表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

第22話:悪役ジジイ、有力な情報を得て宴で歓迎される

「……ジグルド様はお歳なのにずいぶんとお強いんですね! 取り組んだ努力の重みを感じます!」

「悪に対しての容赦なさがカッコいいです! 俺もジグルド様みたいに強い意志を持った騎士になりたいです!」

「"正義の賢老"なんて二つ名はジグルド様にピッタリですよ! これからも世の中に名を轟かせてください!」


 騎士達は寄って集っては俺を讃える。

 すでにコレットが"正義の賢老"うんぬんを話してしまったので、彼らのテンションはバリバリに上がっていた。


「こらっ、いつまでジグルド様と話しているんだ! さっさと作業を開始しろ!」

「「は~い」」


 ロドリゴの号令で騎士達は後処理を始めるが、マフィアの死体を見渡してはキャッキャッキャッキャッはしゃぐ。


「月明かりに死体が映える! なんて美しい光景だ!」

「なぁ、久し振りに死体ジャンケンしようぜ。こんなに死体があったら、やらないわけにはいかないだろ」

「おっ、いいねぇ! 今日の飲み代を賭けようぜ!せーのっ、死体ジャンケーン……ジャンケンポン! ……ちくしょー、負けだ!」


 死体ジャンケンとは、死体を立たせ倒れた向きで勝敗を決める遊びらしい。

 この世界の若者……というか、騎士たちはサイコパスなのか?

 倫理がやべぇ。

 騎士たちの忘れてきたモラルの所在に思いを馳せていると、コレットが"狼人族"を引き連れてきた。


「ジグ様、"狼人族"の仲間を助けてくださり本当にありがとうございました。ジグ様が来てくれなかったら、奴隷として各地にバラバラになっていたと思います」


 コレットは涙ながらに感謝を述べる。

 まぁ、俺は陽動に使ったつもりだったんだがな。

 他の"狼人族"も同じような心境らしく、夜の古城には啜り泣きの音が響く。

 ……ついでに言うと、セオフィルやマチルダ、ロドリゴたち騎士の面々も泣いている。


(フェリオス湖でも感じたが、ジグルド様はやっぱり正義の塊だ……)

("狼人族"の皆さんが解放されて本当によかった……。昼間は私も助けてくれた。ジグルド様は困っている人を見過ごせない心の持ち主なのね…………素敵)

(類い希な魔法の実力を他人を守るために使うお方……。俺たち騎士も、今一度身を引き締めなければならんな)


 何を思われているかは知らんが、耳をすますと心の内が聞こえてきそうだった。

 コレットと同じ銀髪をショートに切り揃えた"狼人族"の女が、俺の前で深々と頭を下げる。

「私はソフィアと申します。里ではコレットの姉代わりを務めていました。ジグルド様は"狼人族"全体の救世主でございます。一族を代表して、心よりお礼を述べさせていただきます」

「そうか。よかったの」


 礼を述べ終わると、二人は固く抱き合った。

 コレットの肩は細かく震え、ソフィアは優しく頭を撫でる。


「ソフィア姉さん……会いたかったです……。生きててくれてよかった……」

「私もよ、コレット。あなたにまた会えて……本当によかった……。私の……可愛い妹……」


 涙が浮かぶ様子から、心底感激していることが伝わった。

 いわゆる感動の再会ってヤツだな。

 ソフィアだけに飽き足らず、他の"狼人族"たちも次々と感謝の言葉を口にする。


「ジグルド様、コレットから話は聞きました。彼女も奴隷商人から救ってくれたそうですね。ずっと心配してたので、本当に安心しましたよ」

「運命的な出会いとは、まさしくこのこと。我ら“狼人族“、ジグルド様にお会いできたこと、世界に感謝いたします」

「こんな強いお方が助けてくれたなんて、俺たちは本当に運が良い! ありがとう、ジグルド様!」


 どいつもこいつも、感謝しては深く頭を下げる。

 いや、一応コレットは今も俺の奴隷なのだが……あっ。


「そうじゃ、コレットよ。お主の両親はいたのかの?」


 奴隷商人から助け……ではなく奪い取ったとき、家族を探しているとか言っていた。

 俺が尋ねると一転して、コレットは厳しい表情を浮かべる。


「父と母は…………いませんでした。ここに来れば、絶対に会えると思いましたのに……」

「……そうか」


 どうやら、両親はいなかったらしい。

 "狼人族"がどれくらいいるかわからんが、思ったより散り散りになっているのかもしれないな。

 …………まぁ、どうでもよいが。

 そんな俺たちの話を聞いていたソフィアは仲間と顔を見合わせると、真剣な声音で切り出す。


「闇オークションに出品された"若返りの泉"は、メガロブラス大森林の奥地にあるダンジョンにて採取されました。ダンジョンには強力な魔物が蔓延っており、私たち"狼人族"の一部は労働力として使われました。コレットの両親も一緒に働かされていたはずです。あの後、別の場所に連れて行かれたかもしれませんが、まだ大森林に残っている可能性も十分あります。……二人とも、コレットに会いたがってたわ。娘の無事だけが希望だと……」

「ソフィア姉さん、情報をありがとうございます! ……ジグ様! 大森林にはまだ両親がいるかもしれません!」

「なるほどの、メガロブラス大森林か……これは有力な情報じゃ」


 王国を代表する自然豊かな地域。

 何百ヘクタールもあり、実際のゲームでは探索しきれないほど非常に広大だった。

 そこに"若返りの泉"がある……かもしれない!


「よーし、コレット! 次なる目的地が決まったぞ! メガロブラス大森林じゃ!」

「はいっ!」


 二人で拳を突き上げたところで、騎士達と話していたセオフィルがマチルダを連れてやってきた。


「……ところで、ジグルド様。昼間もマチルダがお話ししたと思いますが、一度私たちが宿泊している別荘にいらしてくださいませ。眺めもお食事も素晴らしく、ぜひジグルド様にもご堪能いただきたいのです。もちろん、"狼人族"の皆様もどうぞ。お疲れでしょうから、温かい食事や風呂などをご堪能ください」

 

 ふむ……。

 気持ちとしては今すぐにでも大森林に行きたいところだが、老人の身体なのでそこそこ疲労がある。

 夜も遅いし、今日はセオフィルの別荘に泊まることになった。

 騎士と"狼人族"も招待され、さっそく宴が開かれた。

 俺とコレットは大テーブルのお誕生日席的な場所に座らされ、あれこれと歓待を受ける。

 "狼人族"は解放された喜びか、涙ながらに食事をする。

 騎士は酒好きな者が多いようで、俺よりもこの宴を楽しんでいた。

 特にロドリゴは酒に酔うと饒舌になるらしく、だる絡みをされている。


「なんと、ブライトミアでデリクと会ったんですね! あいつは騎士養成所時代の同期でしてね! 昔から俺より要領がよくて、いけ好かないヤツでしたよ! こんちくしょう、衛兵隊長なんて立派になりやがって! 離ればなれになっても頑張ってたんだな! すげえよ、お前! うっうっ……」


 笑っては泣いて、泣いては笑ってと忙しい。

 ロドリゴが騎士に連行されると、今度はセオフィルが俺の隣に来て、マフィアにどれだけ迷惑を被ってきたか延々と聞かされる。


「……というわけで、マフィアどもには散々、私の商売を邪魔されましてな。一網打尽にしたかったのです。この街の古城で闇オークションが開かれる情報をギリギリで掴み、騎士隊とともに包囲網を作っているところ、ジグルド様たちと再会した……という次第であります」

「ほーん、そうじゃったのか。それにしても、別荘のある街で闇オークションが開かれるとは運が良かったの」

「まぁ、王国の全ての街に別荘がありますのでね」


 こらっ、さらりと金持ち発言をするな。


「私は完全現場主義を貫いておりましてね、自分で商売をしないと気が済まないのですよ。フェリオス湖では、大事な商談に向かうところでした」

「そうだったのですね。ジグ様みたいにご立派です」


 商売であの湖にいたのか。

 そういえば、そんなことを言っていたような気がする。

 セオフィルの隣にはマチルダがおり、不意に俺の手をそっと握ってきた。


「ジグルド様、今夜は私のお部屋で就寝されてはどうでしょう。自分で言うのもなんですが、他のお部屋より広いですし眺めもいいんですの。きっと、ゆっくりご就寝できると思いますわ」

「いえいえ、ジグ様はお忙しいので、用意されたお部屋で私と寝ます。心苦しいのですが、こればかりはちょっと……」


 俺が言われたのに、なぜかコレットが代弁する。

 別に、一人で静かに寝れればそれでいいんだが……。


(今回こそ、ジグルド様と縁を紡ぎます!)

(ジグ様は絶対に渡さない!)


 コレットとマチルダの視線が衝突した瞬間、バチッ!といつ電撃音が確かに鳴った。

 昼間もそうだったが、この激しい視線のぶつかり合いはなんだ。

 うっかり間に入ったら、あっという間に黒焦げになりそうだぞ。

 そして、静かなのになぜかうるさいのも、また不思議だ。

 

「いやはや、ジグルド様はモテますなぁ~。私もあなた様のように年を重ねたいものです」


 極めつきは、セオフィルの謎の発言。

 これがモテているように見えるか?

 "狼人族"の面々は生温かい目でこちらを見るばかり。


(ジグ様は私と寝ます!)

(いえ、ジグルド様は私と寝るのです!)


 夜が更けるとともに宴は終わる。

 その晩はどうなることかと思ったが、結局はいつものようにコレットにしがみつかれながらの就寝となった。



 □□□



 翌朝。

 いよいよ、大森林に行く日だ。

 別にいいのに、宴に参加した全員が見送りにきた。

 まずはロドリゴが俺の手を握る。


「ジグルド様、あなたにお会いできて本当によかった。マフィアも大多数を壊滅できたし、興味深いお話もたくさん聞けました。ぜひ、またお会いしましょう。いつまでも長生きしてくださいね」


 次はソフィアが"狼人族"を代表し、俺と握手しながら話す。


「ジグルド様、大変お世話になりました。私たちはしばらく、セオフィル様のサポートを受けながら里への復帰を目指します。できれば私たちもご一緒したいのですが、近辺に捕らえられている仲間の解放に向かいます。みな一刻も早い救出を待っているはずですので」


 昨日、騎士による酷い拷問で生き残りのマフィアが色々と情報を吐いた。

 どうやら、大森林では"狼人族"の面々が捕まっていた。

 "若返りの泉"があるダンジョンは極めて広大で、地底都市のような構造らしい。

 最深部を目指すに辺り"狼人族"は奴隷兼護衛として連れてかれ、古龍の襲撃により散り散りになった。

 "狼人族"はタフなので、まだダンジョンの中で生存している可能性は充分にあるとのことだ。


「……ああ、頑張るんじゃよ。ワシもお主らの成功を祈っておる」


 俺はソフィアたちの援護に行くつもりは毛頭ないので、文字通り応援だけだ。

 手伝ってくれるとでも思っていたのだろう?

 ところがどっこい。

 日本人仕込みの社交辞令の威力を思い知れ!

 俺の老害ムーブに、コレットとソフィア、そして"狼人族"の面々は涙を浮かべる。


(ああ、祈ってくださるなんて、ジグ様は本当にお優しい……。気遣いの気持ちが伝わる……)

(コレットが好きになる理由がわかる……。ジグルド様、あなたは賢老そのものです……)

((ジグルド様……しゅき……))


 ククッ、思った通り、なかなかの精神的なダメージを喰らったようだ。

 老害ムーブの結果に満足したところで、俺とコレットは馬車に乗り込む。

 御者が元気よく手綱を振るうと、勢いよく馬車が駆けだした。

 後方からは、ロドリゴたち騎士やセオフィルとマチルダ、ソフィアたち"狼人族"の別れを惜しむ声と感謝の声が飛んでくる。

 中でも、マチルダの声が一番大きくて、いつまでもよく聞こえた。


「ジグルド様ー、お元気でー! 今度はぜひ一緒に寝ましょうねー! このマチルダ、いつもジグルド様の眠るスペースをご用意しておりますー!」


 コレットと視線がぶつかると、またもやそのときだけ火花が爆ぜるような音も聞こえた。

 不思議な二人だ。


「さて、長旅になりそうじゃの。道中、楽しく行こうぞ」

「はいっ! ジグ様とまた旅ができるなんて本当に幸せです!」


 コレットは笑顔で叫ぶ。

 ふん、調子の良い奴め。

 次なる目的地は、メガロブラス大森林。

 今度は“若返りの泉"そのものを見つけ出す…………絶対にな。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!

評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。

★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!

ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。


どうぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ