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第18話:悪役ジジイ、なぜか周囲に感謝されながら交易都市を去る

「この傷野郎は"戦斧のバーナード"と言いましてね。仲間の冒険者を殺した罪で二級指名手配されていたんですよ。なかなかの実力者のはずなのに倒してしまうなんて、やっぱりジグルド様は凄い方だ。騎士団の猛者に匹敵するくらい強かったんですよ」

「ジグ様にかかれば、どんな敵も簡単に倒せてしまいますね。ここだけの話、巷でジグ様は"正義の賢老"と呼ばれているのです」

「"正義の賢老"!? なんて素晴らしい二つ名だ! 誰が聞いてもジグルド様のことだとわかりますね! 騎士の皆にも伝えなければ!」

「……あぁ」

 

 死体を前に嬉々として話すデリクとコレットたちに、適当に相槌を返す。

 騙された仕返しに殺した若者グループは指名手配の一派ということで、俺とコレットは実況見分に付き合わされていた。

 若者グループは全員死んだわけではなく生き残りもちらほらいたようで、次々と衛兵たちに連行される。


「俺君、もうこの業界から足洗います! 馬鹿やってたことにようやく気づきました! お爺さんのおかげで目が覚めました!」

「お爺さん、見逃してくれてありがとうございました! これで親にまた会うことができるかもしれません! 家出したクソ野郎の俺を助けてくれてありがとうございます……本当にありがとうございます!」


 トマや家出君の他、主にコレットが担当した人間だ。

 ふんっ、運の良い奴らめ。

 デリクに連れられ、俺とコレットは拠点の酒場に行く。


「さぁ、私たちも酒場に入りましょう。……おおっ、ジグルド様はずいぶんと派手にやられましたね~。ジグルド様の豪快な戦い見たかったなぁ。それにしても、この胴体の切り口は美しい……。俺もこんな風に斬れるようになりたいものだ」


 無残な死体が散らばった様子を見て、デリクは興奮した様子で感想を述べる。

 酒場には他の衛兵達もすでに立ち入っており、色々と動き回っていた。


「すげ~、酒場の中が血で真っ赤だ。斬殺死体がいっぱいでテンション上がるな。いっそのこと、こんな内装にした方がいいって絶対」

「むせ返る血の匂い…………うん、悪くない」

「カウンターに生首飾ったら面白いかも…………いいね、ブライトミア美術館みたいだ」


 デリクもそうだが、騎士達は若者グループの死体を前にキャッキャッしながら後処理を進める。

 ……最近の若者はサイコパスなのか?

 騎士達に接収される前に金を回収しようと思い、バックヤードの頑丈そうな箱を漁ったら、辞書みたいな分厚い本が出てきた。

 おっ、小切手の塊かもしれないな…………いや。


「これは……闇オークションのカタログじゃと?」


 そういえば、『蒼影のグラシエル』にはアイテム収集の側面があり、闇オークションに潜入するサブイベントもあったことを覚えている。 

 会場はルーインホルムという街……ゲームではいくつかの街が転々と会場となっており、そのうちの一つだった。

 オークションって現実もそうだけど、なんだかんだで結局高くつくことが多いんだよな。

 節約志向の強かった俺は大して遊ばなかった。

 だが、どんな品が出るのだろうとそれなりに興味を惹かれたので、コレットと一緒に目を通してみる。

 特級魔物リッチーロードが被る"死霊王の王冠"、伝説の連続殺人鬼アゼル・ボイジャンが最後に使ったとされる"イゼット社製ナイフ-ピーク001"、この世の破滅の歴史が描かれているという"滅びの石版"……たしかに、どれも一般市場じゃ手に入らないとされる代物ばかりだ。

 こんなのもあったなぁ……などと懐かしく思いながら見ていたら、とんでもない出品物が目に入った。

 お、おい、まさか……!?


「"若返りの泉"の水……!? これは有力な情報じゃよ!」

「こっちには"狼人族"の奴隷17人もあります! オークション会場に行けば"若返りの泉"と……そして、"狼人族"のみんなに会えるかもしれません!」


 なんと、待ち望んでいた"若返りの泉"が出品されるらしい!

 都合の良いことに"狼人族"の奴隷も一緒だ。

 ……よし。


「コレット、次の目的地が決まったようじゃ。ルーインホルムに行くぞ。……もちろんついてくるんじゃよな?」

「はい、もちろんです! 何が何でもご一緒いたします!」


 睨みつけてやったら、恐怖で竦んだらしく全肯定した。

 いいぞ。

 衛兵が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「……デリク隊長、大変です! 酒場の奥を調べていたら見つかったんですが、これは大変なことです! 大事なことだから二回言いました!」

「ええいっ、一回言えばわかると何回も言っただろう!」


 主張の強めな衛兵はデリクに叱責されながら、俺たちの前で折り畳まれたタペストリーを広げる。

 深い紺色の布に骸骨がくすんだ灰色で描かれ、その頭には二本の剣が突き刺さっていた。

 悪趣味な絵だな。

 ……いや、なんか見覚えがあるぞ……なんだっけ…………あっ!

 前世のゲーム記憶を思い出すと同時、衛兵が叫んだ。


「こいつら、"魔拝教"の一員だったんですよ! ブライトミアにも根ざしていたとは! すぐ他の仲間にも知らせましょう!」


 ……そうだ。

 このセンスのない紋章は、ジグルドが設立した"魔拝教"と呼ばれる組織の印だ。

 どうしててこんなところにあるんだ?

 クラウスがジグルドを断罪したときに、完全に壊滅したはずなのに……。

 疑問に思った俺はデリクに聞いてみた。

 

「なぁ、デリクよ。"魔拝教"は潰れたのではなかったかの? まだ生きているのか?」

「おや、ジグルド様はご存じなかったですか。クラウス様が潰してくれた後、名前はそのままに中身を変えてしぶとく生き残っていたんです」

「なん……じゃと?」

「まぁ、言ってしまえば大規模な犯罪組織ってどこですね。強盗、殺人、賭博に密売……犯罪なら何でもするような奴らです。最近は、"狼人族"の奴隷狩りに関係したとも言われています」


("狼人族"! 酒場にいた人たちの仲間があの事件に関わっていたなんて!)


 "狼人族"と聞いてコレットの身体がわずかに動くが、俺はそれどころではない。

 デリクは話し好きなようで、つらつらと蘊蓄を語る。


「ちなみに知っていると思いますが、"魔拝教"は大昔に設立された魔王復活をもくろんだ組織なんですよ。なんと、創始者はジグルド・ルブランと言いましてね、ジグルド様と同じ名前という不埒な男だったんです。迷惑な話ですよねぇ」


 デリクの蘊蓄が耳を素通りしていく。

 要するに、俺の作った組織は他人に奪われ、今も好き放題利用されているというわけだ。

 はは……。

 渇いた笑いしかでない。

 "若者"に利用された…………そう思うと、血液が沸騰するように熱くなった。


「た、大変です! ジグ様の全身から魔力のオーラが!」

「落ち着んじゃ、コレット。これは怒りの波動じゃ。許せんの……ああ許せん。これほど強い怒りを感じたのは久し振りじゃよ。ワシは絶対に"魔拝教"をぶっ潰してやるんじゃ」

「「おおっ! さすが、"正義の賢老"だ!」」

「ジグ様!("狼人族"が捕まったことをこんなに怒ってくださるなんて!)」


 怒りのあまり俺の全身から魔力が漏れ出るが、抑える余裕などとてもない。

 許せねえ……マジで許せねえ。

 瞬く間に怒りが全身を支配する。

 俺が造った組織をパクリやがった。

 マジで許せねえ。

 

「もう一度誓うが、ワシは"魔拝教"をぶっ潰すぞ!」

「「"正義の賢老"様ー!」」


 コレット一同は強く拳を突き上げる。

 ククッ、気分が高まったところで、ついでに老害ムーブを一発かましておくか。


「ところで、デリクよ。これはワシの独り言なんじゃがなぁ……もしかしたら、衛兵の中にもバーナード達と繋がっていた奴がいるんじゃないのかぁ? 衛兵がたくさんいるのに気づかなかったなんて、怪し過ぎるじゃろう。早めに、内部調査をした方がいいかもしれないなぁ」

「なるほど! たしかに、その可能性はありますね! さすが、ジグルド様! 視野が広い! 早急に調査をしなければ……!」


 実況見分に付き合わされた仕返しに、デリクの仕事を増やしてやった。

 ククッ、この後休めると思ったら大間違いだ。

 休息の暇など与えないぞ。

 上機嫌でいたら、デリクがやけに爽やかな笑顔で俺に言う。


「……ああ、よかった。ジグルド様は"魔拝教"を倒せるほど、もうすっかり元気になられたようですね。どうでしょう。怪盗クロニクルの件と今回のお手柄を併せて、ベアトリーチェ館長とお食事会を開くというのは……」

「あ、いや……!」


 まずい!

 すっかり忘れていた!

 メインキャラのベアトリーチェには会いたくない!

 あいつはただでさえジグルドをめっちゃ嫌っていた!

 生ゴミ貴族、大気汚染男、害悪野郎、死ぬことでしか世に貢献できない下劣……などなど、脳裏に刻まれた数多の暴言が蘇る。

 50年如きの懲役では、罪を償ったと認識しないだろう。

 認識どころか、逆に"死"という名の直接処罰をしてくるかもしれない。

 どうする……!と思っていたら、運良く馬車がかぽかぽと通りかかった。


「おい、そこの馬車よ! ワシらを乗せてくれ!」

「うわぁっ、いきなりお爺さんが出てきてびっくりした……。はいはい、どうぞどうぞ。せっかちなお客さんだね」


 御者には路地裏の惨状が見えているはずだが、まったく気にも止めない。

 最近の、というよりブライトミアの若者、グロ耐性強すぎじゃね?


「よし! コレットもすぐに乗れ!」

「あっ、ジグ様! お待ちください!」


 馬車に飛び乗り、コレットを引き揚げる。

 

「ルーインホルムの方角に急げ! いいから、まずはすぐに出すんじゃ!」

「はいはい、かしこまり~」

「「ジグルド様、まだお話ししたいことやご協力いただきたいことが……!」」


 馬車が駆け出すと同時に、デリクたちが後を追ってきた。


「すまんの! ワシは一刻も早くルーインホルムに行きたいんじゃ! ベアトリーチェ館長との食事会はまた今度じゃな!」

「お手数ですが、音色亭の方々にもう出立したと、ご挨拶できず申し訳ないとお伝えください! 荷物は全て持っているのでご心配なくー!」


 デリクと騎士たちは徐々に引き離れ、やがて諦めたのか立ち止まっては俺たちに笑顔で手を振る。


「ジグルド様、コレット嬢ー。街の平和を守っていただきありがとうございましたー! このデリク、ブライトミアの治安を維持するため今まで以上に精進することを誓います! "正義の賢老"に幸あれ!」

「今度はぜひゆっくり飲みましょう! 効率の良い殺し方を教えてください」

「またたくさんの斬殺死体を見せてくださいーね! 今度はもっとエグい奴がいいですー!」


 所々サイコパスな発言を受けながら、馬車は駆ける。

 ブライトミアが見えなくなってからようやくひと息吐けた。


「やれやれ、疲れたわい。最近の若者は元気過ぎじゃな」

「お疲れ様でした。ゆっくりお休みください」


(私のためにもこんなに急いで闇オークションの会場に向かってくださるなんて……! このコレット、恐悦至極でございます! "狼人族"のみんな、絶対に私が助けるから……"正義の賢老"たるジグ様と一緒に!)


「……なんか言ったかの?」

「いえ、何でもございません」


 静かなのにどこかうるさいコレットを隣に、俺は馬車に揺られる。

 次なる目的地は闇オークションが開かれる街、ルーインホルムだ。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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