表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

第15話:狼少女の夢と現実

 ブライトミアの一角にある、小さくも温かみのある宿――音色亭。

 その食堂にて、ジグルドとコレットは早めの夕食を取っていた。


「……ほれ、コレット。こっちの料理も食べなさい。好きなだけ食べてよいのじゃぞ? なぜなら、"若者"なんじゃからのぉ」

「ありがとうございます! いただきます!」


 ジグルドに勧められたボアピッグ(猪のような牙を持つ豚魔物)のステーキ500g。

 とろりとかけられた濃厚なソースからは香ばしい香りが立ち上り、熱々の鉄板で脂が跳ねる音が食欲を刺激する。

 コレットは上機嫌で口に運んでは、その野性味溢れる味わいと噛み応えに身悶えした。


(なんておいしいお肉なの……っ! こんなにおいしい食事を好きなだけ食べていいなんて、幸せ過ぎる! ああ、それにしても、ジグ様の質素なお食事風景が一番のおかずになる……)


 年老いたジグルドは食が細いので煮麺を啜っているだけなのだが、コレットの目には俗世の欲を断った老練の紳士に見えた。

 自分もあのように年を取りたいと思いつつ食事を進めていると、ジグルドが店主の男に尋ねる。


「ところで、確認させてもらうが、本当に宿代は無料なんじゃな? 後からサービス料や席料なんぞを徴収するのは無しじゃぞ?」

「ああ、もちろんさ。お爺さんたちが怪盗クロニクルを捕まえてくれたおかげで、俺たちには安心と平和が戻ってきたんだからさ。一週間くらいはここでのんびり過ごしておくれよ。もちろん、その間の食事代もタダでいいからね」


 ジグルドの問いに、中年の店主は朗らかに答えた。

 二人の会話に乗っかるようにして、カウンターから出てきた店主の妻――女将と、彼らの娘が話に加わる。


「本当にありがとね、ジグルドさんとコレットちゃん。怪盗クロニクルのことを、"かっこいい"だの"カリスマ性がある"だの、世間では好き勝手言う人もいるけどね、ただの泥棒じゃないかい。娘に何かあったらと思うと、安心して眠れやしなかったのさ」

「泥棒さん、怖かったよ……。つかまえてくれてありがと、おじいちゃんとお姉ちゃん……」


 女将の娘は、母親の服をぎゅっと掴む。

 怪盗クロニクルは浮世離れした美貌と華麗な盗みの腕で、泥棒としては世間……特に年頃の令嬢からの人気が高かった。

 だが、全ての市民が羨望の眼差しで見ていたわけではない。

 宿屋一家のように、臆したり恐怖する者も多かったのだ。

 捕まえてくれ些細な礼ということで、宿を探し歩くジグルドとコレットに宿と食事の提供を申し出た。

 食事が終わり、ジグルドに拒否されたので別々の温かい風呂に入り、二人は用意された部屋で就寝する。


「じゃあ、ワシは寝るからの。今日こそは別々のベッドで寝るんじゃぞ」

「はいっ、お休みなさいませっ」


 ジグルドが寝息を立て始めたところで、コレットは彼のベッドに忍び込む。

 皺だらけで痩せたその肌は、むしろ気持ちが落ち着いた。



 □□□



 その日の夜、コレットは夢を見た。

 豊かな緑あふれる谷が真っ赤な業火に飲み込まれ、仲間の悲鳴や敵の怒号が響き渡る。

 夜だというのに、昼間のような明るさと喧噪。

 誰が見ても地獄と呼ぶであろう光景が、目の前に広がっていた。


「……コレット、東の森に逃げなさい! あっちはまだ敵の手が回ってないわ!」

「ここは俺たちに任せろ! お前だけでも逃げるんだ!」


 声を出したくても出せない。


(お父さんとお母さんも一緒に逃げよう!)


 そう言いたいのに、喉が潰れたように声が出なかった。

 父と母は襲ってきたマフィアの頭や胴体を吹き飛ばしながら、大量のマフィアに捕まっていく。

 それが、最後に見た両親の姿であった。


 "狼人族"を襲った大規模な奴隷狩りは、コレットの心に深い傷を負わせた。

 マフィアの人数は多く、名の知れた傭兵や冒険者なども奴隷狩りに参加していた。

 対亜人用に開発された魔法や装備は"狼人族"の身体能力に匹敵し、谷に住むほとんどが捕まってしまった。

 その傷は未だ癒えることなく、たびたび夢となって現れては彼女を苦しめる。


「…………はぁっ! はぁ……はぁ……また……あの夢」


 心臓の激しい鼓動を感じて、コレットは目が覚めた。

 喉は渇き、額には大粒の汗が浮かぶ。

 枕元の水を飲み、タオルで顔を拭くと、少しずつ呼吸が戻ってきた。

 窓辺に近寄ると、紺碧の夜空に白い星が瞬いている。

 奴隷狩りに捕まってしまった"狼人族"も、同じ空の下にいるのかと思う。

  

(お父さん、お母さん……谷のみんな……。今どこにいるの……)


 問いかけても返事はない。

 コレットは物寂しく感じるが、ジグルドの静かな寝息がそんな彼女を優しく包み込む。


(この辛い悪夢を見ることは……きっと、もうなくなる。だって、今の私の隣にはジグ様がいるんだから……。待っててね、お父さんとお母さん。私が必ず救い出すから)


 そう確信し、強く誓い、コレットは安らかな眠りに就いた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!

評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。

★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!

ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。


どうぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ