第6話:悪役ジジイ、若い男の薬草売りにクレームをつけるが、悪質な偽装販売を暴いてしまう
数日ほど歩き、俺とコレットはベルクタウンに到着した。
ドロッセ村よりは大きいものの、"町"という表現が似合いそうな長閑な町だ。
町中を歩くと、背景や雰囲気がゲームの記憶と重なるな。
それにしても、なんだか記憶より人が多いような……。
気のせいかと思ったら、すぐにその理由がわかった。
「偶然、お祭りの時期に訪問したようですね。人も出店もいっぱいです」
「そうみたいじゃの」
ちょうど今は、年に一度開かれる"祭り"の真っ最中だった。
言われてみれば、家々の壁はフラッグガーランド(三角の旗の連なり)で繋がれているし、道は屋台だらけだ。
普通に楽しそうじゃん。
前世では祭り=老人会だったので、せっかくだから楽しみたい……。
だが、それは後。
この町でも、達成すべき"大事な目的"があるからな。
「コレット。まずはギルドに行って、今まで手に入れた素材を売るぞよ」
「はい。高く売れるといいですね」
そう、金稼ぎだ。
魔導列車の乗車券は高い。
この50年で安くなっていてほしいが……どうかな。
前世の日本みたく値上げしまくっているかもしれない。
もちろん、乗車券は老害ムーブで無理やり確保してもいい。
だが、うまくいくかわからん。
やり過ぎてまた監獄行きにでもなったら、それこそ本末転倒だろう。
第一目標は"若返りの泉"を見つけることで、老害ムーブはあくまで"ついで"だ。
ギリギリのラインを狙って楽しみたいところ。
そう思って町の隅に行くも、ギルドがあった場所は小さな教会になっていた。
「……む? おかしいのぉ、以前はここに冒険者ギルドが建っていたはずなんじゃが」
「そうなのですか? 教会の人に聞いてみましょう。すみませーん」
教会に呼びかけると老齢のシスターが出てきて、事情を説明してくれた。
「冒険者ギルドはずいぶんと前……30年ほど前ですかね。魔物が減ったので解散しましたよ。この教会は跡地に立たせてもらったものです。ここで会えたのも何かの縁。もうじき寿命が尽きる者同士、惹かれ合ったのでしょう。互いに良い最後を迎えられるよう、お祈りさせてくださいませ」
「……ああ、そうじゃの」
「ジグ様はまだお若いですっ」
安らかに逝けるよう祈られた。
クソが。
若者だったらしばき倒していたぞ。
(失礼になりそうなことを言われても怒らないなんて、ジグ様は大人だ。私も心身共に成長しなければ!)
とりあえず教会を去り、町の中央広場に戻る。
「ギルドが解散していたなんて残念でしたね」
「まったくじゃ」
ギルドがないんじゃ売れないな……どうする。
収納空間は時の流れが三倍ほど遅いが、やはり早く売りたい。
「……さーあ、今日は年に一度のお祭り! 普通じゃ手に入らない品がたくさんあるよー!」
「あら、ちょっと見せてもらおうかしらね」
ベンチに座って考えていたら、町の喧噪が聞こえてきた。
中年の主婦が雑貨の屋台を覗き込んでいる。
……そういえば、今は祭りだったな。
その瞬間、閃いた。
「よし、ワシも店を出すぞ。ギルドがないのなら自分で売るまでじゃ」
「名案です! ジグ様の魅力なら、行列間違いなしですよ」
さっそく、手頃な場所に布を敷いて魔物の素材を並べようとするが……。
「お爺さん、何やってるの? 勝手にお店を開いちゃダメだよ。もう締め切ってるんだから」
「……締め切った? なにを」
「だから、開店許可だよ。露店を開けるスペースは、決まったエリアに限られているんだ。ちなみに、そこは通路だから一番ダメな場所ね」
雑貨屋が怪訝な顔で俺に言う。
どうやら、祭りのしきたりで事前に許可申請が必要だったらしい。
……マジか。
「じゃ、じゃあ、ワシは魔物の素材を売れんのか? 今すぐ売らないと傷んでしまうんじゃよ。なんかこう……あるじゃろ。ルールの抜け道的なアレが」
「まぁ、他の店が撤退して、場所を空けてくれれば別だけど滅多にないね。諦めてお祭りを楽しんだ方がいいよ。ところで、たくさん話して喉が渇いたんじゃない? おいしくて冷たい水があるけど、200ゼーニでどう? お孫さんの分もおまけして、今なら二本で300ゼーニにしておくよ」
クソッ、抜け道はあったがそこそこ難易度が高そうだ。
一度作戦を練る必要があるな。
水はお得だったので買っておき、コレットと一緒にベンチに座る。
「ほら、コレットも飲みなさい。最近頑張ってたからの、褒美じゃ」
「ありがとうございます! ジグ様からいただいた命の水、大切に大切に飲ませていただきます。……ああ、なんておいしいのでしょう。生き返りますね」
コレットは心底嬉しそうに飲む。
ククッ、水如きで懐柔できるとはな。
良い買い物をしたぞ。
とはいえ、だ。
どうにかして素材を売る方法を考えねば…………おっ!
暫し思案すると、名案を思いついた。
コレットを連れて中央広場で一番人通りが多いところに移動し、適当な屋台に狙いを定める。
……ふむ、中央の薬草売りでいいか。
店主はイケメンの若い男だしな。
「……すまんが、薬草を一枚くれるかの」
「おや、お爺さんどこか具合が悪いのかい? もちろんだよ、一番新鮮なヤツを選んでおくからね」
薬草は一枚3000ゼーニ。
結構高いが、この後の展開を考えれば問題ない。
金を払い、コレットに命じる。
「よし、せっかくだから祭りを楽しもうとするかの。コレット、やりたい遊びや食べたい物があったら遠慮なく言いなさい」
「いいんですか!?」
「ククッ、出世払いじゃぞ。払うまではワシの傍を離れることを許可せんからの」
「もちろんです! 何百倍、何千倍にしてお返ししします!(ジグ様の独占欲! 痺れる~!)」
ついでに借金も背負わせてやったぞ。
コレットが倒した魔物の素材も売るつもりだから、ピンハネの口実を作っておきたかったのだ。
遊びは射的、輪投げ、魔力金魚釣り、ダーツ、くじ引きなどの屋台を楽しむ。
遊戯屋台以外にも、林檎飴やかき氷など定番の飯を売っている店もあった。
「ジグ様、おいしそうな物が売っています!」
「うむ、好きなだけ注文しなさい。ワシの分も食べていいぞよ。店主、林檎飴とかき氷を5人前ずつ頼む」
「ほいきた。毎度あり~」
コレットは林檎飴やかき氷など定番の飯を食う。
(こんなに食べさせてくれるなんて! ……ジグ様の優しさは底知れない!)
単価が安いので、たくさん食べても大した金額にはならないから問題ない。
俺はこの後にある作戦のため、食事は控えた。
良い感じに時間も過ぎたし、そろそろかな。
「コレット、祭りは楽しかったか?」
「はい、私は今本当に……幸せです(ジグ様と過ごした時間は絶対に忘れない……)」
コレットの幽体離脱感は気になるが、まぁ大丈夫そうだろう。
しばらく祭りを楽しみ、俺たちは薬草売りのところに戻ってきた。
さてさて、これからが本番だ。
店の前に立つと、俺は勢いよく腹を抑えた。
「ああああ! 腹が痛いいい! さっきの薬草を食べたら腹が痛くなったああああ!」
「ジグ様、大丈夫ですか!?」
コレットが非常に心配そうな顔で俺を支える。
ククッ、いいぞ。
敵を騙すにはまず味方からだ。
「お前の売っている薬草、実は全部毒草なんじゃないのかぁぁぁあ!」
俺の考えた名案とは……難癖をつけて追い出すこと。
前世ではとんでもないクレーマーが大勢いたからな。
例えば、蚊に刺されたから血を返せ!と怒鳴るジジイ、私が家で転んだのはお前が念じたせいだ!と叫ぶババア、男の吐いた空気なんて吸えるか!と喚くジジイ。
この薬草売りにも滅茶苦茶なクレームをつけて町から追い出してやる。
そして、空いたスペースで俺の店を開く。
良い作戦だと思ったが、意外にも薬草売りは動じない。
「おいおい、爺さん。言いがかりはよしてくれよ。うちで扱っている薬草は、全て高品質の本物さ。腹が痛くなるなんてあり得ないね。いちゃもんつけるってんなら営業妨害で訴えちまうぜ? 損害賠償でいくら貰えるかなぁ」
余裕のあるヘラヘラとした表情で返答された。
クレーマー耐性があるタイプか?
……チッ、面倒なヤツだな。
今さら引き下がると、こっちが負けた気分になるから嫌だぞ。
どうする……そうだ。
「だったら、鑑定させてもらうぞよ。さっき買った薬草、実は三分の一くらい残っているからのぉ」
「どうぞどうぞ。好きなだけ鑑定してくれ。ただし、薬草だったら全部買えや。店の信用に傷つけようとしてるんだからなぁ」
最初はさっきの一枚だけ鑑定するつもりだった。
だが、こいつの陽キャ笑いがムカついたから、店の薬草全部を鑑定することにした。
こんなに売ってるんだ。
一枚くらい毒草が混じってるだろ。
「ではさっそく、《鑑定》……ん?」
なぜか、妨害魔法がかけられていたので破壊する。
空中に鑑定結果の情報が大量に浮き出るが、俺もコレットも思わず呆然とした。
〔邪毒草〕
ランク:五等級
説明:薬草に似た毒草。食すと体調不良をきたすので注意。
なんか、店の商品全部毒草だった。
…………なぁに、これぇ?
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