスターが言っていた。
だから、魔物の素材自体貴重というわけか。
テンション高く素材を調べる住民に対し、コレットが一歩前に踏み出して自慢げに語る。
「ジグ様は"正義の賢老"という二つ名をお持ちでして、各地で悪を裁く高尚な旅をされているのです」
「「"正義の賢老"!? なんてイカした二つ名だ!」」
ちょいちょいちょいちょい、止めなさいよ。
それに、俺は正義マンじゃねえんだわ。
コレットにその呼び名を喧伝するのは止めろと、再度伝える。
結局、町長は相場の三倍で買ってくれた。
なかなかの大盤振る舞いだ。
普通にありがたいな。
換金を待っていると、コレットはなぜかしみじみとした様子で呟く。
「どんな褒美をやろうと言われ素材の買い取りだけでいいなんて、ジグルド様は謙虚で素晴らしいですね。私も見習わなければなりません」
「なんじゃ?」
「いえ、何でもありません」
年のせいか、ちょっと人混みに入っただけで聞こえづらいんだよな。
町長曰く、宿代もタダにしてくれるそうなので、俺とコレットは町一番の宿に泊まることになった。
ラッキー!
□□□
翌日。
旅を再開しようと宿を出ると、住民総出で見送りにきた。
わざわざ町の端っこまで来て、街道を進む俺たちに激しく手を振る。
「ジグルド殿! このたびは誠にありがとうございました! ジグルド殿の活躍はベルクタウンの年代記に刻ませていただきます!」
「我ら衛兵、魔法を見抜けるよう精進いたします! 少しでもあなた様の実力に近づくために!」
「"正義の賢老"様ー! またいつかお会いしましょうねー! いつでも大歓迎しますー! 今度はもっとおいしいお水をご用意しておきますよー! もちろん、無料でねー!」
結局、街道を曲がるまであの変な呼び名を呼ばれ続けてしまった。
ちくしょうが、定着しないよな?
住民が見えなくなったら、コレットが頬を赤らめながら話す。
「ジグ様、昨日もよく眠れましたね」
「おぉ」
昨日はコレットにしがみつかれながら寝た。
おかげで、身体のあちこちが痛い。
旅の間中、ずっとこんな感じなんだよな。
……まさか、老害ムーブの仕返しか? ……あり得る。
"狼人族"の類い希な感性の鋭さで、仄かに気づいているかもしれない。
……よし。
「コレットよ、交易都市ブライトミアに着いたらお主の一族の情報も捜そうの。大きな街だから、何かしらの手がかりがあるはずじゃ」
「! ありがとうございます、ジグ様!(私の目的をちゃんと覚えててくれた! しかも、ご自身の手を貸してくれるなんて! そんなところが大好きぃぃぃい!)」
これで機嫌が取れたような気がする。
セリフ以上にどこかうるさく感じるコレットを連れ、俺は巨大な湖――フェリオス湖に向かう。
そこを渡ってしばらく進むと、魔導列車の停車駅がある街エルサシティに着くのだ。
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