第4話:悪役ジジイ、リア充カップルのデートを邪魔したはずが万引き犯を捕まえる
「……ごちそうさまでした! こんなにおいしい物を食べさせてもらえるなんて、私は本当に幸せ者です。ジグ様、ありがとうございました。感謝してもしきれません」
コレットがスプーンを置く音が、店内に静かに響く。
…………全部喰ったんだが?
あの大量の焼き飯、細身なのに全部喰ったんだが……?
店主も他の客も仰天としている。
苦しめてやるつもりだったが予想が外れたようだ。
チッ、まあいい。
おおかた、無理して喰ったんだろう。
今頃、腹が苦しくて仕方がないはずだ。
(久し振りの満腹感で幸せ……。ジグ様のお恵みが私の糧……)
思った通り、苦しみで涙が浮かんでやがる。
何はともあれ、飯代がタダになったからよかったぜ。
「さて、この後はちょっと雑貨屋を覗くぞ。用事があるんでな」
「はい。ジグ様の行く場所ならば、どんな場所でもついて参ります」
店を出て、コレットと一緒に街の雑貨屋に入る。
目当ての地図は出入り口付近の本棚にあった。
王国全体が載っており、ドロッセ村はもちろん、交易都市ブライトミアまでの道も記されている。
一番近そうなルートは……おっ、これかな。
ベルクタウンという小さな街を経由し、フェリオス湖という大きな湖を渡り、魔導列車の停車駅であるエルザシティに行く。
で、魔導列車に乗って、ブライトミアに到着と。
ふむ……基本的な地理は原作ゲームとあまり変わりないようだ。
50年経ってるからちょっと心配だったが、問題なさそうで安心する。
とはいえ、ブライトミアは遠いな。
転送魔法はかなり難易度が高く、50年修行した身でも魔導具を手配するなど、大がかりな準備が必要だ。
消費魔力も多い。
100m移動するだけでも、使用した後小一時間は休む必要があるだろう。
やはり、徒歩や魔導列車で移動するのが現実的だな。
俺が読んでいる地図は紙質がよく情報量が多いからか、以外にも良い値段をする。
できれば、立ち読みで済ませたいところだ。
「あの……ジグ様……」
「なんじゃ?」
「店主の方がこちらを睨んでいるような気がしますが……」
カウンターを見ると、コレットの言うように店主が俺を睨みつけていた。
(あの爺さん、まさか立ち読みで済ますつもりじゃねえだろうな)
立ち読みするなってか?
ククッ、若造の身ならばいざ知らず、今の俺はジジイだからな。
そんな視線の圧など気にもせんわ。
地図をしばらく眺め、だいたいの地理関係を把握する。
とりあえずはこれでいいか。
店主にわざとらしく会釈をし、地図を本棚に戻す。
「よーし、コレット。店を出るぞよー」
「え……? い、いや、しかし、何も買わずに出るのは悪いんじゃ……」
「そんなことは気にせんでいいんじゃよ」
ククッ、純真そうなコレットにも、こうやって悪の覇道を教え込んでやる。
出口まで来たところで、ちょうど店の奥から若いカップルが歩いてきた。
普通の平民みたいな感じなのだが…………こいつら美男美女でムカつくな。
当たり前だが、ここはゲーム世界なのでモブたちもみんな顔が整っている。
前世の俺は平々凡々であり、終ぞ彼女さえできることはなかった。
……ということが思い出され、老害ムーブを仕掛けたくなる。
「……ねぇ~、早くジェラート食べたい~」
「今店出るとこだろ~。もう少し待てってさぁ~」
チッ、リア充か?
人前でイチャイチャしやがってよぉ。
熱々だからアイスで冷やすってかぁ?
爆発しやがれ。
腹立たしいので、前を歩いてきた彼氏の脚を引っかけてやった。
「「うわっ……!」」
彼氏は転び、うまいこと彼女まで巻き込んだ。
派手な音を立て、二人とも無様に地面に転がる。
ククッ、ざまぁみろ…………ん?
なんか、こいつらの服の下から商品が出てきた。
ポーションやら小さな本やら乾燥肉やらが床に散らばる。
カップルが落とした商品を見ると、店主が血相を変えて飛んできた。
「おい! まだ会計してないじゃないか! 盗んだのか!?」
「……クソッ、逃げるぞ!」
「ま、待ってよ! おいてかないで!」
途端に、カップルは猛スピードで逃げ出した。
な、なんだ?
店主がすっ飛んできて、逃げた方向に向かって怒鳴る。
「あいつらは万引き犯だ! 誰か捕まえてくれ!」
「ジグ様、ここは私が……!」
即座に、コレットが颯爽と飛び出した。
瞬く間に距離を詰め、カップルが角を曲がる前に強烈な飛び蹴りを喰らわす。
駆け寄った頃には、二人とも地面でのびていた。
すぐにコレットが衛兵を呼び、カップルは捕まる。
「ちくしょう……! 邪魔するなよ、クソジジイ!」
「あんたのせいで捕まったじゃない! ふざけんじゃないわよ!」
おいおい、そんなに睨みつけるなよ。
俺だって何が起きているのかわからないんだからさ。
((何度盗んでもバレなかった万引きを見抜かれた!? このジジイ……何者……!))
カップルは俺を睨んだまま、衛兵たちに連行され姿を消す。
ぽかんとしていたら、パチパチという拍手が聞こえてきた。
「さすがです、ジグ様! 立ち読みをするフリをして、万引き犯の動きを見張っていたのですね! 恥ずかしながら、私はまったく気づけませんでした!」
「爺さん、万引きを見抜くなんてすげえな! 俺の店はな、万引き被害にずっと困ってたんだ! きっと、あの二人が犯人だよ! 立ち読みは油断させる作戦だったんだな! 疑ってすまん!」
「お、おぉ……」
……マジか。
どうやら、リア充カップルは万引き犯だったらしい。
こんな偶然があるとはなぁ。
コレットと店主は激しく喜び、何なら通行人もみんな拍手している。
「いいぞー、じいさんー! 万引き犯を捕まえるなんて立派だ! これが年の功ってヤツか!?」
「あの爺さん、ただ者じゃないオーラ半端ないな。若者には出せない老練の雰囲気を纏っている」
「俺もあれくらい渋くてかっこよく年を取りたいもんだぜ」
周りが好き勝手俺を褒める中、コレットが静々と群衆の前に出た。
「こちらはジグルド様、"正義の賢老"でございます。この世の悪事を裁くため、各地を旅されている歴戦の紳士でいらっしゃいます」
「「"正義の賢老"!? カッコいい!」」
「待て待て待て待て」
あろうことや、コレットはあの謎の呼び名を喧伝し始めた。
止めなさいよ。
定着したらどうするんじゃ。
コレットにその呼び名は下手に言いふらさないよう伝えていると、雑貨屋の店主がこちらに来た。
「なぁ、爺さんとお嬢ちゃん。お礼に何かプレゼントさせてくれよ。二人のおかげで憎き万引き犯が捕まったんだ。善意に対してお礼もしないんじゃ、俺の気が収まらねえ」
プレゼント?
別にいらねえよ、そんなの。
それに善意でやったわけじゃ……いや、待て。
せっかくなら……。
「じゃあ、ワシはさっきの地図を貰おうかの」
「ほいきた。お嬢ちゃんはどうする?」
「私は別に欲しい物は特に……」
謙遜をかますコレット。
店主が「そこを何とか」とごねる中、俺は懸念する。
この先、コレットの飯代はどうすればいい。
健康的に奴隷をさせるには、最低でも一日三食食わせる必要がある。
体調不良とかなるたびに回復させるなんて嫌だからな。
今回はたまたま大食い無料の店があったが、どこにでもあるとは限らないぞ。
そして、俺は税金でも奪われない俺だけの金をなるべく使いたくない。
ちくしょう、何か良いアイデアはないか?……と思考を巡らせていると、一つ名案を思いついた。
「コレット、お主は得物を扱った経験はあるかの?」
「……え? は、はい、一応はあります。弱い魔物を倒したり、お肉を切ったりくらいですが」
「ふむ、充分じゃ。……では、店主よ。彼女には短剣やダガーなど、扱いやすい剣を見繕ってくれ」
「おう、任せとけ! 一番良い品を持ってきてやるよ!」
店主は勢いよく店に戻る。
俺の名案とは、コレットに働かせること。
道中、魔物でも狩らせて素材を売らせれば、幾ばくかでも金が手に入る。
それで飯代や宿代を払わせるのだ、
よくわかっていなさそうなコレットに、俺は厳しい現実を突き付ける。
「お主には剣術を一通り身につけてもらう。狼人族の身体能力なら、少し練習しただけで上達するじゃろう。この先、自分の食い扶持くらい自分で稼げるようにならねばならんからの」
ククッ、おんぶに抱っこしてもらえるとでも思ったか?
ところがどっこい。
俺はそんなに優しい人間じゃないんだなぁ、これが。
「ジグ様……そんな……(私が自立できるように配慮して、武器までプレゼントしてくださるなんて)」
想定通り、厳しい現実に震えているようだな。
と、思いきや、コレットは丁寧に頭を下げた。
「私の将来を考えてくださり誠にありがとうございます」
「……は?」
意味不明なセリフを言われたところで、雑貨屋の店主が剣を持って戻ってきた。
「ほら、これがうちの店で扱っている一番上等な剣だ。少し重いけど、お嬢ちゃんの身のこなしならすぐ使えるようになるはずさ」
「ありがとうございます。こんな立派な剣を貰ってしまい恐縮です」
コレットが受け取ったのは、大型のマチェットナイフみたいな剣。
刀身は黒くて、触らなくてもずしりとした存在感を覚える。
ふーん、カッコいいじゃん。
戦闘以外にも木の枝を切ったり、肉を解体したりなど、幅広く使えそうだ。
プレゼントとやらも貰ったので、俺たちはドロッセ村を後にする。
「また飯を食いに来てくれよな! いつでも待ってるぜ! もちろん、今度は食いきれないくらい作るがな!」
「俺も店の品揃えを増やしておくよ! 店だって、今度来たときはもっと大きくする! だから、それまで元気に生きてくれ!」
「ありがとうございました、"正義の賢老"様-! お気をつけてー!」
住民は、みな笑顔で俺たちに手を振る。
予定外に、好印象を残してしまったらしい。
謎の呼び名も言われているし。
……ククッ、まぁいい。
老害スローライフはまだ始まったばかりだからな。
思う存分、若者を苦しめてやるぜ。
地図を見る限り、街道ではなく森を進んだ方が近道になりそうだからそっちに入る。
刑務所近くの森に比べて、だいぶ鬱蒼とした森だ。
木の枝が邪魔だな。
斬撃魔法を使うか?……そうだ。
「では、コレットよ。木の枝を切りながら進んでくれるかの。早くマチェットを身体に馴染ませた方が良い。ククッ、かなりの重労働だが、お主なら何時間でも切れるはずじゃ。なぜなら、"若者"なんだからのぉ」
「もちろんでございます!(ジグ様も私の成長に期待してくれている! さっそく修行の機会をくださった! 期待に応えられるように頑張らないと!)」
さっそく、コレットがマチェットで木の枝を切りながら先導する。
俺の代わりに若者が働くのは気分が良い。
こっちの道を選んで正解だったな。
街からだいぶ離れ、木々が少ない場所に出たところで、不意にコレットは険しい顔になった。
「……ジグ様」
どうやら、俺と同じようにわずかな異変を感じ取ったらしい。
さすがは、"狼人族"ということか。
「うむ、わかっておる。コレット、戦闘態勢を取るんじゃ」
その返答を合図にしたかのように、木陰から何匹もの魔物が現れ、俺たちを取り囲んだ。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
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