最終話:悪役ジジイよ、永遠に!
翌日の早朝。
俺は両腕にしがみついているコレットとカイゼルを起こさないように押し退け、そっと拠点を後にする。
朝の大森林は静かで、小鳥の囀りが長閑に聞こえた。
隣にずっといたコレットはいない。
"若返りの泉"を探す旅を、今度は一人で再開しようと思う。
最近感じる予想外の心境の変化は、少し他人と接しすぎたのが原因だろう。
だから、この先は俺だけで粛々と旅するべきだ。
森に入ると、木々の枝葉が一人旅を妨害するように立ちはだかった。
ふむ……。
「よし、コレット。森の木が邪魔じゃ。先導して切り倒しなさい」
返事がない。
ククッ、俺の命令を無視するとはいい度胸だな。
厳しい叱責を与えようと思い隣を見ると、誰もいなかった。
……そうだ。
一人で旅をしようと決心したばかりだった。
寂しくないと言えば…………嘘になるのだろうか。
拠点に戻るか?
コレットを起こして……だから、一人旅をすると決めたばかりだろう!
どうすればいいのか、頭の中で激しく混乱していると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「……ジグ様!」
コレットだ。
振り返ると、ひどく焦った様子で俺の両腕を握る。
「おいていかないでください! 私に何か至らない点があったのでしょうか!? 申し訳ございません! もしあったら今すぐ直しますので、おいていかないでください!」
俺にはわかる。
ここが運命の分かれ道だ。
きっとひどいことを言ったら、コレットはもう二度と俺と旅をしないと思う。
己の前世、そしてジグルドに転生した瞬間を思い出せ。
自分がされた老害ムーブを、この世界の若者にやり返すんだろ。
これは最高のチャンスじゃないか。
…………しばし思案した後、俺は告げる。
「……別に、おいていくつもりはない。ただ、朝の空気を吸いたくなってな。散歩していただけじゃよ。勝手に出てきて悪かったの」
「そう……だったのですか……よかった……。ジグ様においていかれると思ったら、胸が張り裂けそうでした」
俺が出した結論は…………コレットと一緒に旅をすることだった。
刑務所近くの森で出会い、大盛りの飯を食わせ、魔物召喚士を倒し……。
今まで一緒に過ごした全ての時間が、かけがえのない大事な思い出になっていた。
コレットに出会えなかったら、それこそどうしようもない老害に俺は墜ちていた。
道を間違えそうな俺を、正しい道に引き込んでくれたのだ。
そんな彼女を傷つけるようなことは言えなかったし、できなかった。
俺の返答を聞き、コレットは心底ホッとしたような表情を浮かべる。
「これからもよろしくお願いします……私の大切なジグ様」
「ああ、よろしくの……ワシの大事な仲間のコレットよ」
俺たちは微笑みを交わす。
初めて心の底から笑い合うことができた気がした。
□□□
拠点のみなと朝食を済ませ、いよいよ旅立ちのときが来た。
「娘をどうぞよろしくお願いします! 婚約については事後報告でいいですからね!」
「里が復活したらご招待しますわ! ぜひ、コレットと一緒に来てください! その際は式も盛大にやりましょう!」
「ジグルド翁、今度はボクも旅に連れて行ってよ! 流行病が落ち着いたら合流しよう! 大丈夫、ボクは人捜しが得意なんだ!」
「「"正義の賢老"ジグルド様! またいつかお会いしましょう! あなたに会えて本当によかった!」」
コレット両親、カイゼルたち勇者パーティー、アイビスたち後方支援組、"神滅の刻印"……ノクターナルで知り合った面々は笑顔で手を振る。
彼らに手を振り返し、俺たちは森の中を進む。
完全に声も聞こえなくなってしまうと、隣のコレットが呟くように言った。
「次はどこに行きましょうか」
「そうじゃなぁ……風に吹かれるまま、のんびりと旅しようじゃないか」
「いいですね! ジグ様と一緒ならどこに行っても楽しいです!」
転生した当初に感じていた焦燥感や不安感は、今や綺麗さっぱり消え去ってしまった。
"若返りの泉"探しは振り出しに戻ってしまったが、またゆっくりと探せばいい。
俺はコレットとの二人旅で学んだからだ。
人生は…………。
思ったより長いということを。
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