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第25話:悪役ジジイ、到着した大森林で狼少女に感謝の気持ちを伝えられる

「……ジグ様。こんなに大きな森、私は見たことありません。一族の谷よりずっと大きくて壮大です」

「ああ、立派なじゃな。まさしく、王国一の森じゃ。気を抜くと飲み込まれそうじゃの」


 目の前に広がる雄大な景色を見て、俺も傍らのコレットと同じように感嘆とした声を出してしまう。

 サンフィオーレの街にてクラウスと出会ってから、およそ十日後。

 俺とコレットはとうとうメガロブラス大森林に着いた。

 大森林という名の通り、見渡す限りの木・木・木。

 道中聞いた話では年々規模が広がっているらしい。

 いやぁ、植物の生命力には恐れ慄く。

 この森に"若返りの泉"があると思うと、興奮すると同時に気が引き締まる。

 待ってろ泉ちゃん、絶対に見つけてやるからな。

 改めて決心しながら、収納空間より大切な地図を取り出す。


「さて、コレットよ。一度地図を確認するぞよ。"狼人族"のおかげで貴重な情報を入手できたからの」

「仲間もジグ様のお役に立てて光栄だと言ってました」


 闇オークションの一件の後。

 "狼人族"は感謝の印ということで、"若返りの泉"のあるダンジョン――迷宮都市ノクターナルの場所を俺に教えてくれた。

 30階層もある、巨大な都市様のダンジョンだ。 

 難易度は文句なしの特級。

 "若返りの泉"があるのは最深部。

 念には念を入れ、一人より二人で挑みたいところ。

 ……なのだが、俺は問題ないにしてもコレットは大丈夫か?


(ノクターナルは特級のダンジョン……。ジグ様の足を引っ張らないように頑張らないと……)


 コレットの表情は硬い。

 怖じ気づいて帰られでもしたら少し困るな。


「コレットよ、心配することはない。ワシが教えたことを思い出すんじゃ。お主は強い。なぜなら、ワシが直々に指導したからじゃ」

「はいっ!(そうだ! 私はジグ様のご指導を受けてきたんだ! 剣士ゴーレムとの修行だって、毎日のようにつけてもらった! 心配なんていらない! ジグ様と、私の努力を信じるだけ! 大事なことを気づかせていただけた!)」


 一転して、コレットは笑顔で答える。

 なんだ、大丈夫らしい。

 ついでに恩に着せることにも成功したので良いとする。

 闇オークションで解放した"狼人族"は地理に強い一族でもあるためか、詳細な地図まで製作した。

 ククッ、便利な連中だ。

 といわけで地図を見るが、文字がぼんやりと霞む。


「え~っと、なになに……? チッ、老眼で目が見えんわ」

「ジグ様、私が代わりに読みます。……迷宮都市ノクターナルは、北に30kmほど進んだ場所にあるようですね。100mくらいある大木が目印です」

「ふむ、さようか。それなら二日も歩けば充分じゃろうな」


 "若返りの泉"の出現はランダムなので、いつまでダンジョンにあるかわからない。

 故に、できれば急ぎたいのだが、ここは冷静に"急がば回れ"だ。

 さっそく森を進むが、人の手が入っていないためか鬱蒼としていて歩きにくい。

 植生も一般的な森と異なり、木の枝は太く、木の葉は鋭い。

 ……よし。


「さーって、コレットよ。お主に任務を与える。歩きやすいように先導してくれるかのぉ? ついでに、魔物がいないか警戒してくれると助かる。肉体的にも精神的にも負担の多い仕事じゃが、お主ならできるじゃろう。なぜなら、"若者"なんじゃからなぁ」

「はいっ、お任せください! ジグ様はどうぞゆるりとついてきてくださいませ!(これも修行の一環! ダンジョンにつくまでに、私を少しでも強くしようとしてくれているんだ! ジグ様のご期待に応えられるよう、精一杯この任務を全うする!)」


 厳しい仕事を与えると、コレットは上機嫌で返事する。

 調教が進んでいるようで、ようやく奴隷らしくなってきた。

 会敵した魔物は「修行の一環だ」と言いくるめてコレットに倒させつつ、俺たちは森を進む。

 


 □□□



「……よし、今日はここに泊まるかの。これだけ広ければ快適に過ごせそうじゃ」

「はい。大きな洞穴があってよかったですね」


 俺たちは順調に森を進み、洞穴で一泊することにした。

 だいぶ日も暮れてきたしな。

 洞穴の奥行きは10mほどもあり、スペースは充分。

 魔物も棲んでいなくて寝るにはピッタリの場所だった。

 収納空間から鍋や皿、食糧の他、道中倒した魔物の肉を取り出す。

 何も言わずともコレットがテキパキと調理をし、温かいスープができあがった。

 野営の食事については、俺が準備をしてコレットが料理する。

 いつの間にか、そんな分担になっていた。


「ジグ様、お料理ができました」

「うむ、よくやったの。では、いただくとしよう。……くぅっ、うまい! 肉も柔らかいな。素晴らしいぞ、コレット」

「お気に召してよかったです。この魔物のお肉は硬いので、いつもより長めに茹でました(ジグ様に喜んでいただけるよう、宿に泊まるたび厨房の人に料理のコツとか聞いてよかった……)」

「ほぉ、すっかり料理人じゃの。味つけも薄いのに奥行きがあって美味じゃ」

「もったいないお言葉をありがとうございますっ。お野菜の旨みが染み込んでいるのだと思います(一番の隠し味はジグ様への…………愛!!)」


 薄味が老いた五臓六腑に染み渡り、疲れた身体が回復するのを感じる。

 相変わらず、コレットは静かなのになぜかうるさいが……。

 食事も終わり、生活魔法で鍋や食器を洗うついでに、俺とコレットの身体と服も洗浄する。

「コレット、動くでないぞ。……《洗浄》」

「ありがとうございます、ジグ様……」


(お風呂に入れないときは、いつもこうして清潔にしてくださる。私の身体を包む温かさは、ジグ様の優しさそのもの……)


 実際のところは魔力を節約したいのが不衛生だと実害が出るので、仕方なくコレットも毎日洗っている。

 寝支度も終わったので、就寝とする。


「さて、もう寝るかの。おやすみ、コレット」

「ジグ様……」

「なんじゃ?」


 目を瞑ろうとしたら、コレットが話しかけてきた。

 いつもはすぐに寝るのに珍しい。

 コレットはしばし黙った後、俺の手をそっと握った。


「……私、ジグ様にお会いできて本当によかったです。あのとき助けていただいたおかげで、今の私があります。ジグ様がいなかったら、今頃もまだ奴隷でした。もしかしたら、死んでいたかもしれません……」

「……そうか」


 あのときは意図せず助けたわけだが、今の彼女の表情を見ると、それはよかったことなのだと思う……。

 コレットは俺の手を握ったまま、思い出すように語り続ける。


「サンフィオーレの街でお会いしたご老人は……きっと、ジグ様の古いお知り合いなんでしょうね。お二人がバーで何を話されたかは知りません。でも……ジグ様の過去がどうであれ、私は今のジグ様が大好きですから」

「……」


 何も、答えなかった。

 ……いや、答えられなかった。

 いずれ、コレットに俺の過去を話す日が来るのだろうか。

 ジグルド・ルブランの数々の悪行を知ったら、酷く落胆する気がする。

 俺の元から離れるかも……。

 それが良いことなのか悪いことなのか、今の俺にはわからなかった。


「おやすみなさいませ、ジグ様」

「ああ、おやすみ」


 コレットが横になると、すぐに寝息が聞こえてきた。

 握られた手は離されていない。

 この調子だと、今日もしがみつかれるな。

 いい加減、俺の腕を抱き枕にするのはやめてほしいところだ。

 クラウスに会ってから、俺の心境がどこか少し変わったような気がする。

 ……まぁ、気がするだけだ。

 洞窟の入り口からは夜空が見える。

 藍色の空には、クラウスに会った日と同じようにたくさんの星々が瞬いていた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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