第29話:悪役ジジイ、みなに感謝されるも……
ノクターナルの入り口前に設置された、勇者パーティーの拠点。
カイゼル一行の他、アルビスたち後方支援組、コレットたち"狼人族"、遭難冒険者"神滅の刻印"一同まで勢揃いだ。
みなに盃が行き渡ったのを確認すると、カイゼルが大きく手を上げる。
「……それでは、"正義の賢老"ジグルド翁に感謝の意を表そう! ……乾杯!」
「「乾杯!」」
カイゼルの掛け声で、一斉に盃がぶつかり合った。
軽快な音が響いた後、歓声が辺りを包む。
当の俺はとても騒ぐ気分にはなれず、端っこでぼんやりと座るばかりだ。
魔帝龍を討伐し"狼人族"を助け出した後、俺たちは無事に帰還した。
怪我もなかったし、魔帝龍の逆鱗もゲットできたし、"狼人族"とも再会できた。
端から見れば、これ以上ないほどの功績だろう。
だが、喜べない理由が俺にはある。
後方支援組や"狼人族"の礼を聞き流していると、カイゼルとコレットがこちらに来た。
「ジグルド翁、あなたのおかげで逆鱗が手に入った。これで王国の人も流行病から解放されるよ。彼らの分も深く感謝申し上げる。……でも、ボクたちは目的を達成できたけど……ジグルド翁は残念だったね……」
「私も両親や仲間と再会できたのはすごく嬉しいのですが……ジグ様の願いが叶わず、素直に喜べません」
そう、"若返りの泉"は消えてしまった……。
掬い上げようとした瞬間、消えてしまった!
掬い上げようとした瞬間! 消えてしまった!!
せめて、あと三秒着くのが早かったら……。
こんなのあんまりだよ、世界……。
少しくらいは夢を見させてくれ……。
ずーん……と落ち込む俺の周りに、ゼファルドとミレディも来た。
「ジグルド様、改めて心より感謝いたします。あなたは"狼人族"全体の恩人です。ジグルド様に救われたこと、末代まで語り継がせていただきます」
「ジグルド様にお会いできなかったら、きっと"狼人族"は滅亡していましたわ。私たちだけでなく、一族の未来まで救ってくださったのです」
「ジグ様がいなかったら、もしかしたら両親とは……いえ、絶対もう二度と会えませんでした。いつも……私たちのためにありがとうございます」
気がついたら、コレット両親の他にもみんなに囲まれていた。
俺を見るのは弾けるような笑顔、笑顔、笑顔……。
明るい表情からは喜びが伝わってくる。
「ああ、お主らが幸せになってくれればワシも嬉しい。お主らの幸せが私の幸せじゃ」
彼らの笑顔があったら、別に若返られなくてもいいかもしれないな……。
自分の幸せより他人の幸せだ。
未来ある若者ならなおさら…………だから、違うだろ!
いったい、俺はどうしちまったんだ。
俺の葛藤などいざ知らず、大森林の夜はどんどん更けていった。
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