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第5話:悪役ジジイ、魔物を倒し狼少女に厳しい訓練を積むよう命じるが、内心感謝される

 出現したのは、1.5mほどの四足歩行魔物。

 濃い灰色の体表には黒い斑迷うが浮かび、赤い瞳が不気味に光る。

 こいつらは三級魔物の凶壊ハイエナ。

 この森に出現するとは珍しい。

 原作ゲームの出現場所は主に草原地帯だったが、50年で生息域が変化したのか?


「ジグ様は私が守ります! 傷一つ、つけさせやしません!」


 コレットは入手したばかりのマチェットを構えた。

 なかなかに様になっているじゃないか。

 戦闘態勢に入った彼女からは、他者を寄せ付けない攻撃的なオーラが迸る。

 奴隷だった頃の――いや、今も俺の奴隷なのだが――弱々しい雰囲気とは大違いだ。

 亜人の中でも上位の戦闘種族、ということを実感する。

 コレットのオーラに気圧されたのか、凶壊ハイエナはすぐに攻撃せずジリジリと間合いを保つ。

 この隙に一発老害かましておくか。


「コレット、ワシを年寄り扱いするんでない。自分の身くらい自分で守れるわ。それより、お主は自分の心配をするんじゃ。怪我などするでないぞ(治すの面倒だからなぁ)」

「……っ! 申し訳ありません!(年寄り扱いするな……頼もしい……。それに、私の身体を案じてくださるなんて、ジグ様お優しい!)」


 前世では、老人を慮ると「年寄り扱いするな!」と怒られ、逆に慮らないと「人生の先輩に敬意を払え!」と殴られたっけなぁ。

 そのストレスは未だ健在なので、コレットにぶつけたのだ。

 叱責された直後に魔物と戦わねばならないなんて、まさに理不尽の極み。

 ククッ、前世で痛めつけられた理不尽を俺も披露してやったぞ。

 さぞかしコレットも苦しんだことだろう。


(優しいジグ様を失望させないためにも、私は頑張る!)


 固くマチェットを握る様子が、彼女の辛い心理状態を反映している。

 さてさて、魔物も待っていることだし、このくらいにしておいてやるか。


「では、ワシは右の二体を倒す。残りは頼むぞ」

「はいっ!」


 コレットが駆け出した瞬間、右側の二匹が襲ってきた。

 こいつらの攻撃方法は、牙と爪による切り裂きだったな。


「《防壁》」

『ガアアアッ!?』


 基本的な防御魔法――魔力の壁を全面に展開し、攻撃を防ぐ。

 二体とも弾き返され宙に舞う。

 体勢を立て直す前に、即座に魔力の矢を放った。


「《二連魔矢》」


 心臓を一撃で射貫くと、凶壊ハイエナは力なく地面に崩れ落ちた。

 魔法をぶっ放すのは楽しい。

 敵を倒す攻撃魔法なら尚更だ。

 ちょうどコレットも担当分の凶壊ハイエナを倒し終わり、こちらに駆け寄ってきた。


「お見事です、ジグ様。倒すのが遅く申し訳ありません。まだまだ修行が足りませんね」

「いやいや、お主もなかなかのもんじゃ。さすがじゃよ。やはり、剣術の才能があるの」

「! ありがたきお言葉! このコレット、期待を裏切らないよう、生涯を懸けてジグ様のために研鑽いたします!」

 

 ここは煽てておく。

 ククッ、コレットも瞳を輝かせて嬉しそうだ。

 アゲてアゲてドンッ!と、いつか落としてやる。

 さて……そろそろか。


「……コレットよ、お主も気づいておるじゃろうな?」

「ええ、もちろんでございます。先ほどから近くに人の気配を感じます。魔力と殺意が入り交じった人の気配を」


 俺とコレットは同じ場所――後方に生えた巨木の影を睨む。

 隠し切れていない魔力と殺気がダダ漏れだ。


「おい、さっさと出てくるんじゃ。老人の貴重な時間を奪うでない」

「隠れても無駄です。私たちはあなたの存在に気づいています」

「……チッ、気づかれたか。ジジイと小娘のくせに感が鋭いな」


 舌打ちとともに、一人の若い男が姿を現す。

 やはり、魔物使い……いや、魔物召喚士がいたか。

 この辺りに棲息しないはずの凶壊ハイエナは、こいつが召喚したんだな。

『蒼影のグラシエル』には、魔法使いや剣士の他にも多種多様な職業がある。

 こいつらは文字通り、魔物を召喚して敵と戦わせる奴らで、腕に刻まれた召喚魔法陣が正体を暗示する。

 

「ワシらを襲った目的はなんじゃ?」

「端的に言うと金だな。あんたら、貴族のジジイと孫の二人旅だろ? 勇者様に感謝だぜ。おかげで、こうした平和ボケの旅人を大量にカモにできるんだからなぁ。ハッハァ! 儲かる儲かる」


 魔物召喚士は笑う。

 奴の口ぶりから、旅人を襲うのはこれが初めてじゃないことがわかった。

 一応、ジグルドは元公爵家の出身だ。

 断罪されて追放の身となったが、まだ貴族オーラは残っていると考えられる。


「……ジグ様、あいつは私が倒します」

「いや、コレットはそこで見ておれ」

「承知いたしました(一番強いボスは自分で倒すなんて、ジグ様カッコいいです!)」


 今にも飛びかかりそうなコレットを制する。

 ちょうどいい。

 主従関係を再認識させるため、力の差を改めて見せつけておこう。

 前に出た俺を見て、魔物召喚士は全身に魔力を集めた。

 

「孫に良いところを見せたいんだろうが、こいつはジジイには荷が重すぎるぜ!」


 魔物召喚士の前方に魔法陣が展開され、3mほどの巨大な熊が出現する。

 鋭い爪に雷を纏わせ、間髪入れず正面から突っ込んできた。

 二級魔物、雷爪熊だ。


「ハッハァ! こいつは凶壊ハイエナとはわけが違う! 《防壁》如きじゃ防げないぜ!?」

「《防壁》」

「なっ……!?」


 先ほどの凶壊ハイエナと同じく、《防壁》で防ぐ。

 たしかに、これは基礎の基礎魔法。

 だが、俺は50年も魔力を磨いてきたから、何段階も強度が高いのだ。

 同じ魔力の壁を雷爪熊の背後にも生成し、圧殺。

 魔物召喚士は形勢の悪化を見ると、即座に逃げ出した。


「……チッ、見逃してやるよ」

「逃げるでない。《魔弾》」

「うぐっ! 魔法耐性の装備が……なぜ……」


 胸を撃ち抜かれ、魔物召喚士は死んだ。

 下手に逃がすと不意打ちされる危険もあるし、襲ってきた時点で見逃す道理はない。

 正当防衛だから殺人罪には問われない。

 ククッ、合法的に若者を殺せるなんて最高だ。

 これからもじゃんじゃん絡んできてほしい。

 死体を確認すると、こいつの革鎧には魔法攻撃を軽減する術式が刻まれていた。

 魔法耐性ごと破壊したからもう二度と機能しないが。


「とりあえず身包み剥がすかの。路銀の確保じゃ」

「私は魔物を解体して素材を取り分けます」


 コレットと手分けして作業を進める。

 ざっと5万ほどの金に、回復系のポーションがいくつか。

 チッ、シケてんな。

 回収した戦利品は収納魔法で仕舞い、魔物召喚士の死体はなんかうざいから火魔法で燃やしといた。

 

(ここはまだドロッセ村に近い。魔物が寄ってこないように燃やしたのですね。事後フォローもさすがです、ジグ様)


「おっ、コレット。もう解体が終わったのかの?」

「はい、素材毎にまとめてあります」

「ふむ、よくやった」

「ありがたき幸せ(ジグ様に褒められちゃったぁぁぁあ!?)」


 いつの間にかコレットが隣にいて、凶壊ハイエナや雷爪熊の死体が素材毎に解体されていた。

 全部売ったらそこそこの金額がつきそうだな。

 持ち逃げされたら嫌なので、収納魔法で仕舞う。


(私に持たせず、自分で運ばれるなんて……やっぱり、お優しい……)


「……なんじゃ?」

「なんでもございません」


 時々、コレットは魂が抜けたような状態となる。

 幽体離脱が趣味か?

 不気味な奴だな。

 それにしても……。


「ジグ様、どうされましたか?」

「いや……」


 コレットはなかなかの剣術だった。

 戦闘に優れた"狼人族"の片鱗を見た。

 部下……もとい奴隷が有益なのは願ったり叶ったりだが、問題がある。

 万が一にでも反乱されたらまずいぞ。

 もちろん俺の防御魔法なら防げるだろうが、寝首を掻かれたら面倒だな。

 老人のまま死ぬのは嫌だ。

 ……そうだ、名案を思いついたぞ。


「コレット、剣を貸すんじゃ」

「? はい、わかりました」


 コレットのマチェット(洒落みたいだな)を受け取り、"とある魔法"をかけた。

 術式が刻まれた剣を返すと、コレットは不思議そうな顔で見る。


「ジグ様、これは……?」

「不殺の魔法じゃよ。魔物や盗賊は殺せてもワシを傷つけることはできないから、乱戦の中でも思う存分に剣を振るいなさい」

「ありがとうございます!」


 ククッ、これで反乱の目を摘めたぜ。

 戦闘の最中に、うっかり殺される危険も消えた。

 念のため、新しい武器を欲しがらないように釘を刺しとくか。

 

「このマチェットはワシとお主の絆じゃ。だから、他の武器を使おうなんて思わないでくれるとありがたいの。色んな武器を使えるのも強いが、一つの武器を極めるのも大事じゃ」

「もちろんです! 生涯に渡って、このマチェットを使い続けることを誓います!(私とジグ様の……絆! このマチェットは私の宝! 一生大事にする!)」


 よし、これでいい。

 別の武器を使うことになっても、最悪また不殺の魔法をかけ直せばいい。


「ところでコレットよ、お主は誰かに剣を習った経験があるのか?」

「ええ、基本のみですが、幼少期に父と母に教わりました」

「ふむ」


 となると、まだまだ伸び代があるというわけだな。

 俺は名案を思いつく。

 

「よし、お主に剣の修行をつけてやろう。もっと強くなるよう、ワシが指南してやる」

「! ありがとうございます、ジグ様!」


 コレットを育てて、食い扶持を稼がせる魂胆。

 俺の用心棒にもできそうだ。


(私を拾ってくれただけではなく、育ててもくださるなんて……。感謝してもしきれない。ジグ様の隣が、私の居場所……)


「……なんじゃ?」

「なんでもございません」


 なぜかうるさく感じるのは相変わらず謎だ。

 その日から、コレットに剣術の修行をつけることが決まった(面倒だから適当に作った剣士ゴーレムにやらせる)。

 俺たちは次なる目的地、ベルクタウンに向かう。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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