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第20話:悪役ジジイ、ドレスコードで必要な服を奪うため若者を殺したら、なぜか金持ち令嬢を助けてしまう

 馬車を乗り継ぎ走ること、およそ二週間。

 俺とコレットは、ルーインホルムの街に到着した。

 街から少し離れた丘には、寂れた廃城が見える。

 ブライトミアほどではないがそこそこに大きい。

 ザ・中世ヨーロッパ風の長閑な雰囲気が良い。

 今はオークション期間であるためか、広場では小規模なオークションや蚤の市が開かれていた。

 客や店主による、活気のある声が通路に響く。


「ジグ様、この後はどうしましょうか」

「うむ、一度カタログをチェックするぞよ」


 広場の片隅に移動し、"魔拝教"から奪ったカタログを見る。

 闇オークションは今日の夜から開始。

 会場は街外れの廃城だ。

 カタログは入場券代わりにもなるので、結構重要なアイテムだった。

 強奪してきてよかったな。


「あの、ジグ様……」

「なんじゃ?」


 コレットは何やら考え込んだ後、不安そうな顔で切り出す。


「お金は……どうするのでしょうか。落札するには結構な大金が必要かと……。私の分で足りるでしょうか」

「ふむ……」


 まぁ、思った通りの心配事か。

 道中、魔物や山賊の類いを討伐しては最寄りの街で換金してきた。

 コレットの取り分は、きっちりコレットが倒した分だけ。

 1ゼーニたりとも多くは払っていない。

 もちろん、持ち逃げされないように俺が収納魔法で保管しており、使うときだけ必要な分を渡していた(断じて、銀行的な役割をしているわけではない)。

 闇オークションには、正規のオークションでも入手できないような、貴重で高価な品々が出品される。

 俺とコレットの持ち金を併せても、きっと一番安い品でも落札できないだろう。

 だが……。


「金のことは心配せんでいい。ちゃんと対策は考えてある。お主は淡々とオークションに臨めばいいんじゃ」

「そうだったのですね! ありがとうございます!(やっぱり、ジグ様はちゃんと考えていらっしゃった! 私が心配することは何もないんだ!)」


 打って変わって、コレットは明るい顔で喜ぶ。

 元より、俺に落札するつもりはない。

 伝統的に、闇オークションは実物を展示しながらの競りだ。

 カタログにもそう記されていた。

 目的の小瓶が壇上に運び込まれたら…………強奪すればいい。

 泉の水さえ手に入ったらこっちのもの。

 一度安全地帯まで避難し、ゆっくりと飲む。

 若返れば、誰も俺が強奪犯の老人ジグルドだとは思わないはず。

 後は悠々自適に新しい人生をやり直す。

 スローライフな旅をするも良し、人里離れた土地で静かに暮らすも良し。

 ……ククッ、まさしく完璧な作戦だ。

 己の作戦に感動していたら、またもやコレットが俺の裾をくいくいと引っ張った。

 

「お言葉ですが、ジグ様。服はご用意した方がいいかもしれません」

「……服じゃと?」

「ええ、さっきのカタログに、"ドレスコードは黒スーツ"と書かれていたと思います」


 コレットに言われて見直してみると、たしかにドレスコードについて記載されていた。

 男女とも黒のスーツ、もしくはそれに準ずる格好を求められるらしい。

 チッ、面倒だな。

 闇オークションは各地のマフィアが共同で開催する一大行事。

 参加者や全体の雰囲気も大事ということだろう。

 ……まぁ、いい。

 余計な問題は起こしたくないので、黒スーツの入手を決める。


「よーし、まずは黒スーツを買うぞよ! なるべく安いヤツを!」

「はいっ!」


 俺とコレットは意気揚々と街を歩く…………のだが、意外にも服屋がない。

 おいおい、服屋くらいあってくれよ。

 オークションが開かれるんだから、ドレスコード用の服がなくて困っている客の存在くらい想像つくだろうが。

 商売チャンスを逃しているぞ。


「困りましたね。今から他の街に行く時間はないですし……。申し訳ありません、私がもっと早く気づいていれば、手前の街で準備することができましたのに……」

「いや、お主の責任ではない。それを言うなら、カタログをよく確認しなかったワシのせいでもある」

「ジグ様……(ジグ様はいつも私を慮ってくださる。一緒に旅を始めて……怒られたことは一度もないほどに)」


 オークションの出品順を考えると、コレットには重要な役割がある。

 へそを曲げて帰られると困るので、敢えて責めなかった。


「とはいえ、ドレスコードがクリアできないのは困るのもまた事実。こうなったら……オークションで手に入れるしかなさそうじゃの」

「そうですね! これだけ多いのですから、一つくらいは見つかるはずです!」


 やけにテンションの高くなったコレットを連れ、広場を進む。

 広場のオークションでは、定番の絵画や骨董品の他、異世界らしい魔物の素材など多種多様な品が取引されている。

 衣類関連もあるといいのだが……と思っていると、コレットの険しい声が脳裏に響いた。


「……ジグ様! 大変です、女性の悲鳴が聞こえました! 男達に襲われているようです!」

「女性の悲鳴~? ワシには聞こえんが……」


 いつの間にかコレットは真剣な顔でフードを被り、狼耳の収納モードを解除していた。

 しきりにピクピクと動いているので、周囲の音を聞き分けているらしい。

 

「こっちです!」

「ま、待つんじゃ! 勝手に行動するでない!」


 止める間もなく、コレットは走り出してしまった。

 悲鳴なんて放っておきなさいよ。

 夜までに黒スーツを入手しないといけないんだからさ。

 後を追いたくなどなかったが、コレットがいないとそれはそれで完璧な計画に支障が出る。 確実に泉の小瓶を手に入れるため、仕方なく追いかけた。

 広場を離れ、街外れに行き、寂れた路地を覗くと……。


「……おい! 金を出せ! 抵抗したら殺すぞ! 命と金、どっちが大切だ!?」

「お前の死体をオークションに出してもいいんだぞ!」

「誰か……誰かぁっ! 助けてくださいっ!」


 たしかに男が二人、金持ちそうな若い女を襲っていた。

 チッ、面倒な場面に連れて来やがって……。

 心の中で毒づく間もなく、極めて重要な事実に思わず歓喜の声を上げてしまった。


「く…………黒スーツじゃ!」


 男二人は、ともに黒のスーツを着ている。

 あれを奪えばドレスコードをクリアできるじゃないか!


「コレット、よくやった! さっそくあいつらを攻撃するぞ!」

「はいっ!(ジグ様は困っている人を絶対に見過ごさない!)」


 黒スーツは俺とコレットの存在に気づいたらしく、女から手を離してこっちに来る。


「おい、なんだよ、ジジイと小娘。文句でもあんのか? お前らを先に殺し……」

「《摩力の手》」

「「っ……!?」」

 

 魔力を凝縮させた手を出現させ、男たちの頭を掴む。

 できれば、せっかくの黒スーツは汚さないように、むしろ無傷で手に入れたい。

 ので、いつもの《魔弾》やこの前の《切り裂き鞭》は止めておいたのだ。

 男二人は《魔力の手》を掴もうとしてはすり抜けていた。

  

「は、離せ、ジジイ! 殺すぞ! 俺たちにこんなことしてタダで済むと思うなよ!」

「仲間が知ったら、お前らを死ぬまで追い続けるからな!」」

「うるさいのぉ」


 俺が軽く手を回すと、黒スーツたちの首はぽきゃっと間抜けな音を立てて、あっさりと折れた。

 こいつらはきっと、マフィアの関係者だ。

 もし逃がした場合、闇オークションで俺のことをあれこれ言われると計画に支障が出るので殺しておいた。

 まぁ、別に関係者じゃなくても、若者だから殺してもいいのだ。

 男の死体から、シャツとジャケット、パンツにネクタイ、ベルトなど、下着以外の衣服を奪い取る。

 うまい具合に、俺とコレットの背丈に合いそうな大きさだ。

 ふむ、大して汚れてはいないが、このまま着るのは抵抗があるな……。


「《洗濯》」


 というわけえで、水魔法と風魔法を使って洗濯する。

 もちろん、コレットの分も。

 不衛生だと臭いなどで実害が出るからだ。

 ククッ、新品同様になったぞ。


「ほれ、コレット。お主の黒スーツじゃ。一着しかないから丁寧に着るんじゃぞ」

「ありがとうございます!(そのままでもよかったのに、私が困らないように清潔にしてくださった! ジグ様の気遣いが身に沁みる!)」


 多少の出費は覚悟していたが、まさかタダで手に入るとは思わなかった。

 ありがとう、若人よ。

 明るい未来が君たちを待っている!

 ……悪い、もう死んでたわ!

 わははははっ!っと心の中で笑っていたら、女が頭を下げたのが視界の隅に映った。


「あの……助けていただいてありがとうございました」

「……あん?」


 襲われてた若い女だ。

 茶色の髪はふんわりとしたウェーブがかかり、茶色の瞳はくるりと丸い。

 着ているドレス的なワンピースはファッションに疎くとも上品なことが伝わり、金持ちなんだろうなと想像された。

 まだここにいたのかよ。

 さっさと立ち去ればいいものを。

 女は慣れた動作でカーテシーをすると、胸に手を当て自己紹介した。


「私はマチルダ・レイヴンウッドと申します。お爺様とお嬢様のおかげで命が救われました。お礼を差し上げたいので、ぜひ、お名前を聞かせて聞かせていただけないでしょうか」

「……ワシはジグルドじゃ」

「コレットと申します」


 別に礼なんていらん。

 こんな小娘が、俺の欲しい物("若返りの泉"の小瓶)は持っていないだろうしな。

 

「ジグルド……もしかして、"正義の賢老"ジグルド様ですね!? 父からお話はよく聞いておりますわ! お会いできるなんて光栄でございます! 私もいつか、ジグルド様にお会いしたかったのです!(お話で聞くより素敵なお方……。このような方をイケオジと呼ぶのでしょうね。目が離せないくらい、渋くてカッコいいですわ。同年代の男性が子どもに見えてしまいます……)」

「そうか……」


 ちくしょうが。

 コレットが喧伝しまくるせいで、こんな街にまで例の二つ名が届いていやがったらしい。

 それは違うと、マチルダの身体に教え込ませてやろうとしたら、当のコレットが俺の服を引っ張った。

 よし、俺の代わりに否定してもらおうか。

 ……と思う間もなく、コレットが俺の身体を強く引っ張った。


「……さあ、ジグ様。早く街に戻りましょう。オークションが終わってしまいますよ。服も着替えないといけませんし、いつまでもここにいることはできません」

「なに? 別に広場のオークションなど……こ、こらっ、老人の身体をそんなに引っ張るでないっ。骨も筋肉も弱っておるのだぞっ」

「いいから、来てくださいっ(マチルダさんの目は女性の目! ジグ様と恋仲になろうとしている目! もう助けたのだから、一刻も早く離れないと!)」


 コレットの様子が変だ。

 顔が硬いし、やけに焦っているというか心配しているというか……いったいどうした?


「……ところで、コレットよ。お主、なんだか不機嫌じゃないかの?」

「不機嫌ではございません!(ジグ様を慕うのは結構ですが、女性として傍にいようとするのは許しません!)」


 めっちゃ不機嫌じゃん……。

 どうしたのよ……。

 こんなこと、一緒に旅をして初めてだ。

 引っ張られて路地裏から出ると、なぜかマチルダが立ちはだかった。


「お待ちください、ジグルド様、そしてコレット様。まだお礼を差し上げておりませんわ。……そうだ。ぜひ一度、私の別荘に来ていただけませんか? 父もお二人に会いたいでしょうし」

「いえいえ、お言葉ですがお断りさせていただきます。私たちはこれから重要な用事がございますので」


 マチルダとコレットは、男二人の死体を傍にバチバチと火花を散らす。

 シチュエーションも相まって怖ええよ。

 なんだか口出しできない雰囲気に対処を困っていたら、ドタドタと身なりの良い男が数人走ってきた。


「……マチルダお嬢様! ようやく見つけましたよ! 勝手にどこかに行かないでください。こんなところにいらしたのですね……って、男の死体が! そして、こちらの方々はいったい……」

「ええ、こちらはジグルド様とコレット様と仰いまして、私が悪漢に襲われているところを……」


 どうやら、マチルダの護衛だったらしく、話を聞くと俺たちに深く頭を下げた。

 

「ご老人、お嬢様をお助けいただき誠にありがとうございました。改めて必ずお礼を差し上げますので、この場はどうかご容赦を……。さあ、お嬢様、もう行きますよ。ご当主が大変心配されていらっしゃいます。どうぞこちらの馬車に」

「お待ちなさい、まだジグルド様にきちんと…………あれあれ? あ~れ~! ジグルド様、本当にありがとうございました! 今日のご恩は絶対に忘れませんー!」


 マチルダは屈強な護衛たちが停めた馬車に押し込まれ、走り去っていく。

 馬車が見えなくなると、コレットはようやくいつもの調子に戻った。


「まったく、油断も隙もありませんね。これだから都会は怖いのです」

「言っている意味がよくわからないのだが……」

「ジグ様はわからなくていいのです」


 だいぶ和らいだが、まだ"ツン"とした感じが残っている。

 不機嫌じゃん。

 困ったぞ。

 闇オークションでの作戦を考えると、コレットの機嫌を取っておいて損はない。

 というか、帰られでもすると困る。

 …………よし。

  

「さて、コレット。夜まではまだ時間がある。オークション巡りの再開じゃ。欲しい物があったら買ってやろう。もちろん、ワシでも買える範囲でじゃがな」

「……はいっ、ありがとうございます! でも……私が欲しいのはジグ様なんです……」

「んん? なんじゃ? 年を取ったせいか、耳が聞こえづらいんじゃよ」

「い、いえ、何でもありませんっ。……あっ! あっちで珍しい果物のオークションをやっていますよ。行ってみましょう!(ジグ様は誰にも渡しません!)」

 

 俺たちは街に戻り、オークションの冷やかしを再開する。

 マチルダと離れた瞬間から、コレットの機嫌は謎に少しずつ改善し、俺は安心したのだった。



 □□□



 その後、街をぶらついていると待ちに待った夜が訪れた。

 ドレスコードの黒スーツも準備万端。

 古城の入り口でカタログを見せると、すんなり中に入れた。

 フェリオス湖の湖賊や、ブライトミアで殺したバーナードみたいな奴らがいっぱいだ。

 だが、中には金持ちだったりセレブっぽい上品な男女もいる。

 売り手はマフィアで、買い手は貴族や金持ちというわけか。

 どこか緊張した様子のコレットに、そっと耳打ちする。

 

「コレット、あまりきょろきょろするでないぞ。怪しまれるからの。堂々としている方が逆に目立たないのじゃ」

「は、はいっ(ジグ様はいつも通り、落ち着いていらっしゃる……。私より人生の経験値が豊富なのを感じる……)」


 ゲームとか漫画では、"堂々としている方が目立たない"ってよく書いてあった。

 大ホール的な場所が会場であり、俺とコレットは前の方の席に座る。

 

「これからオークションが始まるのですね……。もうじき、"狼人族"のみんなに会える……」

「ああ、そうじゃの。……ククッ、楽しみじゃ」


 コレットにはすでに、俺の作戦は伝達済だ。

 後は順番が来るのを待つだけ。

 客が所狭しと座ったところで場内の明かりが落とされる。

 いよいよ、闇オークションの開催だ。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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